そんな訳で今年もこのマンガがスゴいを陰湿なヤツが、陰湿な感じで選ぶ。せっまいランキング、はじめました。オチオチしてたら結局本家のが発表されてしまったので、書き上げたら見てみよう、とは思ってたのですが、ヤバイヤバイそんなこと言ってたら一年が終わっちゃうよ!急いで書き上げました。
…いや、別に年変わっちゃっても良くって、特に求められてる訳でも無いんですが、とはいえこれで5年目。とりあえず10年は続けてみようと思うんです。
2014 2015 2016 2017
対象は「2018年中に出版されたマンガ単行本のみ」。
毎年言ってる気がしないでもないですが、ああ、今年もホラー漫画が大量で素敵な年であった。まぁ、「ホラー漫画雑誌」というものが無くなったって、ホラー愛好家とそれに応えてくれるクリエイターは一定数居る訳で、何が言いたいかというと、ありがとうございます、クリエイターの皆さま。あなた方のおかげで、このどうしようもなく無変化で、苦しい日常が、彩られ、明日も生きねば、と思えるのでございます。ありがとうございます。
という気持ちを胸に、今年俺がビビッと来た10冊、ご紹介します。
ベスト3以外は、順不同・同列です。
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・押見修造 / 血の轍 4
…どっかの漫画ランキングで、1巻時点で高順位に付けてたのを見てたんですが、お前はエスパーかなんかか?
『惡の華』が1巻序盤からトップギアに入れ過ぎてしまい、中盤以降は信者だけワーッと盛り上がれる感じになってしまいましたが(俺は大好きですし、青少年のバイブルにしていい漫画だと思う)、『血の轍』は、広告の仕方といい、周りの盛り上がり方といい、「1巻時点だと騒ぎ過ぎ」な感が拭えぬ漫画でした。「究極の毒親」たって、その毒親っぷりまだ何にも出てなかったよ1巻!
『ハピネス』はちゃんと追えてないものの、おそらくですが、「描き込むことで作品を押し広げていく」のに対し、『血の轍』は「敢えて線を抜くことでどこまで緊張感を与えられるか」を押見先生が挑戦しているように思うのです。過去の作品に比べても、描線やセリフなどが意図的に抜かれて、それが作品全体を硬直させていくというか、巻数を重ねる毎に凍った池のど真ん中に立たされてミシミシとひび割れが広がっていくのを見ているというか。
「この巻のこのシーンが」みたいな漫画では無く、物語が進む毎に追い詰められていく主人公の心情を、現在の押見修造の最高の画力を以って描かれる。
未読の方でサスペンスやミステリがお好きなお方。文字数は少ないのですが、一コマ一コマじっくりと、1巻から追って行って下さい。おそらく2巻の中盤あたりが分かれ目かと思うんですが、「すぐ読めて、情報量が少なくてつまらん漫画だなー」と思ったら、多分「漫画を読むこと自体が向いていない」のかもしれません。
「しっかりと漫画が読める」という方が一気に読むと、この4巻まで来たところで、心臓がシクシク痛む、やもしれません。
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・江野スミ / 亜獣譚 3
去年俺のベストテンは何を入れたのかなー、と思って記事見返してみましたが、あ、去年も亜獣譚入れてんじゃねーか、とまた同じ作品を自分の中で選んでることにガッカリしかけましたが、いや、でも去年本作を選んだ観点とはイイと思った観点が違うんですよ。3巻からはシュペイ人が登場、「(いわゆる)人間と害獣」だけでないこの世界の構造が示されたことでグンと世界が広がり、4巻では更なる勢力の登場でまたグングンと世界が音を立てて広がっていくのですが(こちらも2018年中に発行)、この物語においては3巻で示された結論の一つが重要。
1巻の冒頭で示された、「主人公が物理的な力がある故のパワーラッキースケベ」は、ヒロイン視点で見ると、完全に「立場を利用した強姦」に過ぎず、その構造の胸糞悪さが、ヒロインの弟が自分の教師にあたる人間から受ける性強要によって同時に描かれます。
