うわー!うおー!やったぞー!
ONEさんや、クール教信者さんなど、新都社作家の大物たちが商業作家に近づいていく中、『平穏世代の韋駄天達』の天原さんが、商業単行本出したぞー!
…エロ漫画かい!
でも面白かったので、ちょっと感想を。
天原さん初単行本『貞操逆転世界』は、表題作連作三作、タイトルの通り、貞操観念が男女で逆転してしまった世界の話。
いつの間にか世界間移動を果たしてしまった主人公は、元の世界の観念を持ったまま、女性エロ主権社会での暮らしをスタート。
エロ本といえば男性器が如何にモロ出しか、そんなエロ本を教室で読む女子を見て、女って不潔、などと男子が顔を赤らめる世界。
そんな世界で、主人公は3000円でウリを始めます。格安で買える主人公に対し、終始ムラつく女生徒達は目の色を変えます。買います。
…まー当然ながら俺は「買ったこと」ないので高いか安いかって相場感覚無いんですけど、でも3000円でニャンニャン出来るなら、そりゃースゴイ、スゴイさ。目の色変わっちゃう。エロの大発明です、コレは。
ほんで、クラスメイトとヤンキー二人組と温泉客二人組とがもう主人公とやりたくてやりたくて仕方が無くてそれを食い散らかす、もとい食われちゃうのが、この単行本。常々、エロは見た目では無くシチュエーションだ、と思っていた自分には大ヒットでした。
が。
筒井康隆『脱走と追跡のサンバ』。
今いる世界は、自分の世界では無い、と自覚・発見した男が、本物の世界を求め、世界間移動しまくる話。
最終的には、今居る世界から脱走しようとする主人公・今居る世界に居る原因を作ったと思しき女、正子・主人公を世界を越えて追跡する尾行者、の三人に登場人物が収束していきます。
めくらみがするほどの脱走・追走劇の果てに、ヘミングウェイの「キリマンジャロの雪」(未読)という作品に何故か接続してしまうのですが、そのちょっと前の場面が印象に残ったのでご紹介。
おれたち三人の体は科学知識のヴェールを破り常識の壁を壊して吹っ飛んだ。気がついた時、おれと尾行者と正子はそれぞれ巨大な象となり、半球系の世界の底面を支えていた。おれたち三匹の巨大な象は、巨大な亀の背に乗っていて、さらにそれら全体を一匹の長いコブラが取り巻いていた。
脱走と追跡のサンバを繰り広げていた三人が、巨大な構造物の一つとして合一してしまう。
全てから逃れようとして、世界を構成する大部分である他者二人は自分の一部だと気付いてしまい、「意図せず」一つになってしまうのです。
もうちょっと分かりやすい例を出しましょう。
三島由紀夫『命賣ります』。
コピーライター・ハニオは何の不自由もない生活を送っていたが、ある日、開いた新聞の文字が全てゴキブリに見えたことから、何となく世の中が分かってしまった気になり、生きる必要も感じなくなり、自殺することにする。が、失敗。
なので、新聞広告に命賣ります、と載せてみたところ、次々に、ハニオの命を買いたい人間が現れる、ハニオは何度も命を売るものの何度も生き残り…という話。
生死がどうでもよいので人に自分の生死を預ける、という彼の「生き方」は一種ハードボイルド小説のような雰囲気があるのですが、ミシマが「タダのそんな小説」を描く筈もなく。
小説中に流れる、割と大事な思想。
すべてを無意味からはじめて、その上で意味付けの自由に生きるという考えだった。そのためには決して決して、意味ある行動からはじめてはならなかった。まず意味ある行動からはじめて、挫折したり、絶望したりして、無意味に直面したりするという人間は、ただのセンチメンタリストだった。命の惜しい奴らだった。
戸棚をあければ、そこにすでに、堆い汚れ物と一緒に、無意味が鎮座していることが明らかなとき、人はどうして、無意味を探究したり、無意味を生活したりする必要があるだろうか。
彼が命を売って、仕事に成功して生き残り続けたのは、つまるところ、自分で定めた「無意味からはじめる」というルール付けに成功していたからで、作中において彼は仕事がひと段落して、ある「意味ある行動」を取ってしまい、連鎖的に意味が連なり、死≒無意味に追われることとなります。
偶然降って湧いて出た状況≒無意味を突き詰めていけば、いつの間にかそれが意味≒他者、社会法則になる。
が、無意味に意味≒個人の意図、願望を増やしてしまった時、それは自分の手を離れた怪物のような、個人の手には負えない巨大な何かになっちゃうんじゃないか、と筒井康隆・三島由紀夫の両著は述べているのではないかと思ったのです。
貞操逆転世界はまだ単行本化されてない部分が沢山あるのですが、既に主人公の手に負えない事態に発展する兆しが見えていて、ただ主人公がモテて終わり、でなくて、より体を売っていくために体を鍛えたりとか、稼いだお金で旅行に行ったりとか、露骨に主人公が「無意味への意味付け」を敢行しまくっておるのです。
なんてエロいシチュエーション、素晴らしい発明、とワクワクしつつも、主人公死ね、燃え尽きろ、破滅しろ、などと嫉ましくも思う、面白いマンガです。これって寝取られみたいな感覚ですね…
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