2012年4月6日金曜日

あなたはコレに触れて、変わる?『解剖と変容:プルニー&ゼマーンコヴァー』


中々に、奇怪で、心象風景をそのまま形にしたような威力のある、
ちょっと心にクる絵を観ました。

向かって左面がプルニーの作品、右面がゼマーンコヴァーの作品。

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『解剖と変容』が展覧会のタイトルになっているのですが、
二人の作家のイメージがそれらの言葉を内包するのではなく、
ルボシュ・プルニーの作品が解剖を、アンナ・ゼマーンコヴァーの作品が変容を、それぞれに担当しているような印象を受けました。


ルボシュ・プルニーの作品は執拗な解剖学的イメージが、細く細かい赤のペン画によって、時折そこにコラージュなんかが加えられながら描かれます。
コラージュの素材はキリストやマリアの様な宗教的なモノであったり、
医学書から持って来たかと思われる内臓なんかであったり。

俺が彼の作品で一番ギョッとしたのは、血で描かれた作品。
よく、キャンバスの下にタイトルと使った素材とが貼られてるじゃないですか。あそこに「血」って書いてあったので、ウェッ!?と少し衝撃を受けました。

あと、ヘソのゴマを採取して、年月日毎に並べて貼り付けてる作品。
<<臍の雑誌二号>>というタイトル。
ちょっとジョジョ四部に出て来る、殺人鬼・吉良吉影が切った爪を保管している様を想起しました。

また、自身を被写体として使用した写真作品、「ボディ・アート」も幾つかあったのですが、いささかナルシスティックかつマゾヒスティック。三島を連想しました。

で、彼の作品を通して俺が思ったのは、彼がその様々な作品形態によって、人間の中に在る宇宙、人体の向こう側にある神域に対して近付く毎に打ち震えるような、プルニーの狂喜。
ああ、コレを作ってる人は、作りながら射精しそうな程の喜びに震えながら作ってんだろうな、と思わせる、偏執的な欲望を感じさせました。
・・・うーん、でもあんまり好きではない。


アンナ・ゼマーンコヴァーは、プルニーの様に一作一作に対して熱烈な欲望を感じさせるモノでは無く、『山海経』やボルヘスの『幻獣辞典』の様に、「奇怪な生物たちを集めた」という総体に意味を感じさせる作品群でした。
彼女の描く生き物たちは植物とも動物とも付かない、夢の中に生息しているようなヤツら。

植物・昆虫・細菌・鳥類・爬虫類・両生類・魚類・貝類といった生き物の要素を全て混ぜ合わせたキメラの様な生き物たちですが、不思議なことに何故か哺乳類の要素だけは感じさせない、という。
触った時のぬめっとした感じ、羽のふさふさ、そういった手触りが伝わって来る様なリアルな質感なのですが、体温は無さそうな、不思議な生き物たち。

そうした生き物たちの絵がズラッと並べられているのですが、それが少しずつ、進化というか、変化していく。
彼女自身の手法が、最初はパステルだけだったのが、ボールペンや刺繍が加わってくる。
テオ・ヤンセンという人が「ストランド・ビースト」という自立機動・歩行をする作品群を作っており、彼は新作を作ることを「創造」、「進化」と表現して、その作品群を一種の生態系とみなしていますが、それに近いような。
彼女自身の心の中を蠢く「生き物たち」が少しずつ変容し、彼女自身はその変容・変化を描きとめているだけなのかな、と思いました。


非常に面白い展示だったんですが、今いち俺にはプルニーが「アウトサイダー・アーティスト」という質感では受け入れられませんでした。
アート団体の責任者になってるし、アーティストとして認められながら創作活動続けてるし、これ普通に現代芸術家じゃね?と。
作品の雰囲気も、今一つ「アウトサイド」って感じじゃあないんですよね・・・。

対して、ゼマーンコヴァー作品はアウトサイダーアートらしい一つのモチーフへの偏執的な熱狂が、しかもそれが喧しく訴えて来るのでなくしっとりと沁み込んで来る様な静けさがあって、
正に「美術鑑賞」という時間を過ごせた気がします。

どちらにせよ、最初に述べたようにどちらも心にクる展示ではありました。

俺もそれほど沢山アール・ブリュット作品を観てる訳じゃないので、
是非ともルボシュ・プルニーアンナ・ゼマーンコヴァー、名前を覚えて帰って、また作品が来日する機会に「あなた自身の眼で」、その作品に触れ、解剖し、変容し、解剖され、変容されて下さい。



アウトサイダー・アート、アール・ブリュットについての論考書。
➼孤独の美学『アウトサイダー・アート 芸術のはじまる場所』

アウトサイダー・アートの巨人、ヘンリー・ダーガーの部屋の写真集。
➼「部屋が作品になる」ということ 『HENRY DARGER’S ROOM 851 WEBSTER』


展覧会図録。






1 件のコメント:

  1. 初めまして。トラコミュからきました。
    アウトサイダーアート、大好きです。
    シュルレアリズムの世界も好きです。
    ヘンリー・ダーガーはもちろん、マッジ・ギル、Martin Ramirezもやばいですね。
    直球じゃないのに、触れられない部分に触れられる感じ、本当の人間の生々しさが大好きです。
    わたしも、ブログでちょこっと、公開してます。

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