Subbacultcha

「サブカルチャー」という括りの下、文学・芸術・漫画・映画等について述べます。

2022年12月31日土曜日

このマンガがすごい2022(ダーク編)


江野スミ先生の『亜獣譚』3巻より。

…何かこう、プーチンロシア始め、個人がどう言える訳でも無いけど特に意味も無く他者の生活を破壊したがる巨大げななんかを、とかくぶっ壊してえ、と益体も無い憤りをしょっ中感じる年だった様な気がします、そうしたモノは普遍的にあるでしょうに…。ネットから離れた方がええわよね、そんなん。

という様なモヤモヤをぶっ潰してくれたり、意識を他に向けてくれたり、といった作品も一方で豊富にある様な年だった気もします。ダラついて来てますが、いわゆる「お家時間」みたいので、内に内に、己が目を向けやすい年だったのかもですね。

過去の「このマンガがすごい(ダーク編)」

対象は「2022年中に出版されたマンガ単行本のみ」。

ベスト3以外は、順不同・同列です。

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・川島のりかず / フランケンシュタインの男

川勝徳重先生編集のもと、川島のりかず作品が令和に復刊。

まんだらけが毎年人気レア作を復刊し界隈がその度に沸き立ちますが、やはり「界隈が沸き立つ」だけでは少数の同じ人間の間で話題が擦られるだけなので、ちゃんと出版体制のある会社が、特段限定部数という訳でも無く発刊する、というのは「のちに残るもの」としてとても意義のあるお仕事をされたと思います、川勝先生(…何やら「マガジンハウスの社員」になってらっしゃるっぽいのは二重に驚きですが)。

どの作品かを読んで、強烈・面白いと思ったら全部集めねば、な作家・川島のりかずですが、その中でも中殺に準ずる古書価を誇る、けれど前者がおそらく刷部数の問題なのに対し、本作は「面白さ」によって値段が上がってた作品が装い新たに。かつ、その作家の消息や、出版経緯に関する文章も追加。

「マンガ」というもの全体からすれば「カルト」の部類かもしれませんが、「マニアが盛り上がるだけで終わらせない」「作家の名前をきちんと歴史に刻む」という意味で、本作関係者の方々の尽力に、ただただ拍手喝采。

あ、きちんとマンガとして面白いので、「ホラー」と何らか付いたら興味が湧く方は、絶対買い逃しちゃダメです。

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・カラスマタスク、上遠野浩平 / ジョジョの奇妙な冒険 クレイジー・Dの悪霊的失恋 1・2

『ノーガンズ・ノーライフ』はあんまり合わねえなあ…と思って序盤で止まってたのですが、本作連載開始の報を見、おっ、原作上遠野浩平やんけ!パープルヘイズは大好きなんよな!(→「共感」という力の源について、フーゴは何に勝ったのか『恥知らずのパープルヘイズ-ジョジョの奇妙な冒険より-』 )これなら期待出来るぜ!などと大変失礼な事を思っていたのですが、多分カラスマ先生がTwitterに上げられてた本編序盤をチラと見たら驚きました、「荒木絵じゃないのにジョジョだ!」って。たとえばキャラクターの発言・やり取りの自然さにもあるのかもですが、立ち姿(ポージング)・構図・背景の雰囲気等々、めっちゃジョジョになってて、ワッカラスマ先生すっげ!と単行本買わんば、になってしまいました。

3部終了後・4部開始前の杜王町にホルホースがやって来て、仗助とバディっぽい感じになる、という話。

…キャラクターの取り合わせ自体はかなり意外ながら、「パープルヘイズ」のフーゴと同じく、「ディオの恐怖に打ち勝てなかったホルホース」という物語の進行上負け犬にならざるを得なかったキャラクターに、再起の場を用意する、という上遠野先生のジョジョへのスタンスがメチャクチャアツい。

