2015年3月21日土曜日

模造クリスタル『ビーンク&ロサ』についての話(夜ノヤッターマン、ローリング☆ガールズに軽く触れながら)


模造クリスタル!?
模造クリスタルの本が出たってぇ!?

この俺の喜びっぷりを共有出来る方も出来ない方も、ぜひこの春感溢れる物語に触れてみてほしいと思います。

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まず「模造クリスタル」がなんなのか、というとコレです。
「おまえ 人間がなーっ バッタをなーっ」

今『トーキョーグール』で大人気の石田スイさんが『ペニスマン』を、『ULTRAMAN』で大人気の清水・下口コンビが『ハイブリッドインセクター』を描いてた頃、いやもっと前か?上記「金魚王国の崩壊」や、「ミッションちゃんの冒険」など、色気を感じさせない「漫画単体で成立している漫画」を強固に作り続けていた作家、サークル、ホームページ。設定しか存在しない、みたいな作品もいっぱいあって、たまらなく謎に包まれた存在です。こうして本が出てきた今でも、「模造クリスタル」が個人なのか集団なのかすら俺には分かりません。

で、この『ビーンク&ロサ』なのですが、これがまた気持ち良いくらいに「漫画単体で成立している漫画」なのです。人情ドラマでも、ラブコメでも、シュールギャグでもなく、ただ、「ビーンク」という人が居て、「ロサ」が居て、彼らを取り囲む人たちが居て、世界がある。この心地よさったら無いです。

本を開いて、物語の最初のページがコレ。
ちなみに彼女たちはビーンクでもロサでもありません。名前すら出てきません。なんで出てきたのかもよく分かりません。
が、
こうした「欠片」が集まって出来ているのがこの本なのです(決して欠片が寄せ集まって物語を構成したりはしない)。




コレがビーンク&ロサ。
手前がビーンク、奥がロサです。
彼らの関係性は、結局明示されないのですが、一応血の繋がらない家族、といった感じです。しっかり者でビーンクをフォローする、でもどこかビーンクを必要としているロサ。ロサに心配されるほど時折ものすごく馬鹿で間の抜けた、その上コミュ力がめちゃくちゃ低い、でも人から好かれる生真面目さを持ったビーンク。

彼らを取り囲む環境は、実をいうと「怪人」と呼ばれる超能力者たちと、彼らに科学の力で対抗する「人間」とが対立する世界で、ビーンク&ロサは人間ながら怪人側に立つ特異な存在である、という、上のペニスマンやらハイブリッドインセクターを思わせるハードSF世界なのですが、怪人と人間との諍いや戦闘シーンが描かれることはほとんどありません。あくまでそれらは「彼らを取り囲む環境」でしかないのです。

最近アニメ「ローリング☆ガールズ」観てて(ちゃんと最新まで追えてないですが)を観ててスゴイな、と思ったのはその視点。
ご当地ヒーローが覇権争いをする、はギリギリ誰かが考えつきそうですが、それは下地でしかなくて、「ヒーローじゃないヤツらが主人公」という。
でも現実の僕らの周りでも常に何がしかの「ニュース」は起きていて、僕ら自身に何事かが起きていなくても「僕らの物語り」は常に進み続けているのです。
現実で起きない事件や興奮を見せて、魅せてくれるのもフィクションの力だと思うのですが、「何も起きないこと」に目を向けさせてくれるのもフィクションの力の一つだと思うのです。
「何も起きなくても物語」であることは、「何も起きない現実を生きる僕たちの肯定」になり得る、と。

また、「夜ノヤッターマン」もすごくイイな、と思うことがあって、陳腐なんですけど「悪には悪の理由がある」を前面に出してるとこ、といいますか。
まぁこの話においては「ドロンボー」は完全に正義側なので上のテーマを当てはめるのもちょっと無理矢理なんですが、要は「誰にでも理由があるから生きている」んですよね。
話はちょっとご都合主義的でいまいちなんですが、主人公ドロンジョの行動理念が、敵討ちから、世界の構造を知ることで、「誰も泣かない世界を作りたい」へシフトしていくのがとても心地いい。けれども、最終回付近でヤッターマン側の理由はきちんと提示されるのでしょうか?それが無いと、単なる片手落ちの話になってしまうんですが…



で、ビーンク&ロサに戻るんですが、怪人の存在する世界で「怪人と人間それぞれに理由・理念があって」、その中で敢えて「ビーンクとロサに何も起きない(優しい)物語」、それが『ビーンク&ロサ』。
「漫画」がフィクションを表すのに最適な媒体なんじゃないか、って思えるような、マンガオブマンガです。
アニメなら上のような、漫画ならつげ義春、道満晴明、山田穰が好きな人に読んでみて欲しい、ちょっと春の空気を味わえる漫画です。

誰の人生でもドラマに成り得る。

ごちゃごちゃした中にも、人によっては真実がある。




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