Subbacultcha

「サブカルチャー」という括りの下、文学・芸術・漫画・映画等について述べます。

2017年6月21日水曜日

川崎ゆきお『恐怖!人喰い猫』


川崎ゆきお『恐怖!人喰い猫』
怖さ:☆☆☆
造型:☆☆☆
状況:☆☆☆



☆満点作品です!
川崎ゆきおさんが唯一、立風書房・レモンコミックスから出版した恐怖漫画(画像はのちの復刻版)。

丸尾・大越孝太郎的、ガロ的先鋭さを追い求め街の古本屋に繰り出していたあの頃、本棚にあった『猟奇王』、一体どんな尖った表現がこの本の中で爆発しているのだろう、とワクワクしながら抱えて帰り、開くる、…なんというつまらなさ。
そう、その本は「猟奇」とタイトルに掲げていながらも、おっさんが夜の街を走り回る「だけ」の、異様なつまらなさのマンガだったのです…。

大変失礼ながら、川崎ゆきおさんの作品は「どれもあまり面白く無い」。
今でこそその唯一無二のつまらなさが、この人にしか描けない日本産ローファイマンガである、とそれなりの評価が出来るものの、当時は「川崎ゆきお=つまらないマンガを描く人」と刷り込まれてしまったものです。絵にもそんな魅力感じなかったし。
だから、この人の恐怖もの、たって、「レモンコミックスがとりあえず出した」系のアレでしょー?と完全に舐めて掛かっていたのですが…。

猫に喰われるという恐ろしい夢を最近立て続けに見る、桃ちゃん。
街での不思議な出会いから、その恐ろしい夢と現実との境目があやふやになってしまう。

人喰い猫の世界に迷い込む・学校に行くとクラスメイトが皆化け物になって襲い掛かって来る・家に逃げ帰ると両親が自分を殺そうとする。
川島のりかず作品に、『怨みの猫がこわい!』という幻惑・現実を行き来させられる頭がおかしくなりそうなヤツがありますが、それを更に凶悪にした様な異様にトラウマティックな表現が多く、かつ、絵がヘロヘロしていて作者の本気が何処にあるのかも掴めないため、誰が主人公の敵か味方かを「そのシーン毎をしっかり読むこと」でしか把握出来ない。

全集版でしか読めないあとがきを読むからに、川崎ゆきおさんがこれを狙って作った感じは無く、「仕事として追い詰められてフツーに描いた」という偶発性がコレを産んだ、からこその「他の川崎ゆきお作品との違い」があるようです。
これ以後、川崎ゆきおさんは恐怖モノは描かれてませんし、コレを狙って描いたらおそらく猟奇王+B級ホラー映画=C級ホラー漫画にしかならんのでしょう。
「何が起きるか分からない」からこそ産まれた傑作。

なお、「思春期的な空想世界からの脱却を目指す」という大筋のストーリーの面白さ、これは寺山修司がよくやる「虚構と現実のせめぎ合いに、自分の中で区切りを付ける」という「現実VS虚構」という自分の大好きな要素もあって、ベスト川崎ゆきお作品です。

3作くらい川崎ゆきお作品を頑張って読んで、是非とも触れて欲しい作品。



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