2014年12月24日水曜日

このマンガがすごい2014(ダーク編)


なんか今年もたくさん漫画読んだなー、漫画ばっかり読んでたなー、と幸せなような暗いような何とも言えない気分に囚われながら年末を迎えんとしています。
「このマンガがすごい 2015」は男編の一位が『聲の形』、女編では『ちーちゃんはちょっと足りない』。…なんとも仄暗いランキングですね…。世間様では「痛々しいもの」が台頭している、ということなんでしょうか?

ゴーストライター、アベノミクス、STAP、増税、ペヤング、危険ドラッグ、矢口、「なんべんやってもなんべんやっても、おんなじやおんなじや思て」…。

そんな暗い年に、己の中での「このマン」を決めてやろうと思います。本家と同じく、対象は「2014年中に出版されたマンガ単行本のみ」
あと、本家サマは「来年このマンガが流行る」的な意味合いで、「このマンガがスゴい(次の年に)」というタイトルになってますが、俺はトーシローなので、「(2014年に読んだ)このマンガがスゴい」という意味合いも含めて「2014」を名乗っています。間違えてる訳ではないので悪しからず。
それから「ダーク編」はまぁ、そんな対した意味は無いです。俺と同じくネクラな人が読んだらグッと来るかも、くらいに思ってもらえれば。

長ったらしい前置きはそれくらいにして、チャキチャキ紹介していきます。
本家でランク入りしたマンガは入れてないはずですが、熟読してはないので紹介されてた本は入っちゃってるかも。
なお、ベスト3以下は同着、ということで順不同です。

狙ってた訳ではないのですが、遅筆故に奇しくもクリスマスに投稿、という。
メリー苦しみます!

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吾妻ひでお / カオスノート
『不条理日記』『夜の魚』に連なる、吾妻ひでおシュールギャグ集。言ってしまえば「もう一回不条理日記が出た」だけなんだけども、何かが「今っぽい」のです。『不条理日記』中にも死や鬱は混ぜ込んであったはずなんですが、『カオスノート』はよりその色が濃く、『不条理日記』『夜の魚』を吞み込んだ「吾妻ひでおの今」が感じられる、せいなんだろうか。
しつこくタイトルを出しますが、そんなに俺は吾妻ひでおマニアという訳ではないので読んだら手放すことが多いんだけども、『不条理日記』『夜の魚』そして『カオスノート』は生涯に何度も読む吾妻作品かも、と思いました。





・伊藤潤二 / 魔の断片
帯にもあるように、伊藤潤二8年ぶりのホラーコミック!
個人的に伊藤潤二さんのマンガに求めるものの一つに、「想像を越えたイヤさ」ってのがありまして、まさかこんなことは起こるまい、起こったらすっげえヤダな、という世界を視覚的に味合わせてくれて、わーもうこれイヤ過ぎ!イヤ過ぎて笑う!みたいな感覚が伊藤潤二ホラーの楽しさ・面白さだと思うのです。
俺の思い出(トラウマ)に残るイヤさの一例として、夢から覚めなくなっていくと同時に現実の身体が異常に変化していく「長い夢」、デブの兄ちゃんの顔から絞り出された脂が雨の様に降り注いでくる「グリセリド」。
こんな過去のイヤさに匹敵するイヤンホラー漫画、今回の単行本にもあるのかな、とワクワクしながらページをめくると、今回のにもありましたありました、イヤァーなやつが!

 




魔女のような女に魅入られてしまった、と思ったら、首を切られてしまった!自分の頭を常に支えてないと、首が落ちて死んでしまう!どうしよう!という状況の下、魔女がどんどん酷いことをしてくる話。
で、首の切り口にゴキブリを入れてくる訳ですね。首の接合面で蠢蠢するゴキ。ウワァーッ!!ほんと、今年はゴキブリ流行でしたね。テラフォーマーズのアニメ化、ペヤングのゴキブリ混入、食品会社各社のゴキブリ混入、とどめがこれですよ。このイヤさ、ぜひとも年が変わる前に、ライブで体感して欲しいです。




