2012年5月23日水曜日

「空気読め」の対極、私は「デクノボー」になりたい『月光条例 18』


どうやら当ブログ百個目の記事の様です。
今回はこちらの『月光条例 18』を、ご紹介します。

個人的にはクリティカルヒットな巻でした。
センセイ編、終了です。

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『月光条例』18巻は、前巻からの続きで、過去編です。

青い鳥の主人公・チルチルは、青い月の光によって狂い、自身の物語を飛び出しました。
そして様々な物語を練り歩き、様々な世界を知り、その世界に干渉しようとするも、何も変える事は出来ず。自分の無力さに絶望します。

彼の絶望を癒すために振られた「うちでのこづち」の力で、
彼は更に物語の世界を飛び出して、人間界へ。

チルチルはそこで、農業の傍ら、物語や詩を書いて生活をする「センセイ」という人物に出会います。実は彼は、青い月の光で狂ったおとぎばなしのキャラを正常な状態に戻す「月光条例」の条例執行者で、重病にもかかわらず、「最後の執行だから」と無理をして出陣していきます。

最後の条例執行の相手は、オスカー・ワイルドの『幸福の王子』より、「王子」。
彼との闘いを終え、帰って来たセンセイは、病気の為にまた床に伏せます。
その場で、センセイは、これまでのチルチルのことを知っている、と述べます。
誰も救えなかったチルチル。
自分の一番したかったことが出来なかったチルチル。
彼のことを、センセイは「ホメラレモセズ」「クニモサレ」なかった「デクノボー」だと形容します。それは決して彼を傷付けるための言葉ではありません。

これからもチルチルに強く生きていって欲しい、と。

月光条例を最後まで執行し終えたことで、執行者はうちでのこづちに願いを一つだけ叶えてもらえる、という報酬が。
その受取場所として、センセイはかつての職場・小学校に自分を連れて行くよう、チルチルに頼みます。

チルチルと、センセイに良くしてもらっていた女性・高瀬露は、それでセンセイの病気が治せる、と考えて喜び合います。
けれども、センセイの言葉の端々には不穏な空気が漂う。

いざ願いを叶える段になり、突然先生は『幸福の王子』の話をし始めます。

宝石や金箔で着飾られていた、街の人々に愛される像。
けれども彼は一羽のツバメに頼み、自分の装飾品を町の人々に分け与えます。
結果、街の貧しい人々は救われるのですが、手助けしてくれたツバメは冬の寒さで死んでしまい、王子自身もみすぼらしくなった、と市会議員達に撤去されてしまう。

センセイは彼を、自分に与えられた役目を忘れた、愚かなデクノボーだ、と言います。
けれども、自分も彼の様に在りたい、と。



センセイが、願いを自らの病気を治すために使おうとしないことに気付き、チルチルは止めようとしますが、


そんなチルチルをセンセイは避けて、「チルチルを救う為のある願い」の為に、うちでのこづちを使ってしまいます。


つまり、センセイの死が、これによって確定してしまった。
チルチル・高瀬露・ハチカヅキの三人は嘆き悲しみますが、そんな三人をセンセイは歌でもうたって送り出してくれ、と教室のオルガンを自分で弾いて、三人に「蛍の光」を歌わせます。
今日が自分の卒業式だ、と。

後日、雨の降る日、センセイは息を引き取ります。
病床で最後に考えていたのは「デクノボー」について。

もう思い残す事は何も無い。
思えば今まで自分は何を成すことも無い、デクノボーだった。
様々なことに手を出して、結局何一つ一流にはなれなかった。
でも、それでも、自分なりに精いっぱい生きて来た。
デクノボーなりに、いっしょうけんめい。
自分の「物差し」で計った最高のことを、自分の足で。

今までのチルチルは、結果的には何も為せなかった。
でも、その「何か」、自分の良いと思ったことを、チルチルは躊躇い無く、行って来た。
普通の人は、自分が何かをする時に、それが他人にどんな影響を与えるかとかそれについて自分がどう思うか、ということを考えてしまう。
でも、チルチルにはそれが無い。全身をただ一人を救うためだけに、捧げることが出来る。




俺は、ここでリンクし過ぎて、泣いてしまいました。
他人にどう思われようと、「空気を読め」「そういうもんだと思え」と怒られても、
自分の「良い」と思う事が出来る人間でありたい、なろう、と、
今まで俺自身が生きて来たからです。
俺も、それで何事かを成した訳でも無く、評価をされたこともほとんどありません。
けれども、人からデクノボーと呼ばれても、信じていたいモノが、在るのです。

社会を支配する見えないルール、「空気」、もしくは「和」。
これに対してセンセイが、藤田和日郎が、宮沢賢治が、一つの価値観を提示してくれたことが、泣くほど嬉しかったのです。
俺も、「デクノボー」で在りたい。



そして、センセイの退場。ああ、イイ退場シーンだなぁ。
藤田作品の退場の場面は、本当にイイものばっかりです。
今でもとら、ヒョウ、秋葉流、人形・フランシーヌ、パンタローネとアルレッキーノ、コロンビーヌ、ジョージの退場場面は忘れられません。

そして物語は、現代・アラビアンナイトの世界へと戻り、「チルチル」は「月光」になり、「トショイイン」工藤さんは意味深な話を振られ、もう一人のチルチルとその一味との闘いが始まります。

『千夜一夜物語』の語り手、シェラザードが敵として現れ、一体これをどの様に攻略するのか、ってところで次巻に続くようです。


もう一つの山場・14巻の感想。

「質の良い少年漫画」が好きな方へ。










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