Subbacultcha

「サブカルチャー」という括りの下、文学・芸術・漫画・映画等について述べます。

2012年2月5日日曜日

世界に穴を開けろ『一世一代福森慶之介 又、何処かで』

劇団態変の公演を昨日観て来たので、感想をバーッと書き記しておこうかと思います。
中々これを読んでパッと行けるようなフットワークの軽い方・都合のつく方はいらっしゃらないと思いますが、また次回公演を観に行きたい、なんて思ってもらえりゃあ良いなぁ。

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まず、「劇団態変」とは「障害者の役者が、自身の障害で以って表現を成す場」です。
主宰・脚本の金満里さん自身も介護者無くては生活も難しい、重度の身体障害者です。
もう旗揚げから30年、というかなり歴史の有る劇団で、
過去には役者として、『おそいひと』で主演・『堀川中立売』等にも出演されていた住田雅清さんなんかも在籍されていたようなところ。

俺は何故見世物小屋が無くなったんだ、と日々憤りを感じていました。
障害者が障害を持ってることをウリに出来るなんて素晴らしいじゃないか、
そうした場は、障害者が無理矢理嫌がる事をやらされて産まれる悲しみよりも、障害者が自身を「障害者」として肯定して生きていける生きがいの方がある場なんじゃないか、って勝手に理想化して、俺は見世物小屋のことを思っていた訳です。

とはいっても見世物小屋、そういう「やらされる」場よりも、「やる」場、役者自身が主体的に人前に出て来る方が面白いもんが観れるんじゃないか、
それが観れるのが「劇団態変」ってところです。

一公演だけですが、そういう面白いもんが観れるかも、ってのとアール・ブリュット/アウトサイダー・アートへの興味から、俺も黒子として内部に入りました。
まぁ後者は全く別モノだな、と思いましたが、非常に面白い経験をさせてもらいました。

それはそれとして、本公演『一世一代福森慶之介 ゴドーを待ちながら』を昨日観て来ました。

一応ちょびちょびはお手伝いしていたので色々と内情も知ったのですが、
そういうのを述べて同情を狙ったりするのは好きじゃないので劇の感想だけ。



本作はサミュエル・ベケットの戯曲「ゴドーを待ちながら」を、
金満里アレンジというか、役者・福森慶之介アレンジしたもの。

俺は文学部にもかかわらず、カフカとか安部公房とか好きですなんつってるにもかかわらず、「ゴドー」を読んでおらず、公演までに読んでおこう、なんて思ってたのに結局読むことも出来ないまま、観てしまいました。
そうしたことと、態変の表現が無言劇・抽象劇的な要素が強いのともあって、正直ストーリーはさっぱり把握出来ませんでした。
でもあんまり関係無かった。


この「ゴドー」が紹介される際、頻りに使われる「不条理」「シュール」といった言葉。
日常の中の、たとえば面白可笑しい場面において、「シュールwwwwww」という風にこの言葉が使われることがありますが、それはちょっと用法としては微妙に違うというか。
「シュール」とは虚を突く、それに触れた人の心に、世界に、何かパッと穴を開けるような衝撃を指すんじゃないか、と俺は思います。

この公演では、いくつも虚を突かれました。

まず、役者の身体の作り。
今回出演されている方達は、身体障害を単純に体の固さで二つに分けたとするとハード系の人達ばかりで、立っているだけで既に「歪み」という空気を発する様な、障害を持ってらっしゃいます。
手を伸ばした時、その体の固さが、実にカッコいいのです。
それは枯れた空気とも言えるし、刃の様な鋭い空気とも言える。
何にせよ、役者が体を動かす、というだけで、舞台と観客席の空気の流れ方が変わり始めるのです。

主役の二人だけが舞台に居る時に在る、か細い、儚い、切ない空気。
それもまた、「障害」の、社会におけるスタンスの一つです。
そんな空気を掻き乱すように、邪魔するように、現れる端役たち。
なんかこう、ポヤポヤと不定形ながらも広がっていく空気を、重量のあるなにか、ハンマーみたいなもんでグシャァッと押し潰す音が聴こえるような、空気の変化。

また、無言劇にもかかわらず、時折役者が喋り始めるシーンがあります。
特に本公演で目立つのが、開始20分位で、表題にも登場している役者、「福森慶之介」が突然劇中劇を始める場面。
明らかにそれまで静かに積み上げて来た演劇部分にはそぐわない、唐突な「観客への感謝」。

「本日は、お寒い中、ご来場いただき、誠にありがとうございます・・・」

えっ、良いのか、せっかく良い雰囲気を作り上げたのに、ブチ壊して良いんか!?

また、厭らしい雰囲気の金持ちが登場するシーン。
疲れ切った下僕に、散々無意味な行動をさせて、主人公達にも散々無礼な行為を働いた後、去り際には紳士的に別れのあいさつ。

えっ、おまっ、さっきまで全然そんなキャラじゃ無かったぞ、豹変し過ぎだろ!!

他にも、その金持ちが乗ってる台車に、モノが引っ掛かって退場する時に、ガッと台車が止まってしまった所とか、無言劇の筈なのに、全然喋る意味の無いシーンで喋ったり、と色々と虚を突かれたというか、笑ってしまったんだけども、何が言いたいかというと、
「笑う」ということは勿論大事だと思うんですが、「自分の見ている世界に違う視点を持ち込むきっかけを得る」ということは何にも増して大事なことだと思うのです。その力の正体が、シュール。

劇団態変の、特に本公演は、そうして観劇した人の世界に、穴を開けるモノだと思います。


特に障害者問題や演劇に興味の無い人にこそ、触れて欲しい世界が、在ります。






そういえば、橋下さんの政策の影響で、劇団態変というか、大阪にある芸術系の団体の存続が危ういようです。
とはいえ、俺だって生きるか死ぬかの時に芸術を選べるほど芸術人では無いですし、これまでがズブズブ過ぎた反動で産まれたのが「ハシズム」と言われるような橋下さんの動きだ、と思ってるので、彼の政策に反対はしません。
けれども、それで態変が無くなってしまうのは、あまりに惜しい。
ので、色々金策を展開している態変、興味を持ったら是非是非その金策に乗って下さい。
「次回公演」が観れるように。

「劇団態変」公式サイト

間に合うかどうか分かりませんが、本日2月5日、まだ本公演の当日チケット、販売しているようです。
公演受付:072−782−2000


強く在る、ためには。
➼非日常との同居『石巻市をぶらぶらと歩いてみた』

今回の公演とはあまり関係ないですが、住田雅清さん出演作品。
➼僕らの路地裏戦争『堀川中立売』

主宰の方の著書。表紙の右上の、天使みたいなヤツが福森氏。






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