「主人公ならラッキースケベでイイのか」。
1ー3巻において、「ヒロインの弟を犯す男」と「主人公」は、行なっている行為だけ見れば「等しい」存在なのですが、「それぞれ受け取る相手」と「読者」にとって、その二人が明確に違うことが示されたのが以下のセリフ。
殺す 無実の人間を壊す者全て 殺したいだからアキミアは敵役でもモブでも無く、主人公なのだ、と。
主人公の方向性をキッチリ示した発言・行動であったがために、この物語の柱になって欲しい、と思えるエピソードだったのですが、それと同時に。
アキミアの根底にある人間性にヒロイン・ソウは惹かれていくのですが、現実の性的マイノリティを象徴するかのような弟・チルに対して向けられたアキミアの思想と行いは、自分にとって「物語が人間を救う」軌跡を見られたような感動でした。
フィクションが現実を物理的に乗り越えることは自分の身体が現実故有り得ないのですが、フィクションが現実に作用する・フィクションだからこそ救われる人間は居るに違いない、と思うのです。
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・山本章一 / 堕天作戦 4
亜獣譚に引き続き、堕天作戦も割合毎年自分ベストテンに入ってて、この4巻も、1巻の凄まじさ、「1話で無く1章丸々気球の上で展開してしまう、なのにきちんと物語として面白い」という衝撃には及ばないものの、この物語に愛を寄せてしまう、という点において確実に前巻を上回ります。
ちょっと話が飛びます。
高校生の時読んだ『武装錬金』。世間一般では和月和伸の代表作はるろ剣のように言われますが、主人公像・キャラクターの狂いっぷりとそれぞれの人生哲学・物語のメッセージ性の強さにおいて、現状和月ベスト作品は武装錬金だろ!!!と声高らかに叫びたいのですが、中でも「残る」台詞。
善でも!悪でも! 最後まで貫き通せた信念に偽りなどは何一つない!!
これ、結構あらゆる事象における一つの真理を突いた台詞でないかと思うんですが(和月作品に必ず無い胸少女のメインキャラが居るのとか)、
更に話が飛びますが、ルパンにおける銭形のとっつぁんって、完全に「噛ませ」ですよね。ずっとルパンに負け続けることを運命付けられて居るような。でも、銭形警部が魅力的なのは、負け「続けられる」から。図太さ、執念、折れない心の強さ、最大の敵であると共に最大の理解者、という彼の人生が、その「負け続けること」に凝縮されて居る、ように俺は思ってしまうのです。
戻します。
1巻で登場した、おそらく作中最高レベルの攻撃力を保持する、「業火卿」のあだ名を持つピロ。しかし、「作中最高レベルの攻撃力を持つ」が故に、それ以外のステータスを全く育てて来なかった人格、その人格が招く求心力の無さや判断の鈍さが透けて見えるところに、彼の、人間としての愚かさと愛すべき欠点の強さが有ります(酷い目に合ってばかりのキャラですが、著者自画像が彼に近似している所に、作者・山本先生もキャラクターとしての彼が大好きであろうことが伺えます)。
有り得ない竜の造形とか、各勢力の政治的やりとりとか、あるキャラのアンダーへの思いとか、見所の多い巻ではあります。
あるんですが、主人公・不死者アンダーに対して、おそらく負け続けるであろうことを暗示するかのような、業火卿ピロの活躍こそが、個人的にはこの巻の見せ場。彼の、生き様と愚かさに、読者は哀切と爆笑とを禁じ得ないと思います。
でもその愚かさは、人間に普遍的なものである、と感じられるからこそ、俺はこのキャラクターが愛おしくてたまらなくなりました。
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・崇山祟『恐怖の口が目女』
劇画狼さん・リイド社さん、ありがとう!!!!!
