2017年4月10日月曜日

五十嵐大介『ウムヴェルト』


五十嵐大介『ウムヴェルト』
怖さ:☆☆☆
造型:☆☆☆
状況:☆☆☆


☆満点作品です!

別段「ホラー漫画単行本」ではないのですが、異様な怖さ・迫力があるので、「松本大洋的なポジションのサブカルいやつっしょ?」みたいな思い込みで五十嵐大介未読のホラー漫画ファンが居たら、是非とも読みましょう。

『海獣の子供』においても、「主観でクジラに喰われるくっそ怖いシーン」が出て来る様に(多分このブログ内にあるので興味あれば検索してみて下さい)、「生き物・地球と人間の関わり方」を裏表無く描くのが非常に上手い作家さんです。

無理矢理数え上げるとするなら、10編中7編がホラー。
何がホラーなのかというと、「人間(自分)の知ってる理とは全く違う理の中に落とし込まれる恐怖」が描かれているのです。更に言えば、その7編中ホントに「怖いもの」として描いているのは「魚」「ツチノコ」の2編。トラウマティックな読書経験として残るものは、その2編よりもう少し多いかな、という感じ。

「鰐」。いきなりその2編以外のところに触れてアレなのですが、「巨大生物の画像を貼るスレ」なんかを見て、良くも悪くもゾクゾクくる、という人に是非とも勧めたい。要するに巨大生物って「巨大なのに、自分は全くその存在を知らない(体感したことが無い)からこそ得体が知れない」ってところに「ゾクゾクがある」と思うんですよ。ソレ。そういうマンガ。

「魚」。うを、とフリガナが。12ページの掌編。
渓流で女が一人水遊びをしていると、魚が寄って来る。たくさん居るなー、と見ていると、その内、魚が女に「入って来ようとする」。…あとはどうなるか?
人間(此方側)にとっては不条理なことでも、向こうからすると当たり前のルールを、力とか数とかで無理矢理強制されるのは、怖い。どんな結果が待っているか分からないから。

「ツチノコ」。これはもう「マンガ」です。マンガでしか説明出来ない、不安・不穏。読みましょう。

表題作「ウムヴェルト」も、現連載作品『ディザインズ』を分かり易く、かつミニチュアにした短編で素晴らしかったんだけども、とにかく単行本全体がそうした「人間にとっては不条理、でも自然にとっては当たり前」を、恐怖に振るか幻想に振るか、で五十嵐先生に踊らされてる様な読感の単行本でした。





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