・史群アル仙 / 今日の漫画
平成生まれながら「昭和マンガタッチを現代に蘇らせる」を掲げて活動するイラストレーター・漫画家。Twitterで話題になり、単行本化へ。
絵柄は手塚治虫・石ノ森章太郎・永井豪・吾妻ひでおなどを思わせる、デフォルメの利いたかなり上手い絵。1ページ・1コマで生きることの絶望・希望をジワッと胸に呼び起こすストーリーセンスも素晴らしいものがあります。また、敢えて手塚的な擬人化で動物や無機物を描くことで、あからさまな人間臭さを卒なく読ませる手腕に、逆に目新しさを感じました。
なんかもう、人間の体が千切れたり、人間関係が千切れたりしてハラハラドキドキ、みたいな過激なマンガ流行に疲れてしまったあなた、もしくは毎日生きるということに疲れてしまったあなた、ぜひともこの「優しさ」に触れてみるべきです。
表紙に使われてる1コママンガも、するりと作者の技巧を味わえる名作ですが、以下は個人的にかなり好きなヤツ。




・位置原光Z / アナーキー・イン・ザ・JK
とにかく女の子を描きまくる作家さん。以前からコミティアなんかで活躍されてたものの、ようやく単行本が。
とくにネーム的なものを描かないらしく、描きながら話を考えていくというスタイルが、ストーリーにもの凄い躍動感を与えちゃってます。その変な勢いのあるショートストーリーと、無意味にテンションの高い女子高生の「若さ」とが相まって、とても気持ちがいい雰囲気があります。吉川ちゃんモノアイ可愛い。
読みながら、女子高生の可愛らしさというか魅力みたいなものは、若さ故の無軌道さみたいなところにあるんだなぁ、と実感しました(二次元なのに)。

そこはかとなく滲み出るエロスもまた、勢いで出て来てるせいか「そこはかとなく感」が素晴らしい。
いやなんかね、「漫画」というフィクション体なのに、「作られた感」がないんですよ。その自然さが何とも魅力的な作風なのです。あ、これアレだ、AV女優がセーラー服着てても何も思わないのに、女子高生が歩いてるだけで興奮とかしちゃうヤツだ!!(ギリセーフな発言)
「このあと滅茶苦茶ビーム出た」って絞め方、スゴい好きです。


・阿部共実 / 死にたくなるしょうもない日々が死にたくなるくらいしょうもなくて死ぬほど死にたくない日々

死にたくなる系でこれを選ぼうか『空也上人がいた』を選ぼうか、もしくはタイトル長い系でこれを選ぼうか『でっどでっどデーモンズデデデデストラクション』を選ぼうか悩みましたが、得票数2でコレに。
雰囲気としては「空灰」とほぼ同じような、若者の日常を主題として、時折ファンタジーが入り交じるような。「空灰」よりはやや救われるような話が多く、かつファンタジックな話も少ないから、タイトルとは逆に「地に足のついた、生き辛い人たちがちょっと救われるショートオムニバス」なのかなー、となんとなく分かったような感じで居たのですが、
あー!やっぱぶっ込んで来た!阿部先生ぶっ込んで来た!すっげぇ辛い話ぶっ込んで来たよー!すっごい死にたくなる!死にたくなる!やめろめろ!辛い!

でもまぁ概ね、ちょっとニヤッとするくらいの話が多いです。身の回りに佐々木さんみたいなエロいお姉さんが居たら良いな。



・宮崎夏次系 / 夢から覚めたあの子とはきっと上手く喋れない
『変身のニュース』で突如現れた俊英による3冊目の単行本。西島大介や現代美術の真珠子、はまぐちさくらこ等を思わせる強烈なデフォルメと、猛烈に変なのに一本優しさの筋が通ってる温かいシュールさ。人によっては「サブカルくせえ!イヤ!」と拒否反応を示しそうな感じがありますが、3冊目の本作は前2作よりも少し現実にすり寄ってるので、見た目で判断せずにちょっとつまみ食いしてみて欲しいです。
父親が死んで、母親は最悪の人間で、好きな女の子の存在だけを糧に生きる少年の話、父親が「犬」になってしまった一家の話、「悪」を共有した学生時代を通過した社会人二人の話、一見無感情な生徒会長が、実は簡単に一喜一憂する自分を発見する話、などなど、表面上は変なアクセントが利いているのですが、その実非常に分かりやすいヒューマニズムが、爽やかで心地いい。
何と言っても表題作「夢から覚めたあの子とはきっとうまく喋れない」のワンシーン、ハッとするほど幻想的なのに、中身はすごく俗っぽくて、ゾクゾクします。