などと無駄にエクスクラメーションを並べたくなるこの俺の心持ち、おそらく祟先生のウェブ連載を追っていた方なら共有して頂けるでしょう。
ヘンな漫画です。
大変失礼な話ながら、連載を追ってた時は、最初の何話かで、なんかよく分からん漫画だな…と読むのを止めてしまってたのですが、しばらく話が進んでまた読んでいってみると、「よく分からん漫画」が「面白ヘンな漫画」になっていたんですよ。
ほんで、実際に祟先生がnote上に最新話をアップするのに追い付くに至り、「ああ、この人は別段昭和ホラー漫画パロディ漫画を作ろうとしてる人じゃないんだ、昭和ホラー漫画を含めた自分の大好きなものの空気感を、自分で一から再現しようとしてる人なんだ!」と思い至りました。
ラストまで読んでも、泣いたりとか恐れ戦いたりとか、そういう漫画ではないんです。誰の為でもカネの為でもなく描かれたが故に、初めから終わりまで、ヘンであることを貫いた漫画。
難を言うと、自分含めたホラー漫画大好き人間にとって、ひばり・レモン・ホラーMのキメラの如き装丁は大喜びの対象ながら、決して内容はホラーではなく、無理に表現するならヘンテコSF的なものなのですが、タイトルといい表紙絵といい、ヘンテコSF・ヘンテコポップみたいなものを求める層には如何せん怖過ぎる。
とはいえ、百万人に届くべき作品でも無いし、狭い範囲の人間が大喜びするのに相応しい作品、のような気もします。
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・黄島点心 / 黄色い円盤
黄島点心、ホラー連載作品「黄色い悪夢」単行本2巻目。
個人的に、本作の収録作は、前作収録・思いをこじらせ過ぎてマクロ世界ミクロ世界がぶつかり弾けて訳が分からなくなる「血に落ちる」、空前絶後の鉋ホラーにして漫画表現の独自過ぎる方法を考案してしまった「鉋屑」、を超えるところまでは行かなかったのですが、
「単行本1冊」としての完成度の高さは、今後点心先生ご自身も超えられないのではないかと思います。
イントロとアウトロで挟むことで、短編集ながら1冊の作品であることを印象付けておき、
行き過ぎた妄想のような世界が現実を凶悪に揺らす2作品がその内側を固めながらも、
奇想エロ・頭おかしいヒューマンドラマ・奇想ホラー、とバラエティに富んだ狂いっぷりの中身が具として作用し、
イントロアウトロで挟み込んだものを更に謎対談がコーティング、
見た目にも中身にも言うことのないクオリティの高さの1冊の作品が、そこには在った…。
➼「黄島点心」ブログ内関連記事
➼黄島点心『黄色い円盤』
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・緑の五寸釘編 / 恐怖漫画短篇集 孤独
「2018年中に出版されたマンガ単行本のみ」とか言いつつ、早速同人誌をラインナップに加える。
…いや、まぁいいや。緑の五寸釘という人間そのものは様々な問題を抱えた人間なのですが(言い切り)、この『孤独』、ホラー漫画アンソロジーとしては言うことがない。完璧です。買える内に買うべき。
概してコレクターだのマニアだのは自分で収集範囲を狭めていくものですが、
自分の知るホラー漫画マニアで、きちんと現行品もビンテージ漫画も等しく収集範囲とする、「ホラー漫画」というジャンル全てに愛を注ぐ、という点において、緑の五寸釘さんは最も熱量のある人・偉い人だなぁ、と思っているのですが、
例えば「名作漫画」例えば「怪奇幻想文学」、それらには名アンソロジストが存在するのに、何故かホラー漫画にはそういう人が居なかった。
既存のホラー漫画アンソロジーは、編集者・作家だったり、出版社だったりに縛られ過ぎていて、最高に面白い作品ばかりを集めたモノってーのがほぼ無かったのです。
「自分が欲しいホラー漫画アンソロジーを、紙の本で欲しい」という熱に浮かされて、緑の五寸釘自身が、同人誌故に何のしがらみもなく、己の欲望に忠実に作った本。
しかもその本のために描き下ろしなどは用意せず、過去自分が面白いと感じた、けれどもほぼ商業出版に載っていなかった作品を選び抜いて来る。そりゃー、面白いよ。
