2015年1月10日土曜日

猫可愛い。『黒い破壊者』

最近ヴァン・ヴォークトの『モンスターブック』

を読んで、他のも読んでみたいなーと思ってた所にこのアンソロ。読んでみました。
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編者の方が動物が大好きで、「生態学SF」というものも大好きで、おまけにSF博物誌的なものを作り上げたい、という思いから出来たアンソロ。確かに愛と工夫の感じられるアンソロで、収録作や並びにかなり意図が入り込んでいる感じで面白かった。

アンソロとかDJとか、もしくはチーム作りとか店頭レイアウトとか、そうした「バラバラ」を「意図を以て並べ直すこと」は、もう立派に作品制作みたいなもんで、その編者の人となりが見えて来るこんなアンソロ、大好きです。

●リチャード・マッケナ「狩人よ、故郷に帰れ」
本書で初邦訳。本書中でも「世界を二つ創造している」という点でもっとも壮大な作品。植物と動物の中間のような植物・フィトとそれが属する樹の世界、成人の儀式で殺すための「グレートラッセル」をどうしてもそこで養殖・繁殖させようとする社会集団。
後者がことごとく前者に敗北して行く話。前者は明らかに「人間の敵対」として描かれるのですが、後者の人間達が敗北して行く様は不思議と痛快です。
結末に言及するとネタバレになるので詳しくは言いませんが、最近見たOf Monsters And MenというアイスランドのフォークロックバンドのこのPVに似た、快い読後感が残るエンディング。


●ジェイムズ・H・シュミッツ「おじいちゃん」
ある一つの惑星における架空の生態系を一例をもとに解き明かすような、編者が「生態系SF」と呼ぶ作品群の代表作として本書に選ばれた作品。
『平行植物』『鼻行類』『秘密の動物誌』といった本を小説にしたような、未知へのワクワク感がたまらない作品です。生態系の紹介にとどまらず、冒険小説的なスリルもアリ。


●ポール・アンダースン「キリエ」
ひょっとして市川春子さんの『虫と歌』に収録されてる「ヴァイオライト」ってここから着想受けてる?と思ってしまった、ロマンチックなエネルギー生命体と人間の交流。

…だと思っていたら世にも奇妙な的な大どんでん返しが待っていてのけぞりました。こいつぁヒデエぜ!(褒め言葉)

●ロバート・F・ヤング「妖精の棲む樹」
ファンタジー好きなら一度は夢想するであろう「世界を覆うほどデカい樹の広がる風景」に、文字通り突っ込んで行く話。それプラス著者の日本での代表的作品となった「たんぽぽ娘」的な、萩尾望都などを思わせる少女マンガチックな雰囲気。
雄大な風景が思わず頭の中に再生されてしまうのですが、その「妖精」との交流というかコミュニケーションがなんとも空しさを覚えてしまうエンディング。

●ジャック・ヴァンス「海への贈り物」
「デカブラック」なる海洋性宇宙生命体との、言葉を用いないコミュニケーション。異文化交流って難しいよね、のもうちょっと前段階の話で、果たして相手は知性体なのか、コミュニケーションをとれる相手なのか、というところでドキドキするシチュエーションです。デカブラックのイメージとしては、ウルトラマンレオに出て来た赤いてるてる坊主みたいなヤツ(今ググったら円盤生物ノーバって出てきました。トラウマチックな見た目)とクトゥルフをごちゃ混ぜにしたようなものを想定しながら読みました。それ結構話通じるかドキドキしません?

A・E・ヴァン・ヴォークト「黒い破壊者」
猫可愛い。(終了)

…表紙イメージ・表題にも選ばれた、人気作。
知的生命体ながら、狩猟者としての横暴さを前面に押し出して来る(そこが猫っぽいっちゃあ猫っぽい)、「ケアル」と、彼の獲物として狙われる状況から脱しようとする人類のスペシャリスト集団との、頭脳戦。まだ調べてないのですが、この「ケアル」が非常に魅力的なキャラクターで、フォロワーの書いたスピンアウト的作品が結構あるらしい。ちょっと探して読んでみます。

想像力を通して、生命の在り方の可能性を色々と考えさせられる本でした。
面白かった。


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