Subbacultcha

「サブカルチャー」という括りの下、文学・芸術・漫画・映画等について述べます。

2016年10月18日火曜日

力こそ真理。ウーッ!ハーッ!『双亡亭壊すべし 1』『読者ハ読ムナ(笑)』『図書館大戦争』

やったあああ!!藤田和日郎先生が訳の分からん新連載を始めたぞおおおおうおおお!!つって喜びの声を挙げようとしていたら、既に単行本2巻の発売今日だった
キングクリムゾン!!

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 『双亡亭壊すべし』が一体何を目指すべき物語なのか、いや、もうソレは双亡亭を壊す物語なのですが、各登場人物が何故双亡亭を壊さなければいけないと思っているのか、それぞれがどんな因縁を抱え、何故そこに至ったか、が1巻収録時点までだと全く分からず、藤田作品中過去最高にワケの分からん幕開けを迎えたのが本作。


まず連載開始時の巻頭カラーを見てウワァと思ったのがカラーページの美しさ
白面が、真夜中のサーカスが、ばね足ジャックが、ミネルヴァが美しいのは、この世のもので無いから。死(タナトス)は美しさを孕むのです。
開始2ページ目・一目で分かる、この女の子がこの世の者でない感。

ページをめくって次にいくと
何かに怯えながら、「双亡亭」と看板を掲げた屋敷?の中を探索する男子学生。
一緒に来たらしい女の子に声をかけたのですが…
もう完全にホラー漫画の文法
あっ。藤田先生、過去作とは全く違うものを描こうとしている。カラーページだけでもヒシヒシと伝わって来る、変な情熱。
あ?藤田流ホラー漫画なのかな?すげーぞ!どんな展開になるんだ!!??


ミサイルをぶち込む。
「壊すべし!」とか言いながら、幽霊屋敷・双亡亭に首相がミサイルをぶち込む。どうです、この圧倒的パウァー感。
映画「貞子VS伽倻子」が素晴らしかったのは、力技で二つを一つにしてしまう強引さが、あまりに独自の論理で展開してしまって、観た人が力強い!と感動出来るところだと思いました。
そう、幽霊が幽霊として恐ろしいのは、人間の手→物理的な干渉が届かないから。干渉出来てしまうと幽霊が恐くない→ギャグになってしまうので、タブーというか、やっても仕方ない、と皆思っていたんですよね。

ところがどっこい、『でろでろ』を経た押切先生は、幽霊を殴り殺すのに怖さを保った『ゆうやみ特攻隊』という傑作を打ち立て、
白石晃司監督は人間では全く歯が立たないけども、物理的に貞子と伽倻子をぶつけてしまう「貞子VS伽倻子」という傑作を打ち立ててしまいました。

では、我等が藤田先生はどうするか。
過去に思いっ切り「双亡亭」に怖がらされた人間たちが、様々な力を付け、その恐怖を克服しようとするも、それでもまだ全然届かない、という絶望感をエンタメに変えて持って来ました。入り口はホラーだけども、全くホラーなんてやる気はない、と。素晴らしい。

単行本一巻と同時に発売された『読者ハ読ムナ(笑)』、
架空の新人アシスタントが藤田和日郎に弟子入りし、藤田先生とその長年のパートナーである編集者とに揉まれながら漫画家になっていく、という会話形式小説、というか。

その中で印象的だった藤田先生の言葉。
変化前+変化をさせるキャラクターやエピソード=変化して終わり
(中略)
キャラクターの各々は、さっきの方法でつくってあったから、混乱しないで済んだし、全て収まるところに収まった。どんなにたくさんのアイディアを乗っけても、シンプルで強い物語のキャラクターの骨格は受け止めて、作りやすくしてくれるんだよ。

どんなに沢山、様々なキャラクターが出て来て、しまい切れまい、と思う風呂敷も畳み切れるのは、藤田キャラたちにこうした力強い屋台骨が皆通っているから。

今読んでる本で『図書館大戦争』、ロシアのミハイルエリザーロフという作家の小説を読んでるのですが、非常にこれが馬鹿馬鹿しくて、「秘密の力をもつ7つの本をめぐり、図書館・読書室が血みどろの戦いを繰り広げる」というものなんですが、あからさまに「変化・変身」が話の大筋としてありまして、その「本」を読むと、「あたかも自分が求める過去を自分の記憶として感じられるようになる」「思いも付かなかったアイデアが次々湧き出すようになる」「自分の体の通常状態を大きく越えて力が漲って来る」という変化が起きるために、それを奪い合う、という。

その「変化」が非常に面白いんです
勿論、「力の書を読んだ老婆が軍隊を組織し、老人ホームでクーデターを起こす」とか「権力の書を読んだいじめられっこ気質の男がカリスマ的支配者になる」といった導入部の「本による変化」の部分も面白いのですが、「それらの変化を束ねた主人公の状況・精神の変化」が力強くて、グロテスクで、とてつもなく面白い。些細な変化が寄り集まり、形作られる巨大な変化。その変化を、力として作家が意図的に描写出来るかが物語の魅力だ、とバシバシ伝わって来るのがこの『図書館大戦争』なのです。

何を言わんとしているかというと、一見ワケの分からん「双亡亭」も「図書館」も、「力」で以て束ねるダイナミズムを物語序盤から感じられる、故にきっと面白い物語になるんだろう、と読みながら思わされてしまうのです。

さあて、まずは双亡亭の2巻、読まねば。



『読者ハ読ムナ』を読んでると、より意図が分かり易い、かも。

訳が分かんなくても押し切る「何か」があれば酷く魅力的になる、の好例。













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