頭の中で似たようなことを夢想した人は、沢山居た事でしょう。俺だってそうだ。
でも、お金が、とかそんな事をやる時間はなくて、とか、誰も立ち上がらなかった。
そんな中、緑の五寸釘は己の欲望を杖に、誰に望まれるでもなく手を挙げ、本を作り始めた。偉い。
・とよ田みのる / 金剛寺さんは面倒臭い
毎年行事みたいになって来てるので、2巻以上出てる作品に関しては、「この巻に出て来たこのシーンが凄かった!」みたいな書き方で紹介をしてますが、
「金剛寺さん」に関してはそういうのは無い。
真面目過ぎて融通の効かない女の子と、鬼の女の子の青春恋愛漫画。
もう特に言うことはない。鬼がなんだ。地獄がなんだ。アトランティスがなんだ。全ては些細な障害物に過ぎない。通常の漫画では絶対的なハードルとしてそびえ立つものが、この漫画の前では些細なものになる。愛だ。力だ。愛こそすべて、だ。
著者の前作『タケヲちゃん物怪録』に、あるキャラクターが「皆幸せに、幸せになれ!!」と皆の幸せのためだけに全力を尽くし、読者の涙腺を爆発させるシーンが出て来るのですが、恋愛漫画とか、読む人が毒男喪女だとか、劇画タッチの漫画しか受け付けないとか、そういうのはどうでもよくて、もう、作者が、作中人物も読者もそして作者自身も、皆幸せになれ、と死力を尽くした結果が漫画になってしまった漫画。です。
日常に幸せを感じ難い人にこそ、読んで欲しい。
・泉光 / 図書館の大魔術師 1
アラビアンかつファンタジックな世界観で動いていく、ある司書の一代記。
本が好きで好きで堪らない、でも産まれた立場で自由に本が読めない少年が、旅する司書と出会い、世界が広がっていく。
魔法が存在し、かつ図書館が大きな権威として存在する、という前提の異世界ファンタジーではあるのですが、総体として「本という物質」と「世界」に対して作者の余りに深い愛を感じさせます。ファンタジーが、とか漫画が、でなく、本好きは読むと良い。
1巻では、その思いの強さに反して不遇の主人公が、一つの救いを得るまで。
2巻は、1巻を良い意味でひっくり返すように、待っているだけでは何も起きないので、自分の力で「やらねばならない」という話。
2巻終盤の連続見開きもかなり胸にクるので、1巻に少しでも引っかかったなら絶対2巻も読むべきなのですが、
主人公のピュアさ・本への愛・救いの過程にやられてしまったので、ひとまず1巻を読んでくれ。という感じです。
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・那州雪絵『私のともだち』
ホラーも好きだけどBLも好き、という方から教えて頂いた作品だったけど、2018年は何やらホラーっぽくかつニュースになる要素のある作品が色々出た中で、最もホラー漫画として面白かった作品集がコレです。
…いや、ウイングス(雑誌名)に載ってたら、そら気付きませんわ…。
旧校舎のトイレに住まう「謎の怪物」と仲良くなるも望まぬ結末を迎える表題作を始め、胸糞ホラーが6編。迫力のあるシーンも沢山ありますが、絵の力に逃げず、シチュエーションで勝負している、名品ばかりです。
理不尽・不可解・不明瞭。
「女性向けホラー」と「(普遍性のある)ホラー」を分かつところ、大体こんなもんで無いかと思うのですが、
怪異って説明付けられると、途端に怪異としてのレベルが下がってしまうのでは、ってのが持論としてあります。悪い事をしたからしっぺ返しでとか満足したから成仏してったとか、それって「怪異」じゃなくて「人間」じゃん。と。
『私のともだち』に登場する怪異たちは、容赦無く、理不尽・不可解・不明瞭に横行する。各作品「少女ホラー」でも「レディースホラー」でも「実話ホラー」でもなく、明確に「ホラー漫画」をやってくれています。
那州雪絵先生、「グリーンウッド」の序盤しか読んだ事無くて、ホラーを描ける人という印象が無かったのですが、長い作家歴の中でこちらが初めて出されたホラー漫画、とのこと。
…ウイングス、チェックしなくてはならんのか…!
