Subbacultcha

「サブカルチャー」という括りの下、文学・芸術・漫画・映画等について述べます。

2011年12月20日火曜日

「部屋が作品になる」ということ 『HENRY DARGER’S ROOM 851 WEBSTER』

ヘンリー・ダーガーという作家・画家が居ました。
厳密には作家でも画家でも無い彼は何故「ヘンリー・ダーガー」として名前が残っているのか。

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1973年4月13日、シカゴにて、81歳の老人が亡くなりました。
彼の名前はヘンリー・ダーガー。
アウトサイダー・アーティストとして名が知れ渡る人物です。彼が「アウトサイダー・アーティスト」と呼ばれる所以は、彼が自室で誰にも公開することなく、一つの世界を創造し続けていたから。

本書は、彼が人生後半の40年を過ごした部屋の写真を集めたものです。
納められているのは大家のネイサン・ラーナーが部屋の整理のためにダーガーの部屋を訪れた際に撮られた白黒写真と、彼の没後、この部屋の撤去が決まったあとの1999年に「朝日ジャーナル」の取材で訪れた四方田犬彦さんに同行した北島敬三さんが撮ったカラー写真、そして、たった3枚しか残って無いダーガー自身の写真。
 シカゴ市内ウェブスター通りにあるタウンハウス、851号室。
生前この部屋に訪れるのは近所の牧師くらい。彼がこの部屋に何を置いているのか、何を作り続けているのか、誰も知ることはありませんでした。
身寄りのないダーガーが老人ホームに移るために部屋を去り、大家のネイサン・ラーナーが片付けを始めたところ、そこにとんでもないものを発見した。

非現実の王国で』。
そんな題の付いた小説15巻と、その挿絵数百枚。
 ネイサンが著名な写真家だったがために、他の人が大家であればゴミとして捨てられていたであろうこの「作品」に、ネイサンは価値を見出して、部屋の片付けを中止した。

その後、彼の作品、彼が作品を作るために集めた素材、部屋に在ったモノ全てを含めた「部屋」は、2000年4月13日に撤去されるまで、27年にわたって保存されました。

何故、部屋が保存されたのか。
それは彼の現実が其処に在ったから。

斎藤環さんがこちらの講演でおっしゃっていたように、
既存の芸術表現が制作者の頭の中身を現実の世界に移す、つまり「現実化」を目指すのとは違って、ダーガーのようなアウトサイダー・アーティストと呼ばれる制作者たちは、その作品世界が存在することは既に自明のことであって、それを実在化することを目指します。


其処に存在する問いは如何に作るかではなく、如何に触れられるようにするか、という生々しさ。


本書を覗くと、その制作の一端、人生を全て注ぎ込んだのだという重みが伺えます。
勿論、「非現実の王国で」は彼の作品なのですが、鑑賞者たちにとっては、彼について知れば、彼のバックグラウンド、彼が作品制作のために集めたモノ、彼が作品を作り続けた環境、この「部屋」も含めた全てが芸術品となることが理解出来る筈です。

既存の雑誌の特集や画集『非現実の王国で』収録の文章よりも、大家、ネイサン・ラーナーとその妻キヨコ・ラーナーの話が含まれており、一層「彼がどんな場所に居たのか」を本書で知ることが出来ます。
何処まで行っても、僕達ダーガーファンは彼と彼の人生を傷付ける冒涜者でしか無い。
そうした自覚を持っていて、それでも彼の現実を知りたい、彼の生活を、彼のことを知りたい、と願う、人間としては屑みたいなファンにとっては、本書は『非現実の王国で』と併せて持ちたい一品です。



2011年ヘンリー・ダーガー作品来日展の感想。
➼僕と共犯者に成りませんか?『ラフォーレ原宿:ヘンリー・ダーガー展』

ダーガーフォロワ―でもある、日本人女性漫画家の描く、変で残虐で少女趣味な世界。
➼ずんどこ耽美、ポップに残酷を楽しむ『創世記』


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