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・たかたけし / 住みにごり 1・2

前作『契れないひと』がシチュエーションコメディ的な作品だったのに対し、かなり「ストーリー漫画っぽい」感じになった印象の作品。

…その異様な絵柄で、これで大丈夫なんかヤンマガ!?と前作を読んだ時驚いたのですが、その「異様さ」によって、ギャグっぽい雰囲気の端々に不穏さが漂っており、この人がホラー描いたらかなり厭な感じになるんだろうな…と感じてました。

本作はバリバリのホラーともサスペンスとも言い難いのですが、冒頭から「引きこもりの兄が連続殺人を起こすという悪夢を見る」という不穏さしか無いスタート。

コミュニケーション不全・社会不適合の兄と、でもそれなりに関係性を作っていく…という話っぽいのに、それと同時進行で残りの家族四人が、主人公含め全員少しずつおかしいのでは…?と思わせる要素が滲んで来て、ふざけ合ってるシーンの次のページでバットで相手の頭を打っててもおかしくない、と読者に思わせるだけの異様な空気感がある。

厭ァな怖さに満ち満ちています。

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・界賀邑里 / たまわりの月 1

長らく、コミティア等同人でのみ活躍して来た著者の、初商業連載作品。「月」だしなんだかめでたいですね。

「心霊スポットに行った大学生達が酷い目に会って霊能者に助けてもらう」というオーソドックスな構造のホラー作品ながら、登場する者達の要素、大学生・霊能者・場所・大学生達を呪うモノ、全てが少しずつ異常で、その個々では「少しずつ異常」が見事に絡まり合って「巨大な異常」を形成していて、とても美しい物語の形を成しています。

読んだ時に個人的にとても沁み入る感じがして、思わずコミティアに界(一応補足しとくと「サカイ」と読みます)先生が出店されるというので直接伝えに行ってしまったのですが、本作に登場する「月」は比喩で無くホントに月なのに、まるで有機物の様に「人間に拷問されて死ぬ」し、「拷問されて死んだ事で呪いを発する」存在で、サイズ感といい近さといい、ウワァ、タルホがホラーになっちゃった!!みたいな感動を覚えました。アッ、いやネタバレですが、是非とも「なんでそんな事になんの?」を読んで解決してほしい。

「界賀邑里」ブログ内検索

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・住吉九 / ハイパーインフレーション

奴隷的階級に押し込められる民族を救うため、少年・ルークが授かった救世主の能力は無限に紙幣を生み出せる能力だった…が、生み出せる紙幣は全く同じもの、通し番号も全く同じなので「偽札」であった。

…序盤で「変なマンガ…」くらいの感想で読み止まってて、今年まとめて読んだのですが、すっげぇなこれ…。

「善悪」でも「敵味方」でも「友情努力勝利」でも無い、信じた筈の相手が次々と立ち位置が変わっていくスピード感。ルーク・グレシャムさん・レジャットさんのメインどころは皆好きだと思うんですが、5巻収録部分、「人間が痛みに勝てるわけないだろ」「勝てるんだなこれが」のやり取り、めーちゃくちゃ良かったです。そのメインどころでは無い所から出て来るという点においても、頭脳を使い尽くして戦う本作において意志でそれを上回るという点においても。

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・増村十七 / 花四段といっしょ 1

特別将棋が好き、という訳でも無く戦型のひとつも使えないのですが、今年一度もサッカーの試合を観なかった割に何度か将棋の中継を追ってしまった事があって、この打ってる人達の事は全く知らんがここに座るまでに数多のドラマがあるのであろな、などとボンヤリ考える機会が幾度か。

で、『ハチワンダイバー』も『三月のライオン』も大好きではあるものの、「将棋マンガ」に喰い付くという程でも無く、著者の前作『バクちゃん』もそんなに響かなかったので本来本作も買う予定には無かったのですが、Twitterでたまたま見かけた話がグッと来た。