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・都留泰作『ムシヌユン 6』
「何漫画」と形容し難い異形のSFは、前作『ナチュン』以上の壮大さとギャップを兼ね備えた結末に辿り着く。
一人の男の卑近で卑劣な性欲と地球の命運。小さな虫の本能と銀河を越えた遺伝子の旅。『利己的な遺伝子』と『人間失格』(罪と罰?)が銀河を巻き込み爆発した。
…恐ろしい漫画だった。都留先生は、カバー袖のコメントで「スケールの落差」をキーワードとして述べられてますが、大成功です、震えました。
偶然の産物なんだろうけど、編集の人の仕事ぶりが物凄い。
帯のコメント、1巻が諸星大二郎で、この最終巻が新海誠だったのですが、
「諸星大二郎的な奇妙さ・不穏さで始まった物語が、新海誠的な等身大の切なさと世界の美しさを感じさせる結末に収束した」という奇跡的な運び。『暗殺教室』が連載の3学期を3学期に合致させながら、映画公開を卒業式シーズンに狙い定める、という恐ろしい精度のメディアミックスをやらかしてたのですが、それ以来の、漫画本体以外の所での感動も味ってしまいました。
俺はこの先、辛いことがあるたびにこの漫画のことを思い出すのだろう、そして、その度にこの漫画のことを思い出しても無意味であることを思い知るのだろう(「俺なんかどーせ誰も雇ってくれない」と愚痴る主人公に母親が「ホントーにちゃんと探したか?」と詰め寄り主人公が言葉も無く涙滲む様を母がビンタするシーンを思い出しながら)
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・山田芳裕『へうげもの 25』
信長、秀吉、家康といった武将が何度も創作物のネタとされる中、浅学な自分が知る限り唯一の「古田織部を主人公とした作品」、完結。
壮大なネタバレをします。とはいえ、へうげものをこれから読もうとしている人も特にココをスルーする必要もありません。
この漫画の主人公は、最後にウンコを漏らすためにここまで単行本巻数を重ねて来ました。
という一文を、これまでこの漫画に触れる事なく生きて来た方が見たらどんなバカ漫画かと思われるかもしれませんが、コロコロコミック的な表面的なウンコではなく、古田織部という織部焼を作った歴史の偉人が、「誰よりもへうげていること」を示すために、ある状況でこの行動を取ったがために、これ以後も以前も出てきようのないほど、泣けて・格好良いウンコタレを産み出してしまうのです。
余韻の一話も、静かなフェードアウトなのに物凄い熱さ。
これから1−3位に挙げる作品たちは、「イマ・ココ」という、時代性や自分が読んだという主観的情報による評価が大きいです。
けれども、へうげもの、辿り着くのがウンコであったとしても、25巻もある青年向け漫画を読み切るのが物理的・精神的に大変なものであったとしても、絶対に無意味なものにはならない読書体験が、万人にある、ということを力強く、力強く、主張しておきたいのです。
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さて!
それでは残り、ベスト3作品を並べて行きます!
…もしかして勘の良い方、気付かれましたかね…?
ベスト10作品とは書いておりましたが、
この時点で11作品を挙げております。…いや、ね、書きながら考えてたとかでは無く、ホントにもう、削りようが無かったんです。ベスト3を除いても、どうしてもそれ以外8作品から、欄外を選べなくって…。
うん、もうどうせ10個に絞れないんなら、もうアレもコレも入れよ、みたいなことをしてたらベスト14という意味不明なまとめになっちゃったのですが、まぁいいよね、俺が好き勝手書いてるだけだしね、14作品挙げて誰が困るものぞ、ええやんけええやんけ、などと思って、もう14作品分の感想・オススメコメント、残しておきます。(最近家人から「自己肯定モンスター」なる称号を頂いてしまった)
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3位!
