2013年6月13日木曜日

諸星テイストな絵で画太郎展開『燃える仏像人間』


先輩が「きっとお前は好きに違いない」って連れてってくれた映画が面白かったので。
一応アニメーション映画で、絵柄としては諸星大二郎の描く妖怪チックな、ストーリー展開はアメリカB級ホラー映画テイストというか、画太郎先生の漫画の様な、ぶっ飛んだものでした。
(※以下軽いネタバレアリ)

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ヒロインの女子高生・紅子(CV:井口裕香)の家は寺。
ある日、彼女の寺に謎の人物が現れ、寺の仏像を盗むとともに、彼女の両親を惨殺。
彼女の身柄を、一家の旧知の間柄である円慶寺の住職・円汁(CV:寺田農、ムスカとかやってらっしゃる方)が引き取ることに。
円慶寺を訪れた紅子は、其処に住まう異形の小坊主たちに恐れおののく。円汁と円慶寺に不信感を抱きつつも、円慶寺を散策する紅子。
たまたま彼女が入ってしまった部屋には、両親と自分の寺の仏像とが融合した様な奇妙な物体が在った…

…ヒロインが井口裕香って!
こりゃあ美少女に違いないわい!と鼻息を荒くして見た俺が見たものは!

紅子(CV:井口裕香)

・・・怖い!!

初っ端から両親が殺されるわ、残ったおばあちゃんは寝た切りだわ、何考えてるかよく分からんお坊さんにワケの分からん寺に連れて来られるわ、その後も紅子ちゃんは不幸を悪ノリの様にポンポンポンポンぶっかけられまくるのですが、今一顔が怖いせいで、同情・共感しにくい!
常々「萌えなんぞは現実から逃げたい弱々しいものの甘い逃避先」などと頑として見下す俺も、もう少し萌え絵柄だったら良いのにな、等と弱音をポッカリ心の中に浮かばせたくなるほどの、恐ろしいお顔のヒロインでした。


そして、彼女を時として襲い、時として助けてくれる「仏像人間」たち。
「仏像」と「何か」が融合して、「仏像人間」として成立する彼らは、決して妖怪ではありません。「仏」なのです。
「仏設定」故に、「悟りを開いているから、常人の1.2倍待ち時間に耐えられる」とか「三回までならなんとか許せる」とか「殺生出来ない」とか「情欲(マーラ)と闘ったりする」とかもう仏ネタのオンパレードですよ。
映画化にあたって、宗教ネタを一掃した某人気宗教ギャグ漫画にも見習って頂きたい姿勢です。観てないけど。

で、紅子ちゃんもまぁこの登場人物の中だったら結構可愛いかも、声優の力ってすげー!ヒロインとしてアリかなー?って観客がちょっと慣れて来たと思ったら、紅子ちゃんも剃髪・仏像人間化ですよ。ただでさえ恐ろしかった顔が、ほんとにもう妖怪化ですよ! 仏か。

彼女が泣きながら剃髪するシーンは、近年の邦画でも屈指の迷シーンです。
キーキャラクターが、目覚めよ!とか何とか言って彼女に遺したものを見てみると、バリカン。何の特殊能力がある訳でも無い、ただのバリカン。勝手にブィーン!と鳴り出すバリカン。でもバリカンには「諸行無常」の印字が。泣く泣く髪を剃り落す紅子。
爆笑しました。

で、この映画、一応アニメーション映画なのですが。
諸星大二郎・藤田和日郎辺りの漫画がアニメ化されたら、それはそれで嬉しいんだろうけど、でもされないで欲しい。何故かといえば、彼らの「絵」は、「そのままの絵」で動かすのが困難だろうから。「アニメ化絵柄」でアニメ化されたら、多分凄く「嫌な感じ」になると思うんです。
で、このドロッドロの、グニャッグニャの、およそ「アニメ化」に向かないであろう絵柄の、『燃える仏像人間』が取った手法は「劇メーション」。
切り絵を背景の上で動かして、それを撮影する、という。
この手法、アニメーション映画としてはかなり「アレ」ですが、でもこの映画に限って言えばその「アレ」な感じがフィットしてるというか、変な雰囲気を更に盛り上げているのです!

変な雰囲気と言えば、ストーリーの乱暴さも魅力です。
「えー!?なんで!?」「もうワケが分かんないよ!」と叫ぶ紅子に対して、納得出来る答えを提示して来るキャラはほとんど居ません。
さっき「殺生は出来ない」って言ったヤツがバリバリ殺しをしたり、明らかに一般人の筈の看護婦たちの中に化け物が混じっていたり、説明も無く「仮想仏陀」なる謎の世界に送り込まれたり、何故生物と非生物が融合出来るのか説明が特に無かったり、無駄に乳首が光ってたり。
あまりにワケの分からない、不条理パワープレイ展開は、画太郎先生の漫画を読んでいるかのようでした。
観た後、もう一回あの変な絵を観て楽しみたい、と思って俺はパンフ買っちゃいました。

後日、諸星ファンの女性に、この絵を見せながらこの映画の魅力を語ったところ、「私、そういう怖いのはちょっと…」って言われました。なんでじゃ。

ともかく、諸星大二郎・楳図かずお(監督がリスペクトとして挙げている)作品の雰囲気が好きな人、不条理と日常とが不可分な人、井口裕香もしくは稲垣早希の大ファンな人は観るべし、って映画ですよ。
間違っても、仏像ファン・仏教ファンの方々は観ちゃ駄目です。「仏像が出るって言ったじゃないか!!」とか怒られても、俺は何の責任も持てないです。

監督・宇治茶さんのHP。なんというアングラ感。
STUDIO EMBOLUS


京都っていう土地柄が、やっぱりこういう変なものを生み出し易いんですかね。
➼僕らの路地裏戦争『堀川中立売』

伊藤潤二さんも、よくギャグかホラーか分かんなくなります。
➼恐怖と狂気とギャグの狭間で『怪奇カンヅメ』

音楽すげぇ良かった、サントラ買おうかしらん、って思ったらなんだこのジャケット


走る蛇人間。




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