『鈴木先生』はとても面白かった。
何が面白かったかって、その主人公である鈴木先生が先生として、男として、一人の人間として、「悩み過ぎる」ところが面白かったのです。
武富健治さんは、そうやって一つ一つの、僕たちが深く考え込むことをスルーしている日常の事象を、グゥーッと悩みぬく所を見せてくれるから好きです。本作『心の問題』においても、登場人物達は悩み、怯え、空回りし、生々しく考え抜いて見せてくれます。
表題作「心の問題」だけサラッとご紹介。
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引っ込み思案な男子小学生・心は、クラスカースト下層人間。そんな彼に、クラスのマドンナ的存在・沙羅が話し掛けて来ます。そんな彼は沙羅に憧れを抱くものの、別々の中学に進学することで、特に何もないまま二人は違う道へ。
進学した中学で、心は漫画やアニメの好きな同好の士に出会い、彼らと共に高校の漫研に入ることを目指す。
見事に四人の仲間達と目指す高校への進学を果たし、漫画研究会で活動に勤しみ始める心。
けれども、その高校には実は沙羅も進学していたのだった。
そこから彼は少年漫画のラブコメか、少女漫画の様な活躍を果たすのですが、
現実は漫画ではない。
悉く彼の目論見から事態は外れていき、アーイタタタタタタタ…となるのが、こちらのお話です。
そんで、上のショタ好きに受けそうな少年が、こうなる。
「日蔭」の住人だった彼は、「闇」の住人となり、絵に描いたような暗い青春を送ることになるのですが、
そんなこの話の結末に
そこからすくい上げてくれる光がさし—闇から再び抜け出せるまでに…12年かかった
と一文を加え、バッドエンドにしてないところが素敵です、武富さん。
この痛々しい「心」という少年の、思考の展開が青臭くてリアルでもう、たまんないです。「厨二病でも〜」なんてアニメをやってますが、本当の厨二病はやらかしたらもうほとんど取り返しのつかない、こういう状況を言うんです。キャラとして認められるような可愛らしいものではない。それでも、学校を卒業したらそこまでの状況は終わりだ、ってのが上の一文の文意かと思います。
全ては過ぎていく、どんな嫌な思い出も、黒歴史も、過ぎ去って過ぎ去って、百年後には当事者の自分さえ過ぎ去ってしまうのです。そう考えれば、別にどんな「失敗」をやらかしても良いじゃん、って「心の問題」を読んで思いました。
「学校」という、閉鎖的環境ならではの「痛い話」。
これがジャンプスクエアに掲載、ってのもたまんないですね。思わずむせ返る。
この作品も含めて、様々な人達の非常に生々しい思考の展開を味わえる作品ばかりの短編集です。
惜しむらくは、この作品集の後半がホラー作品で埋められている所。
ページ数・値段半分にして、分冊しても良かった位です。でも「武富健治の作品集を読み終わった」という満足感は、とても心地の良いものでした。
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