Subbacultcha

「サブカルチャー」という括りの下、文学・芸術・漫画・映画等について述べます。

2011年4月9日土曜日

僕らの路地裏戦争『堀川中立売』


京都在住です。

京都の企業の説明会なんかでよく言われる事ですが、
「京都には清水寺や平安神宮なんかの歴史・文化の重みと、任天堂や京セラ、村田製作所等の世界を舞台に活躍する会社が在るという近代性・先進性が同時に存在します。京都とは二重の意味で、世界に注目される面白い土地なのです。」
というような。

昔っからそうなのです。
『源氏物語』に描かれるような煌びやかな宮中での生活と、芥川の『羅生門』に描かれるような腐臭漂う下層の暮らし。
寺社仏閣が至る所に設置されながら、伝統あるキリスト教系の学校がすぐその隣に置かれ。
討幕を狙う志士達のアジトのすぐ近くに新撰組の根城が在り。
雅楽や歌舞伎、文楽が愛される町内に、アヴァンギャルドなアートやロックを好むイベント会場が在り。
そんな「気持ち悪さ」が京都という街なのです。


映画『堀川中立売』の監督、柴田剛の作品をこの他は『おそいひと』しか見ていませんが、思想や宗教を持った人ではなく、「自分なりの問題意識」を重要視する人だ、という印象があります。

しかし、『おそいひと』が一本筋の通ったストーリーだったのに対し、『堀川中立売』は、もうとにかく詰め込まれているストーリーのバラエティさが豊か。豊作。
SFは勿論のこと、コメディ、オカルト、サブカル、サスペンス、ホラー(?)、ラヴストーリー(?)、ヒューマンドラマ、死生観、パロディ、メタフィクション、エログロナンセンス、アクション、推理等々、とりあえず思い付く限りのジャンル要素が何でも詰め込んであります。
そんなことで映画が成立するのか?
するんです、京都だから。
いわば、タイトルは「京都だから」という理由付けのためのものと言ってもいい。

人の思惑で寒々しく塗り固められるコンクリートジャングル「東京」でもなく、
ゆるーく何事も受け流せるなんくるないさーの空気溢れる「沖縄」でもなく、
呪われた因習と大自然の脅威とに怯えながら暮らす寒村「東北」でもなく、
京都だから許される。

で、結局何の映画かというと、
「現代に蔓延する匿名の悪意との闘い方」
じゃあないかと俺は思うのです。

太古、まぁ太古たって色んな思いが交錯して苦しんだり悲しんだりしてたと思いますが、
ひとまず戦いは「単対単」でした。
個人対個人であったり、味方対敵であったり、人間対自然であったり。
対自然ってのは西洋的なものですが、とりあえず相手は目前のものだったのです。
それがいつしか「対会社」「対組織」「対社会」とどんどん目前の敵は消え、
今、僕達の闘わなければいけないものは目に見えない何かにどんどん転嫁されていってます。

「倒すべき敵はいつも自分の心の中に在る」?
そんな訳は無いのです。
もし世界が自分一人になって、自分が何でも出来る存在になって、全ての事を知れるようになって、誰が自分を律するでしょうか。誰が自分を制するでしょうか。

闘うべき相手は、いつも環境が与えてくれるのです。
それが目に見えなくなった時、余程力のある人間以外は途方に暮れてしまって、何となく闘っているようなポーズしか取れなくなってしまいました。

誰か助けて、という呼び声に応える者は無し。

力のある人間は、自分にとって力になるような人間にしか救いの手を伸ばしません。
最早僕らを救ってくれるのは、本物のヒーローか、はたまた眼中になかった最低レベルの人間か。
どちらにも属さない半端者達が悪意に抗う為には、彼らに祈りを捧げるしかない現状が、実情が、今の日本には在ると思うのです。
「自分に代わって」「何か」をやって欲しかった。やってくれる。
その爽快感が、この映画の気持ち良さだと思います。

どうしようもない街で、どうしようもないヒーロー達が、どうしようもない活躍をする物語。
ものっすごい狭い世界で、壮大なスケールの戦争が繰り広げられます。
どうしようもないから、成長も無いし、勧善懲悪も無い。
多分それはグルグル廻る世界の中では一時しのぎの物語に過ぎないかもしれません。
でも、この映画が代わってやってくれた事は、現実の僕に明日へのやる気を少しだけ呼び起こしてくれました。

たまたま協力した劇団が、かつて彼が所属していたということで
前作『おそいひと』の主人公、住田さんがスピンオフで出てたのはちょっと感慨深かった。

それから、宣伝に協力しようとして事務所まで行った為、その事務所が重要なシーンのロケ現場になっている事、そして、自分が大学生活を過ごした京都の各所がロケ地としてガンガン登場する事もグッと来るものがあった。

そうした「思い出補正」が掛っていないとは言えませんが、ミニシアター系と言われる映画の雰囲気や京都の気持ち悪さ・面白さが好きな人には「名作だ!」と頷いてもらえる筈の映画。


エキストラの方々(と思わしき役者さん)が非常に楽しそうだったので、参加情報にもっと喰いついて行かねば。
俺もやりたい!




住田雅清さんがかつて在籍した劇団の公演。
➼世界に穴を開けろ『一世一代福森慶之介 ゴドーを待ちながら』

「何者にも成れないこと」を絶望する必要はない。
➼飛べ!雌豚!『あぜ道のダンディ』


DVD化、まだかなぁ・・・




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