2018年6月12日火曜日

早見純『卑しく下品に』



早見純『卑しく下品に』
怖さ:☆☆☆
造型:☆☆☆
状況:☆☆☆



☆満点作品です!

早見純先生には、別に『純のはらわた』というホラー単行本があり、
また、かなり判別し難いとはいえ、基本路線は「エロ」にあるため、わざわざ「ホラー」として紹介・記載する必要も無いのですが、
本単行本は特にその来歴・単行本群の中においても、随一の恐ろしさを誇るもの故、記録代わりに。

たとえば『純のはらわた』においては、「ホラー」とすべく、やや早見純のエロ要素を糸的に抜いた雰囲気があるのですが、
本単行本収録作においては、何にも制限するものが無い感覚と言いますか、
「フィクションとノンフィクションを隔てる壁をぶち破ろうとする力強さ」が漲っているのです。

早見純作品の中で一番か、と問われると異論を申し立てる人はあろうけど、「陰の方向の私漫画(風)作品」の単行本として、間違い無く日本漫画史トップクラスの作品。

どれも凄まじい作品ばかりですが(内容そのものは、続きは現実で!的おふざけ感のある「一冊二冊惨殺」、タイトルのネーミングセンス!)、個人的には以下の二作品が明らかに他作から抜きん出て「ヤバい」。

生まれた時から、外部の情報を遮断・無人島で二人っきりで生活する親娘?。本などの情報源は与えているものの、それらから「男」という概念を示すページはそっくり抜かれ、
娘は父と性行為を行いながらも、「お前の体は人間として欠陥がある」と教育をされて育つ(父との肉体的性差が奇形故だと教育をされている)。
自分の奇形を呪いながらも、父と違う形で、「性行為が出来る形」であるからこそ、自信の存在意義を見出していた娘は、偶然か思いのためか、凶悪な皮膚病を発し、体が溶け始める。娘の治療のため、島から船を出し本土へ向かう父。
よくぞこんなにもグロテスクな物語設定を思いつくものだ、と震えてしまいました。その残酷なエンディングが幻想怪奇文学的味わいを残す「私のような醜い娘」。

叔父が死んだ後、部屋に残されたノートをたまたま開く姪。其処には、文章と絵とで綴られた、妄想とも日記とも付かぬ恐ろしい「モノ」が残されていた。
残忍に女性を犯し、殺す様子。現実の肉体では不可能な捻じ曲げを施された女性の絵。自身の周囲の、親戚や家族を犯した記録。
…自分にも向けられた凶悪な欲望。
漫画中でノートをめくっていき、少女がそれに対するモノローグを発している、という漫画の構造自体も画期的ですが、その内容のおぞましさに、読者は少女と共に目を背けたくなるでしょう。「ハメ殺しの記」。

作品と作家は分けて論ずるべき、がスタンダードではありますが、
まず「コレを思いつける」段階で、どう柔らかめに見ても早見先生は「ヤバい」のです。
その「ヤバさ」、嘘偽りの無さ、人間・欲望・早見純が描き残されている、汚い漫画集です。
見た目のグロさを追い求めればもっと過激な表現はあるでしょうが、
最初に記した「フィクションとノンフィクションを隔てる壁をぶち破ろうとする力強さ」において、日本の漫画中でもトップクラスの単行本、だと思います。

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