あんまりにも映画が素晴らしかったので、観終わってすぐ書こうと思ってた色々。
新しい日本映画で、こんなに硬派でかつ実験的な作品が産まれたことが非常に嬉しかったです。ディスク出たら買わねば。
杉浦日向子の『合葬』。
上野戦争における彰義隊の中に居た二人と、その友人の、三人の若者を描く、杉浦日向子さんの傑作時代劇です。
いや、時代劇なのですが、江戸末期という時代設定ながら、その三人の若者の「どこにでも居る若者」感を描こうとした所に、「ネオ時代劇」ともいうべき作品。ただ、勝てば官軍なんて言葉の通り、烏合の若者たちの集まりである彰義隊 VS 江戸を乗り越えて来た「強い」侍たちが結成した新政府軍の戦いは、Wikipediaなど見るまでも無く、後者の勝ち。
負けた側の悲惨な景色が、どこにでもある若者たちの姿で以て、より悲惨に読者の心にしみ込んで来るのが、この作品を普遍的なものにしています。
で、その映画のキャスティングがまた良かった。
人間・侍としての能力が高さからか、とにかく意固地な極(柳楽優弥)。
主体性が無く、ただただ流されていく優男、柾之助(瀬戸康史)。
隊に入るために妹との縁談を打ち切った極に怒り、彰義隊への入隊を止めようとして自身も入隊する、少し頭でっかちな悌二郎(岡山天音)。
オダギリジョーも出て来てとてもよい演技を見せてくれますが、なんといっても主役三人がとにかく素晴らしい。
この三人が実によいキャラクターなのです。
柾之助の中の人、俺はよく知らないのですが、イケメン俳優的な立ち位置なんでしょうか?『告白』の岡田将生に並ぶほどの、まぁー腹立たしい優男っぷりを見せてくれるのです。そこを棒と取るか、役にピッタリと取るかで、この作品を名作と取るかどうかが分かれるところかなー、と思いますが、俺はかなりグッと来る配役でした。
また、岡山天音さん。全然知らない役者さんですが、友人二人に振り回される感じは、なんとも素晴らしく「友達」感。
柳楽優弥がずば抜けて上手い感じはあるものの、この三人が作り出す「どこにでも居る若者達」感が、見事な映像化だと思わせてくれました。
また、原作には無かった、「カオス」を表現するシーンのいくつかの追加。
これも個人的には、何かを考えている時の、「気もそぞろ」という思考経路を映像化しているようで、杉浦作品の裏側を流れる不気味さと、監督の小林達夫さんの思考がリンクのように思えました。これはちょっと映像で観てみて欲しいです。
そして、ラストの切腹シーンの、痛そうなことと言ったらもう。
観客は、柾之助と共に震えながら、でもそれを直視しなくてはならない。当事者の痛みと、観客の痛み。柳楽優弥さんの、日本映画史に残るんじゃないかと思しきこの表現っぷりも是非体感して欲しいところ。
で、一部で「音楽が合ってない」という声が聞こえるのですが、俺にはそうした感想の感性とは全く合わなくて、この映像と音楽、合い過ぎでしょ、とビックリしたのです。
「時代劇」では一般的に和楽器を使った勇壮なものか、オーケストラの壮大なものが使われているように思うのですが、本作では何処にも属さない電子音楽を作り出すASA-CHANG&巡礼を採用し、かつナレーションにカヒミ・カリィを採って、ともかく「音のすきま」を感じさせるサウンドに。
エンディングは、ASA-CHANGの代表曲ともいえる「花」に並ぶ、凄まじい威力。時代に揉まれて虚しく消えていった若者たちにあげられる経のように聞こえます。
新規シーンの追加・ASA-CHANGによるBGM・あまり上手くないように見える役者・静けさと奇妙な生々しさが同居する演出、もしかしたら「合わない」人には全く合わないのかもしれませんが、少なくとも俺は傑作だ、と思えました。
ちくま文庫版の表紙にも使われたラストシーン。
静けさと喧しさが同居するスゴい一枚だと思うのですが、それを使用したちくま版は、表紙に「GASSOH」とアルファベットを併記しています。
勝手に俺はこれを、「これは男の生き様や格好良い剣劇を見せる時代劇ではない、時代背景だけ過去の日本のものを借りた、ネオ時代劇なんだよ」という筑摩のアピールだと解釈します。
故に、合葬・杉浦日向子ファンが、この映画を原作の意図を理解してない、失敗だ、等々非難している声を映画評なんかで観たのですが、これは「合葬」ではない、小林達夫の解釈した新たな合葬、「ネオ合葬」なんだよ、と声高に申し上げたいのです。新たな合葬の姿を、元からのファンも、そうでない方にも観て欲しい。2015年ベスト映画です。
この写真が、ほんとキレイなんだよ…。
➼「人間」の定義『楽園追放』『ハーモニー』『星屑ニーナ』
時代劇じゃない時代劇、すき。
➼明治化物草紙『ラスプーチンが来た』
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