Subbacultcha

「サブカルチャー」という括りの下、文学・芸術・漫画・映画等について述べます。

2013年7月10日水曜日

キミも綱の引き手の一人なのかもしれない 諸星大二郎『闇綱祭り』

諸星大二郎がビッグコミックに40年ぶりに登場!
…つっても俺は40年も生きていないので、その感慨は味わい様がないのですが、
いつもの諸星節が冴え渡る良作だったので、簡単にご紹介します。
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主人公・リューイチの住む町には、「闇綱祭り」なる祭りがあり、その祭りの神事に「オツナヒキ」というものがある。
 どうやら綱引きらしく、リューイチは初めて「ヒキテ」、その引き手に選ばれます。

 神事なので当然神社で行われるのですが、その祭り名同様に、「片身神社」なる相当怪しげな神社。
一体、「オツナヒキ」とは何なのか?
神主は詳しく内容について説明するでも無く、「ヒキテ」達に
「この世は均衡が大事。オツナヒキで一番大事なのは均衡であって、勝っても負けても駄目。」
と、何にも伝わらない説明を行います。
ちゃんと説明しろ!社会人なら怒られるレベルだぞ!

そして詳細不明のまま、リューイチは「闇綱祭り」当日の夜を迎えます。

綱の片側にはヒキテ達が、もう一方は神社の「いつもは閉じている中央の扉」の中に渡され、闇に包まれてその先は見えない…。
ホラー映画なら「こんな所にこれ以上居られるか!俺は自分の部屋に帰るぞ!」と言い出す輩が出て来そうな、不穏な空気が漂います。

そして始まる「オツナヒキ」。

リューイチ達ヒキテと、もう一方から引っ張る「ナニカ」達。
何か引っ張られるので、
「そーれっ!そーれっ!」とヒキテ達が力を込めると、神主が「緩めろ緩めろ!」などと言い始める。無理だよ、コエーよ!緩めたら「ナニカ」に引っ張られちゃうじゃねぇか!とばかりにヒキテ達が引き続けると、「ナニカ」がこっちに引っ張られて来る。

何かキターッ

その年は「何かキター」だけで終わったのですが、翌年、またヒキテに選ばれてしまったリューイチを中心として、皆が全力で頑張った結果…

 「均衡」は崩れて、「闇綱祭り」はその年を最後に、行われなくなります。
「ヒキテ」でも「ナニカ」でもなく、「闇」の到来によって、「この世の理」の均衡が崩れてしまうのです。
そう、この夏の日本を包む猛暑も!有権者の生活を無視した、候補者達の行き過ぎたテンションの選挙活動も!何故か払ってるのに返って来ない計算になる年金も!全ては「闇綱祭り」によって、この世の均衡が崩れたことによって起きている影響なんだよ!な、なんだっt(略)

「人間の理」を越えた所に存在する、この世・あの世、それ以外の全ての世界や可能性に共通する理、「全てを貫く理」の存在を思わせる、諸星節たっぷりの佳作でした。
「個人的な思い」が、「理」にちょっと触れてしまう様な。読んでる自分も、ひょっとしたら、何処かでちょっと「理」に触れている部分もあるのでは、なんて。
雰囲気としては、妖怪ハンターシリーズの『闇の客人』に近しい感じの、物悲しいもの。
あの短編、ラブクラフトの『ダンウィッチの怪』を、見事に日本的な雰囲気に接続した感じで、とても印象に残っています。
この短編、いつか本に収録されることもあるんでしょうが、諸星ファンなら是非是非読んでみて下さい。今なら、まだヤフオクなんかで、単なるバックナンバーとして安価に手に入れられますよ。



余談。同号掲載の『そばもん』が、コロッケそばを食べる、って回だったんですが、その美味そうなこと美味そうなこと…。
思わず、「コロッケそば喰いてぇ」と思う事間違い無しですよ。
主人公がビールと合わせて楽しむはずだったコロッケが、蹂躙され、他人にインスタントのカレーうどんにぶち込まれて行く様は、とてもとても悲しいものだ…。


諸星ファンなら、こちらも観れるウチに是非是非。

「呪わしい雰囲気」を実体験として味わいたいなら。

掲載号。




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