Subbacultcha

「サブカルチャー」という括りの下、文学・芸術・漫画・映画等について述べます。

2017年7月2日日曜日

西たけろう『地獄帰り』



西たけろう『地獄帰り』
怖さ:☆☆☆
造型:☆☆
状況:☆☆☆


読んだことのない貸本ホラーの面白さを購入前に判断するには、

事前知識>作家の知名度>表紙の感じ

という、結局「知ってなきゃ買えない」という状況があり、まぁそもそも40年50年前の漫画なので大体中身を既に知っている人が居て、評価者が居るため、古書価が付いている、というものだと思うのですが、
この『地獄帰り』を見た時、(勿論西たけろうは知っていたけれどもこの本の中身は知らなかった、が、)「コレ絶対当たりだ」と感じました。
…当たりでした。

「地獄」という言葉を聞いた時、凡人は、キリスト教的・仏教的地獄を思わず思い浮かべてしまうでしょう。
が、天才・西たけろうの描く地獄は、そんなありふれたものではない。

唐突にヒロインは「地獄」に落とされてしまうというか、空間軸を移動させられてしまうのですが、その地獄が「日常そっくりだけれども、色んなその部分部分が空白、なのに自分以外の人間はその空白を当たり前のものだと思っているばかりか、主人公がその空白に戸惑う様子を見て、笑う」というもの。何言ってるか分かんないと思いますが。

具体例。
お父さんが新聞を読んでいる。が、その新聞には何も書かれていない。
お母さんがテレビを見ている。が、モニターには何も映っていない。
そのことをヒロインが指摘するも、全く無反応。

…自分の信頼していた者達が、あからさまな敵意では無く、徐々に徐々に、主人公を孤立させるかの様なディスコミュニケーション具合を見せて来るのです。
ああもう、いっそ殺してくれ。そんな気持ちになってしまいます。

自分の信じていた日常の狭間にある異世界を、地獄と呼ぶならば。
読む者の日常を揺らす、強烈な、恐怖。


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