「雑念に惑わされがちなプロ棋士・花四段の日常」がマンガとしてはメインながら、サブエピソードとして描かれる彼の周囲の棋士の中の、「女性棋士」の話。

『花四段といっしょ 』第5・6話

現実の世界においても、「女流棋士」は通常のプロ棋士とは別枠になり、「プロ棋士」の中に「女性」は居ないため、「女性プロ棋士」は存在しません。

この踊朝顔氏の話は以後も出て来るのですが、「女の居ない世界に居る女」「実力の話なのか仕組みの話なのか」といった彼女を取り巻く感覚が、かなり現実に対する寓話というか例話というかで作用してて、かなーり痺れます。

主人公・花四段周りの話も、「生き辛さ」に関わって来る所もあり、非常に共感しながら読んでしまった。


この記事、発表時に読んで印象的だったので「なんで?」と気になる方はぜひご一読。

「なぜ女性棋士はまだいないのか」女流棋士の私が考えてみた

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・斎藤潤一郎 / 武蔵野

著者の分身たる中年漫画家の、武蔵野を中心とした、かといって特筆すべき点も無いぶらり旅を描く紀行マンガ。同著者の「死都調布」シリーズと比べれば、そう刺激的な事も起こりませんが、その「特段心が動く様な風景も関係性も無い、ダラダラとした感じ」の描写が心地よい作品。

…なのですが、単行本になるにあたって、本書の収録話の、実際に斎藤先生がそこに行って漫画に取り入れた本来何でも無い筈の風景、が写真で収録されており、その写真に何かひどく胸を打たれました。

何も無い郊外の「何も無さ」も、「何も無い街の漫画のネタに出来る部分」も、同一にこの世界に存在している。

そういう読者の心を動かす感じ・何か著者が伝えたいメッセージ、の様なものは敢えて丁寧に排除されてる感じがありますが、如何様にでも読み取れる懐の深さ、のある作品。

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…以上7作品でした。

では以下ベスト三作です。

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3位!

・岡田索雲 / ようきなやつら

元々妖怪というもの自体が大好きではあるのですが、「この時代・この世界においてはこの様に変化しているに違いない」と個々の作家の感覚で、知った名前の妖怪が新たに解釈されてるのも大好き、ので『うしおととら』とか久正人『エリア51』とか阿部洋一『少女奇談まこら』とか雨鳥『ばけものだらけ』とか、まぁ京極堂とか蟲師とか化物語とかカクレンジャーとか、良いよね!!

…じゃ無かった、『ようきなやつら』の妖怪像もとても新しくて楽しく、「自分の心が読まれて怖い」という話だった「覚りの怪」を「現代の人間はヤバ過ぎて怖い」に読み替えるだとか、河童の世界も多様性を受け入れてる契機に来てんだなぁとか、とても良かったです。

が、何より、ウーン、どっちが良かったかなぁ、と『武蔵野』と頭の中で比べた時に、本作が良かった、という印象になったのは、提灯お化けを語り手に据えた「追燈」。

「南京大虐殺」と同じく、否定派の声が強いがために一種テーマとしてタブー視される「関東大震災朝鮮人虐殺事件」を、おそらくほぼ初めて漫画のテーマとして用いた作品

その時そこに居なかった筈の提灯お化けを介在させて良かった方に歴史を書き換えるという試みでも、漫画で「そんなものは無かった」と主張するでも無く、「どうにかしたかったけどどうにも出来なかった」という、歴史の傍観者としての「妖怪」。フィクショナルな存在故の寂しさと、岡田先生のあとがきとで、印象深い短編でした。

今年集英社によってサイトから削除された、綿本おふとん『ハッピー障害児ガールズ』(…本作の様な面白さはあまり感じられませんでしたが)というのもありましたが、本来的な、かつあくまで基本的人権の尊重に則った、表現におけるタブー的描写がどんどん踏み越えられていく「表現の自由」、少し期待してしまいます。

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第2位!