・山田穣 / がらくたストリート 3
俺も多分去年辺りに会社の先輩が貸してくれて読んだマンガなのでにわかなのですが、前の巻から出るまで3年かかったマンガ。3巻完結。もっとこの世界に浸りたかったのに…。
マンガのジャンルとしてなんとも一言で言いづらいマンガなのですが、宇宙人やら神様やら、ハイスペック過ぎる小学生やら、幼なじみの女の子のことが好きな幼馴染みやら、学校の屋上でゲリラライブやバイクとタクシーとの峠のカーチェイスやら美味しいチャーハンの作り方やら出てくるのですが、日常系ちょっと日常系とも言いがたいので、子どもやオトコのロマンがいっぱい詰まったオタクうんちくマンガ、とでも言いましょうか。

そうしたノンジャンルマンガにもかかわらず、作者が変なところにすごい力が入っていて、ページによってはもの凄い書込み量になっています。

で、何を登場人物達にやらせるかっていうと、学校行事だったり、遊びだったり、アウトドアだったり。
でもそれを余す所なく描いているがために、なんともキャラクター達が楽しそうなんですよね。西尾維新ばりにオタク的知識満載の(アニメ、音楽、民俗学、歴史など多岐に渡る)無意味な会話をしまくるところも、読んでるこっちまで楽しい。「マンガを読む楽しさ」、いや、「マンガを読む幸せ」みたいなものが味わえるマンガなのです。
3巻で終わらせちゃうの、ほんと勿体ない…。同時期に『昔話の出来るまで』という短編集が一緒に出ましたが、こちらもファンタジーありSFありの楽しい会話劇なので、まずはこちらを読んで気に入ったらがらくたへ、というのもアリでしょう。
ちょっと興味を惹かれたようなら「チャーハン コツ マンガ」でググってみることをお勧めします。
あ、あと女の子がやけにエロいので、某かの妄想をかき立てられたら「ZERRY藤尾」で検索をかけるのもよいでしょう。

こちらもどうぞ。


はい、それでは以上7作品でした。ベスト3行ってみましょう。


第3位
・堀越耕平 / 僕のヒーローアカデミア
「このマンガがすごい」に何故か選ばれなかったジャンプマンガ。いや、これ多分アニメ化すぐするんじゃないですかね。
「才能」「血統」が勝利の鍵になってしまう『NARUTO』が退場していくと共に、「全く才能のない主人公」を主役に据えることでメキメキとファン層を広げつつある作品。

生まれながらにして異能の力を「個性」として持つ人間が人口の八割、という世界で、ヒーローに憧れながら、何の個性も持たない主人公。緑谷出久という主人公は、頭が良い訳でも運動が出来る訳でも女の子にモテる訳でもなく、ひたすら冴えないのです。開始時に「何も持ってない」という悲しさ・切なさ。ジャンプ漫画を見下す訳では無いんですが、ジャンプ漫画で中々これだけ胸が締め付けられる「泣く主人公」は居ないんじゃないか、と思いました。

圧倒的な「個性」達に対して、主人公が出来るのは「努力」。努力が報われて個性を手に入れるも、それですぐさまパワーアップという訳でもなく、やはり「努力」。
ワンピース、ナルト、ブリーチといったジャンプの看板作品たちが、結局勝因を「才能」「血統」に求めていく中で、逆に「ヒーローアカデミア」こそが「友情」「努力」「勝利」を本当に実現するジャンプ名作となるのではないか、と期待の眼差しで見つめていきたいと思います。




第2位
・都留泰作 / ムシヌユン
これは何だろう、と諸星先生。完全同意です。
生きづらさでは「死に日々」「ヒーローアカデミア」どころではない、院試失敗社会人経験無しコミュ力なしのニートドーテーオトコが主人公。まずこの点が、主人公の存在の崖っぷち感を煽りまくっていてスゴく怖い。怖いのに、どうしようもない感じが、ホラーともギャグともつかぬ「ヤバさ」を産み出しています。