浅野いにお「テンペスト」
浅野いにお、SF短編。
合理化を推し進めていった日本は、「姥捨山」をシステム化し、老人の人権を奪うことを制度・政策として受け入れていってしまう。
…そんな日本で生きる老人の一人に視点を向けて、その制度のグロテスクさを描くだけの短編なのですが、昨今の日本の政情を見るからに、これ部分的には実現してもおかしくないんじゃない?と恐ろしく思える生々しさ。
「一応の詩情」みたいなものもそこはかとなく描写されているものの、基本的には「システムの描写」に終始する短編。
漫画の魅力の一つに「小説や絵画に比べてインスタントであること」があるかと思いますが、だからこそ「現在の日本でコレが描かれた」という意味が強く感じられました。
浅野いにお、あまりに自身の危惧を戯画化してしまうのが上手過ぎる。
で、コレが書籍化されるんなら久々に浅野いにお買わんといかんなー、と意気揚々と本屋に向かうと、最新短編集にコレは入っていない…。
…ちょっと露骨に現政権への皮肉が挟まっていたし、もしかしてこれ書籍化しない作品…?
とはいえ、漫画でしか出来ないこと・漫画だから出来ることが巧みなバランスで両立する作品。「この時代に、この国で生きている漫画好き」、是非とも押さえておきたいところ。
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第2位!
オガツカヅオ / 魔法はつづく
オガツカヅオ 「血の出ないホラー」、本領発揮とも言うべき作品集。
厳密にはホラーというより、幻想短編集、といった雰囲気です。
とはいえとはいえ、オガツカヅオ が描くのはあくまで現実。現実が地滑りし、垣間見える歪み。
裏表紙には収録作品が9編であることが示されていますが、表題「魔法はつづく」のあとにもう1作入ってるモノについては、目次を見て初めて入っていること・タイトルが分かります。
上で『黄色い円盤』の構成は最高である、と述べていますが、
「モノ」を読み終えることで、「分かる」ようになる単行本扉の部分や、最後まで読み終わって「モノ」が何故最後に配されていたかが分かる、という構成は、まったく引けを取りません。
「魔法」とは何を意味するのか。
オガツカヅオ が描きたいものは何なのか。
どちらもハッキリと答えが出るものではありません。
しかし、本を読み始め、終わりまでいって閉じることで、形・言葉にならない、少し「意図」に触れられるようになる感覚、魔法だな、と思います。
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第1位!!
・うめざわしゅん / えれほん
浅野いにお「テンペスト」の項でも述べてますが、「現代日本でこの漫画が作られた」ことに強いショックを覚えます。
同作者の「パンティストッキング」を軽々と超えていく批評性。
4つのディストピア、でも紙上だけでは済まされないかもしれない、「ありそうな未来」が描かれます。
リア充的価値観を認めない全体主義、非リアによる独裁社会「善き人のためのクシーノ」、
知的財産保護が行き過ぎたためにワンアクションワンアイデアにまで著作権使用料が発生するような世界「かいぞくたちのいるところ」、
出生前診断が高精度に行われる様になった結果堕胎が禁止された世界で特殊な事情を抱えて生きねばならない人間を描く「もう人間」、
藤子タッチでは未来の国会での(過剰な)有識者の会議を描く短編「Nowhere」
の4作品。
中でも、本になる前に読んだ「かいぞくたちのいるところ」に、あまりに胸を打たれて。
知的財産権を犯した「IP犯罪者」を収監・教育するIP刑務所所長と、
この社会における犯罪者「かいぞく」の頭目・先生による、
「知的財産権問答」は、昨今よく話題にされる表現の自由と基本的人権の均衡や、情報共有のメリットデメリット、国家の保護すべき対象と禁じるべき対象など、論じる問題の波及していく範囲の広さ・緻密さにゾクゾクします。
『ユートピアズ』『一匹と九十九匹と』も好きな作家さんではありますが、
これほどまでの知識量、また緻密な設定により練り上げられた世界観を構築出来る作家と思っておらず、侮りまくってました。この人、とんっでもなく頭イイ人や!!!!
