2011年6月7日火曜日

愛とはべったりひっつけばイイってもんじゃない。『たかがバロウズ本。』

クローネンバーグの『裸のランチ』見て、
興味が湧いてウィキった程度の、
にわかですらないバロウズ受容者の俺が読んだよ!
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著者は、現在最高にバロウズの良い日本語訳を出してくれている、山形浩生。

まずちょっとでもバロウズの小説、
例えば上述の『裸のランチ』の元本も開いてみると分かりますが
さっぱり意味が分からん。

文学評論、精神分析、文化研究なんかでバロウズが取り上げられてる事が多いので、
そういう本も少しつまみ食いするのですが、
やっぱり意味が分からん。
何故彼らはあんな訳の分からんものから、そんな意味が読み取れるのか?
俺だって例えば性描写の、もしくは性癖カミングアウトのきっかけになった。
これは分かる。俺だって分かる。
だが「現代社会の醜さを風刺して」るか?
「『男らしさ』という神話の解体」?
「ポストモダンを象徴する、脱近代・脱構築的な、二項対立解体への挑戦をして」いるのか?
カットアップに「教育的効果」なんて感じられるか?
そうした「意味性」を僕はバロウズから見つけることは出来なかったし、小説として彼の小説が面白い、とは思いません。

丁度山形さんが文中で挙げてるような、
ジョン・ケージが『鳴らしている』音、
デュシャンが『創っている』芸術作品、
ウォーホルの『描いている』絵、
これらに、その分野の作品として感動した事は全くありません。
村上隆の作品に、何億も注ぎ込むなんて、バカだと思っていました。
果たして、これらを作品として評価出来ない俺がオカシイのか?

「それでいいじゃん、たかが小説じゃん」
と山形さんはおっしゃってくれています。

バロウズを読み込むには二つのスタイルが必要である事。
彼自身の生き方(ライフスタイル)と文体(ライフスタイル)。
それらを過不足無く混ぜ合わせ、其処に在るものからだけ、判断しろ、というのが彼の主張。
故にこの本はバロウズの作品解説・読解本でも、伝記でも無く、
彼の『すべて』を薄く広く、濃く狭く、上手い具合に要点を押さえた研究書なのです。

文学部、特に英文関係でバロウズを取り扱おうとしている人が居たら、国内での最高の研究書はコレ。必読。
というかコレを読んでしまうと、多分卒論の研究でバロウズを扱う気、失せるんじゃないでしょうか。
語るべきモノが全て語られてるから。
あとはもう、自分が読んだバロウズの感想文でも書くしか無くなるのでわ。

で、山形さんの、本書の著者として重要なポイントは
「バロウズの著書を全部日本語訳したほど彼の作品を読み込んでいる事、また、バロウズの生き方のフォロワ―ではない事」の二点かと思います。
バロウズめっちゃ好きやで!とかいうバロウズファン、流石に僕の同年代ではあまり見かけることはないのですが、彼らの多くは全然バロウズを読んでない、「途中まで読んだ」が共通の話題になる、という山形さんの指摘。

持ちあげる事は簡単なのです。
うわ、めっちゃカッコエエ、って思うには手持ちの中から自分の気に入る素材だけ選び取って、ひたすらその素材について連呼すればイイだけですから。
特にバロウズみたいなカッコいい人間には目ぼしいポイントが多い。
「その生き方の自由さ」
「何にも縛られない姿勢」
「社会的な評価に対する恐れの無さ」
「新しいやり方を第一に示した斬新さ」
えとせとらえとせとら。

本書の後に、バロウズについて語るべきポイントが無くなるのは、山形さんが決してバロウズ好きではあっても『バロウズフォロワ―』ではないから、綿密に作品と向き合って全て把握した上でバロウズについて語っているから、なのです。

「本当に好きなら、私のダメなとこも含めて私を全部愛してよ!」
こういう奴は、男も女も馬鹿です。
でも『本当に好き』ってのはイコール『全面的に受け入れる』という事でもあって。
山形さんの視点は、そういう浅はかな「体しか見ずに」「財力を期待して」バロウズ読者達を笑い飛ばす、強い「愛」があるのです。

バロウズは失敗者だった。
其れは下手なバッシングやイイとこどりフォロワ―からは決して出せない、山形さんの強さを示す言葉の様に思います。

問題はこの本の存在する数と、需要の数が全然釣り合ってない事。出たのは2003年なのに、中々アマゾンマケプレにも上がって来ない。もっと増刷したらいいのに、と思う。単にバロウズ論だけで無く、書評の在り方、人間の在り方を知る事の出来る名著。

2011/10/08 追記:山形さんの公式サイトにて、全文(pdf形式)を無料公開されています。やったね!たえちゃん!読者が増えるよ! こんなプレミア本買えませんよ、という貧乏な文学青年は是非こちらからご覧下さい。http://cruel.org/books/books.html



愛のバランス、難しい。
➼女を追う男、性が呼び起こす恐怖『グッバイ艶』と『密会』

4 件のコメント:

  1. 増刷しようにも、出版社が倒産しちゃってるんですよねー。

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  2. あ…あれ…?山形さん、ですか…!?

    そこら辺、ホイッと他の出版社が引き受けられないシステムみたいのがあるんでしょうか。
    この本、バロウズ好きは勿論のこと、僕の様な「ほとんどバロウズ受容者じゃ無い」という層が読んでも面白い本なのに、後者に一万円で買え、と迫るのはキツイものがあります…

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  3. 特にシステムはありません。売れると思えば引き取り手も出るでしょう。でもちょっとマニアックなものだから。

    でも、pdfで全文フリー公開しているから、お金がなくても読めます。

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  4. そうか…忘れてました。
    本書を購入した後、ネットで色々と情報を見ているとウエーッこれ公式で全文読めるようになっとるがな!!と驚いた覚えがあります。
    アレだけの分量をフリー公開とか恐ろしい試みですよ…

    せっかくなので記事中からリンクを張らせて頂きます。

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