楳図かずお『ねがい』
怖さ:☆☆
造型:☆☆☆
状況:☆☆☆
楳図かずお短編集。
表題作を含め、全体的なんとなく「子どもの頃に感じていた不安」を恐怖へ拡大解釈した様な作品が入り乱れます。
たとえば「ねがい」。孤独な少年の頑張って作った人形が動く様に、友達になったら良いな、と強く願ったものの、その間少年の前に気になる女の子が現れ、人形は放っておかれる。が、へがいは通じてしまい、人形は動く様になってしまう。
決して人形は可愛らしい見た目ではなく、思想・言動の無い「モンスター」でしか無いのですが、でも「友達が欲しくて友達を作った」男の子は「女の子が気になり始めた」のです。人形に襲われながらも、自身も泣きながら人形を破壊する少年の姿。どうにも「子どもで無くなること」と「物も言えずに存在を消されていく人形・モクメ」とに、切ない思いを抱いてしまいます。
また、「絶食」「プレゼント」「鎌」等小気味の良い短編目白押しの中、「Rojin」は「ねがい」と対になる問題提起作。
医療技術の発達した社会、少年の前に現れた珍獣「ロウジン」。どう考えても自分とは違う生き物に見えるそれは、自分も人間だと主張する。
「老いが無くなった世界によって、老いを描き出す」というSF的手法により、老いへの不安という抽象的な問いに対する答えを導き出そうとする文学的作品です。
それらの「不安」は既に大人になった自分にとって「よく分からない未来」では無く、「現実」として目の前にある「問題」になってしまっています。故に怖さはあまり感じない、ちょっとバカバカしささえ覚える楳図作品ですが、けれども「そう」だよなぁと首肯する感じ・全うさは、「ただ面白いだけ」ではないのです。
0 件のコメント:
コメントを投稿