Subbacultcha

「サブカルチャー」という括りの下、文学・芸術・漫画・映画等について述べます。

2020年2月28日金曜日

岸本加奈子『虫』


岸本加奈子『虫』
怖さ:☆☆☆
造型:☆☆☆
状況:☆☆☆

☆満点作品です!

ぶんか社、『恐怖の快楽』単行本シリーズ。
個人的にはこのシリーズでは神田森莉先生の『カニおんな』が最高傑作だと思いますが、次は本作かと。

「恐怖の快楽」という雑誌そのものがホラーMやサスホラに比べるとレディコミ的感覚、不倫とか性愛とかが中心となり、「ホラーとしての胸糞悪さ」よりも「人間同士のすれ違いの胸糞悪さ」に傾きがち、本単行本収録作のほとんどもそうした作品なのですが、
その中でも表題作「虫」、この一作のためだけでも個人的には☆満点あげたい。

課長と不倫していた祥子。しかし課長が行方不明になって3週間が経つ。恋情は無いものの、自分に使われた金が会社の金であり、それが露見することに怯える祥子の元へ、「ここに来て欲しい」という指示の手紙が届く。
「不倫をしている女性主観のホラー」が若干珍しく思うのは、レディコミをきちんと押さえられてないからでしょうか? 素材として昆虫を使うホラーは、往往にして「虫への生理的嫌悪感を煽る」作りで類型的になりやすく、本作もゴキがゾロゾロ出て来てゾワゾワするのですが、それだけに終わらず、見事にそれが人間の狂気と併さります。一見、虫がメインと見せかけて、狂った論理が主柱となる作品。

ストーカーが行くところまで行ってしまう「かんちがい」、
実際におかしいのか主人公の被害者感覚がおかしいのか惑わされる「ささいな事」、
賠償責任が螺旋状に身動きを取れなくしていく「真綿の罠」、
「かんちがい」と「ささいな事」が合わさった様な気持ち悪さの「つぐない」、
全5編ですが、うしろ4つはどうも女性誌的悪趣味というか、サービスエロというか、が後味として残る感じがします。

ともかく「虫」は傑作なので、ホラー漫画好きなら押さえておいて損のない作品です。
(あと載せませんが、裏表紙装丁の悪趣味っぷりがスゴイ)


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