で、行き場を無くして、東京から故郷の沖縄へ帰ってくるも、女で一つで主人公を育て上げた母は、もうここはお前の帰ってくる場所じゃない、と激怒、本当にどうしようもなくなり、死を考えるも、せめて童貞卒業してから等と考えていると、不可解すぎるイベントが起き…

2巻へ続く。
ただ主人公を描写し続けるだけでも不安だというのに、これ一応「SF」みたいな話なんですよね。でも「何」が起きてるのか、それを説明出来る人間も出て来ないし、主人公も分からない。
存在の不安が、色んなギミックに強化され、巨大な化け物になっていくような話。
生きづらい人間が、ともかく状況にもみくちゃにされ、訳が分からない巨大な流れが、ただ「終わり」に向けて収束していく。町田康なんか好きな人が読むと、ガツンとくるものがあると思います。これは本当にエンディング楽しみ。
こんなに勢いのある漫画が「このマン」に選ばれなかったのは不思議。

こちらもどうぞ。作者の前作は、現在ほぼ電子書籍でしか読めず。




第1位!!
・ビッグコミックオリジナルゴジラ増刊号
 単行本のみ、とか自分でルール設定しといて自分で破ってどうすんじゃカバチがあああああああ

・・・いや違うんです、ホントこれはこの年のベスト漫画として紹介しなくちゃいけなかったんですよ、コレは!!

高橋留美子・浦沢直樹といったビッグネームが名を連ねており、はいはいどうせイラスト寄稿みたいなしょうもない企画雑誌でしょ、とスルーしかけていたところ、諸星・花輪先生のお名前が!!
いや、でもでも、どうせその作家タッチでゴジラを描き直すみたいな企画でしょ!!と勢い込んでググったら、違う!ちゃんと漫画が載ってるらしい!!うおおおくそこれもうコンビニ無いんじゃないか!?と仕事が終わった途端自転車で夜の街に殴り込み、コンビニを巡る巡る、10件くらい巡ってあった時は思わず頭の中で雄叫びをあげました(コンビニとはいえ外ですし、大騒ぎしたら迷惑ですからね)。

諸星大二郎「ゴジラを見た少年」。
「災害」を「ゴジラ」と見立て、起きたことと未だ見ぬ将来の恐怖を描き取った作品。諸星ゴジラは必要以上に恐ろしく見えますが、それすら話のための伏線。
具体的にゴジラが何かする訳ではなく、「少年にしか見えなかったゴジラ」というところがキー。話の中で、少年は「地震」と「原発」をそれぞれゴジラの脅威と捉えるのですが、「来るかもしれない不安」を諸星先生はゴジラの属性と見立てます。
単なるゴジラタイアップ漫画ではなく、変に説教臭くも無い。諸星先生の問題意識と、ゴジラという題材がカッチリ噛み合った、名作コラボ漫画です。

花輪和一「ゴジラの国」。
おじいさんが、趣味で作り続けて来たプラモデルをゴジラ(人間大)に破壊し尽くされ、普通の漫画ならグチャグチャになって悲しい、で終わる所を物欲から解き放たれた老人が涙ながらにゴジラに感謝する話。ゴジラ、という一見有名過ぎて引っ張られそうな題材に対して、いつも通りのちょっと宗教臭い花輪節をガンガンに飛ばしていく力技っぷりは流石。
人間大のゴジラが当たり前に登場し、当たり前に破壊の限りを尽くしていく様は爽快感すらあります。
作中のおじいさんと共に、ゴジラに感謝感謝。


という訳で、「このマン」とは少し違うランキングとなりました。

『魔の断片』しか載せてませんが、個人的に今年はホラー漫画が非常に盛り上がった年だったなぁと思いました。
伊藤潤二が『魔の断片』『溶解教室』と久々のホラー単行本を2冊、水木プロに居た森野達也も新作を2作、呪みちるの過去作が傑作選として新たに読める様になる、ひよどり祥子「しびこえ」人気作化、犬木加奈子過去作がコンビニ本で復刊、川島のりかず『中学生殺人事件』高値更新11万円で落札、諸星大二郎単行本に「BL」という最近の単語が登場等々…
来年もホラー漫画、もとい暗い漫画がガンガン読めたらいいなー、とちょっと選んでみて思いました。

メリークリスマス。
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