ちなみに、「かいぞくたちのいるところ」は無料で全編が公開されていますが、それすら作品の「手段」。
この本の面白さ、小難しいからこそ、頭を使って読んで「何が描いてあるか理解が出来る快感」もあるんですが、
それ以上に「こんなそれぞれにイかれた思想の行き渡った世界を、『世界』として成立させられるだけのリアリティを描ける、うめざわしゅん先生の地頭の良さ・構成力の高さにただただ翻弄される」とこにあるんでないかと。
読めば分かる、すげー漫画なんだよ!!!(すげーバカ)
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以下次点。
久々に読んだけど、齋藤なずなさんの描く漫画・人間は凄い。エンタメ的なものでないので部分的な紹介は出来ず、読むしかないんだけど、とりあえず齋藤なずなの描く女は図太く、男はナイーブ。特に完全にボケた母との異様な距離感を描く「トラワレノヒト」にやられた。
ジョジョリオンと同時発売だった気がしますが、断然わかりやすい面白さ。望月さんちのポストから出て来る何か気持ち悪いヤツ、歩きスマホの人が全員自分にぶつかって来る妄想(荒木先生の怒り?)、12部キャラ的バキバキの人(あとがきに「封印してた」旨があり笑う)が4部以降の細マッチョキャラとバトル、が個人的に印象的でした。
・藤本タツキ『ファイアパンチ 8』。
序盤の過激さからは想像出来ない、スケールと静けさに包まれたエンディング。「燃えながら死なない男のバトルアクション漫画」とも言えるけど、それ以上に「誰の為にどんな映画を生きるのか」を常に問い続ける漫画として心に残る。
・本当にあった心霊体験 夏だし怖い話してみない?
あまりのクオリティーの高さに震え出す。タイトルに偽りありまくりで、絶対に「本当ならありえない」、まぁ要は実録心霊漫画でなく、しっかり「ホラー漫画してる」コンビニコミック。ホラー漫画誌はもう無くなってしまった、と嘆きながらコンビニでコレを発見出来ず買い逃したお前は、バカ。高港!外薗!とバァーンと表紙に載っている作家以上に、表紙に名前の無い、無名作家陣が凄くて。凄いよ、少年画報社。掘り出して来過ぎだよ。
・吉永龍太『ムカデムラ』
連載時「ムカデ人間のコミカライズか?」などとアホな思い込みで読んでなかったけど、大損失だった。「人間」がバイオホラーなら「村」は超バカホラーだ!ムカデ人間もバカじゃないかって?いや、その比じゃない、勢いとバカさで、ムカデムラは世界をねじ切りに行くんだよ!!同作者・モンスターバンケットの続刊にも期待。
・九井諒子『ダンジョン飯 6』
ボス戦。沢山キャラが登場することで読者にとっては既に承前となっていたライオスの異常性が浮き彫りになる。ボスと遭遇した際のライオスの感想に爆笑。また「食い、日々を踏みしめる事が力と目標に繋がる」という旨の台詞は、この漫画の根っこが端的に表されて、素晴らしい。
・きぃう『なんでも調査少女+』
調査が趣味で何にでも首を突っ込む、しらべちゃん。道徳観・正義感の様な感覚を全て無視して、即堕ち2コマの様な超スピードでの展開・行為シーンにまで強烈なデフォルメを掛けて、エロ漫画のメイン部分を記号にしてしまう絵力。そんな好きでは無いんですが、新たなエロ漫画が発明されてしまった!と驚愕。
・徳弘正也『もっこり半兵衛』
ターちゃん・狂四郎は無類の面白漫画と思うけど、如何せんギャグが合わんというか、下ネタがしつこくて持って無いんだけど、「もっこり」の漫画としての美しさよ!無論タイトル通りシモの話は多いけども、浅田次郎の時代小説の様な爽やかな読み味、作家の老成を感じます。
・波よ聞いてくれ
・地獄楽
・双亡亭
・天国大魔境
・死都調布
・ドリフターズ
・彼方のアストラ
・おとこの口紅
・わだちず『わらしのはなし』
・伊藤重夫『ダイアモンド 因数猫分解』
・諸星大二郎『雨の日はおばけがいる』
…いやーもうね、この溢れてる「次点コーナー」を見てもらったら分かると思うんですが、今年はあまりにも心動かされる漫画が出過ぎてた。素晴らしいな、と思った小説・映画もあったのですが、数の上で圧倒的に漫画にショックを受ける機会が多かったです。
来年も、再来年もその先もずっと、何かに心を揺さぶられ続けたいな、と思います。
頼むぜ日本、頼むぜ世界!!
ではでは、よいお年を。
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