2016年12月17日土曜日

城たけし『呪われた巨人ファン』



城たけし『呪われた巨人ファン』
怖さ:☆☆☆
造型:☆☆☆
状況:☆☆


ひばり書房、様々な角度から「怖さ」を追い求める姿勢があれど、「野球ファン新怪奇」なんて銘打ってるのはこの本だけです。

熱烈な巨人ファン少年・三上ひろしは、球場にナイターの巨人戦をひとりで観に行く。
が、巨人が負け、ガッカリして家に帰る。
しかし、帰宅すると母は「巨人が勝って良かったわね」と言う。ニュースを見ても巨人が勝ってるし、皆「巨人が勝った」という。
誰も自分の意見を受け入れない世界・自分と皆の見ているものが違う世界。ひろしの精神失調が、始まる…。

…野球である必要ねえじゃねえか!!と思わず無粋なツッコミを入れたくなるほど、恐ろしくひろしが磨り減っていきます。たかが「野球の勝敗」で。けれども、それは俺が野球に興味が無いから、「たかが」なのであって、ファンにとっては死活問題なのかもしれません。

その失調っぷりは、正にホラー。
幽霊と会話は序の口、部屋・襖をグチャグチャにし、学校に奇っ怪な顔を描いたダンボールを被って行き、お父さんが「ひろしの言う通りだよ!」と歩み寄ろうとしても全く父の言を信用しようとせず、父の趣味の碁の碁石を「くたばれ父さん」等と並べてメッセージを伝えんとする始末。

一応ひろしの見た幻影・ひろしの様々な見た目がホラーではあるのですが、何よりも「ホラー」なのは「ひろしとのディスコミュニケーション感」。
結局ひろしが見たのは全部幻影、そんな精神状態も一時的な気の迷いでしたー、という展開がホラー的にはアレなのですが、とはいえこの唯一無二の「野球ホラー」、体感して欲しい異常さです。


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