・小骨トモ / 神様お願い

小骨トモ初単行本、短編集。

…作品に既に多々自意識が表れてはいて、そこがまた(その手の)読者を惹き付けるのだろうけど、本作そのものが「社会的に認められなかった者達が集う標」の様な。

収録作品が概ね「自意識をこじらせてヤバい事になる奴ら」を描いていて、とかく自分の与えた影響なり自分の受けた被害なりを、自分の中で膨らませまくる。

各話の主人公にせよ、その主人公の敵というか相手役になるキャラにせよ、強く「作者の分け身」であることが感ぜられます。


本単行本最後に収録される「ファーストアルバム」。

個人的には「アブラゼミ」が収録作中一番好きではあるものの、本作のこのシーン、漫画表現としても絵としても素晴らしい、と感じつつ、この作品をラストにする掲載順も本当に素晴らしくて、読みながら強められていく様々な読者側の感覚を、シューっと解毒する様な。

…本当の所は本人で無いのでさっぱり分かりません、分かりませんが、いくら描いても思う様な評価を得られない、得られなくても描くしか無い、描け、描け、と描き続けて来たと同時に作家の中に溜まっていた泥みたいなものが、この短編を描く事で溶け出していってると良いな、と思います。

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第1位!!

・高妍 / 緑の歌 上下巻

大横山飴の短編読み切りが載ってる、というのでコミックビームを買ったら1話目が載ってて、良い絵だなぁ、と思って読んだら惚れてしまった作品。

ある女性が、台北近くの町の高校に通っていた頃聴いた「風をあつめて」という曲について。実体験を描く様な、感覚の素描。

はっぴいえんどはまぁ好きなんですが、松本隆が好きか、と言われるとそんなでも無いなという感じだし、ハルキに到っては、いや、文体は素晴らしいけど作品そのものは…と敬遠気味なので、本が出る前に出会えてて良かったと言えなくも無いけど、そうは言っても、ああこの作者がはっぴいえんどや村上春樹が好きなのだなあと思わせる漫画。

…ってなると本来自分が好きそげなヤツでは無いのですが、あまりにガオイェンさんが、心の動きを丁寧に描かれるというか、動きの機微に正直というか

これを書いてる自分はもうおっさんで、「面白い」というものに触れた時に勿論面白いと感じる事はあるのですが、その「面白いものに触れた自分を俯瞰する自分」を自覚してしまう事があるんですよね。外界からの入力、刺激に慣れてしまってて。

本作を読む事で、「感じるというのは感じること」なのだなぁ、ととてもアホな感想を抱いてしまいました。…分かりづらいんですが、オッサンで無い者にとって、世界を、物体を、他者を、自分を、一々「感じる心構え」なんか存在しないんですよ。(…下品な例えを思い付きましたがそれは一気に棄却して)ハンバーグ・コロッケ・餅なんかを素手で作るか調理用手袋をして作るかで全く調理の楽しさは変わるんですよ。分かりますか。

その瑞々しい感覚に触れてしまうと何かもう心が滅茶苦茶になってしまいそうで買ってからしばらく積み続けてたんですが、読んだらやっぱり滅茶苦茶になってしまいました。

台詞の感じなぞ少し詩情に走り過ぎる感じもあったけど、その「過ぎ」が、自分がもう忘れ掛けていた、猛烈な心の動きで、刺激の強いものでした。

特に上巻の揺れ動き方はマズくて、主人公・緑に同化して緊張感に吐きそうになります。でも本から放たれる光は美しい。










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個人的には「闇の小骨トモ・光のガオイェン」て感じの漫画読書生活でした。今年。

色んな繊細さを忘れ、色んな感じ方を剥ぎ取られ、世界に忙殺され、こうして歳を取っていくのだなぁ、みたいな変な諦観がありましたが、まだ諦めなくても良さそうです。

生きることに意欲を持って、今年も頑張りたいです。

頑張っていきましょう。

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