Subbacultcha

「サブカルチャー」という括りの下、文学・芸術・漫画・映画等について述べます。

2015年12月22日火曜日

このマンガがすごい2015(ダーク編)



見て下さい、これ。
昨日、翌日が出勤日だというのに、届いた棚を夜の1時まで組み立て続けて、入れ替え入れ替えして結局寝たのが4時だったにもかかわらず、全然収まりきらんかった本(マンガ)の山。こんなに前後不覚な感じで育ってしまって、お母さんごめんなさい。

こんちわー。年の瀬です。
そんな訳で今年もこのマンガがスゴいを陰湿なヤツが、陰湿な感じで選ぶ。せっまいランキング、始まります。

本家と同じく、対象は「2015年中に出版されたマンガ単行本のみ」
また、ちょっと被りそうになりましたが、「本家と重なる選出作品なし」でした。

今年の「このマン」は、マンガに日頃から慣れ親しんでいる人だと、あんまり意外性のないものではなかったか、と思います。順当、正に順当。
ぜぇーったいダンジョン飯とヒロアカは入ると思っとったもんね!へっ!
九井諒子さんをダンジョン飯から読み始めるとか、にわかもにわかですよ。発売時に「竜の学校」を買ってるとか当たり前っしょ。それよりもさ、「西には竜がいた」を目にしてないマンガ好きなんているんすかねぇ?九井さんつーたら、イーストプレスでもビームの作家でもなくて、コミティア系っしょ?ねぇ?
(19の「すべてへ」を心のジュークボックスで流して、心の平静を促す。「売ーれーる前からー知ってたよー知ったかぶりをー着こなしてー」)

…フゥーッ、フゥーッ、クワッ!

はい、では俺がビビッと来た10冊、ご紹介します。
ベスト3以外は、順不同・同列です。


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・ホリユウスケ/シャッフル学園

園子温だし、血まみれの女の子だし、どうせあれだしょ?学園パニックものに某かの目新しい要素を加えた感じのヤツか、血みどろの青春ものかみたいなヤツっしょ?
と思ってページを開いたら、始まって1ページ目からやられた。この殺人鬼像がスゴい2015。
如何にも「人間失格じみた殺人鬼」って、たとえば西尾維新なんかがバンバン出してて使い古されたような感があるのですが、見せ方がスゴい。映画チックなのに、マンガじゃないと出来ない・見せられない画面といいますか。
で、ネジが外れた殺人鬼が学校に侵入した状態で、政府の謎の新兵器により、1クラス全員分+αの人格が丸ごと入れ替わる!あいつが俺でお前がわたしで貴様ねこだったのかニャー!盛り込み過ぎ!!
1巻ではまだキャラ紹介みたいな状況ですが、既に死者続出。どんな展開を見せるのか、怖い、覗きたい…。もうパニックホラーとかいいから、と食傷気味な人にこそお勧めしたい、「新たな学園パニックホラー」。


・白山宣之 / 幻の花

手に入れにくい過去単行本と、未収録3編を掲載した、白山宣之短編集。
白山宣之のベスト作品は『10月のプラネタリウム』掲載の「平太郎お化け日記」で、それを越える作品は残念ながら今回収録の作品の中にはなし。
けれども面白いマンガが色々載っているので、著者の作品未読の人にもオススメの単行本ですが(にしては値段が敷居の高さ上げてますが)、何よりも、この装丁・小冊子・タイトル・高寺彰彦によるあとがきという組み合わせの妙に胸を打たれました。

自分の興味のある・好きなことのみを題材にしていた「白山宣之」という作家。生きていれば、寡作ながらも発表された作品を、これまたひんまがったマンガ読みみたいな奴らがニヨニヨしながら読む、ずーっと、みたいな作家さんだったのだろうな、と思うと、もう読めないのが悔しい。過去作をもっと世に広めて、オオトモのように海外人気のある作家になって欲しい、でも過去作が絶版で手に入れにくい。
そうした背景の上に咲いた白い「幻の花」
推理のように、ッカーンと何かが合わさる感じではなく、ジワリジワリと重なりが自分の中に生じる、そんなイイ感じの組み合わせでした。
表題作はプロットのみで「作品」化していないのですが、これも白山さんの筆にかかるとオッ、て思わされる作品になるんだろうなあと思うと、また悔しさが心に到来。イヤな悔しさじゃないんですけどね。
『少年塔』『10月のプラネタリウム』辺りはともかく、『地上の記憶』を読んだら次は是非これを読んで欲しい、そんな本でした。






・山本章一 / 堕天作戦
「裏サンデー」のマンガが面白い、っていうのは何となく悔しい感じあるんですが、分かりますかね、この感じ。
いや、でもこれは是非ともプッシュしたい。
単行本には一章・二章が丸々収録されているのですが、一章がほぼ丸々気球の上で物語が進行します。にもかかわらず「物語」の面白さが削ぎ落ちない、高強度の物語性・キャラクター性・設定。タイトル「虚空処刑」。
ウェブで読んだんですけど、びっくりしたんですよ。一話だけじゃない、一章分のほとんど全部、気球の上なのにちゃんと物語が展開する!って。ごめんなさい、上の文章の繰り返しですね。いやあ、でもこれはハマる人はスゴいハマる。
無感動・無関心になるほど闘争に巻き込まれ続けた「不死者」である主人公が、如何に感動と関心を取り戻し、如何に闘争を始めるか、という話。
魔法・魔人・不死・怪物・近未来・能力バトルといった、一見手垢が付き過ぎた要素を組み合わせ、斬新に見せているにもかかわらず、それは単なる素材でしか無く、話の柱の部分は「戦う人生の美しさ」。これ大傑作になるかもです。
メタリックドクロが、購入前はなんて悪趣味な装丁なんだ、と思いましたが、読了後にもう一回見ると、こりゃあ豪華な装丁だぜ、等とアカラサマに感想が反転している自分に苦笑。



・久正人 / ノブナガン 6
まだコミックが4冊くらいしか出てないのに、アーススターがアニメ化をし始め、俺は一話しか観なかったのですが案の定こけて、アーススターめ、久正人さんを使い捨てとかほんと許せねぇ…!と俺がアーススターを憎み始めた、個人的にいわくつきの作品。
でも、そのあと、アーススターはデビュー作品・単行本未収録作品で構成された『フォービリオンナイツ』なる単行本を発売してくれて、許せない、許せないけどありがとう!ってなりました。
なので、あんまりこの作品に対して期待が無かったというか、あんまり著者の他作品のように好きになること無いだろうな、と思っていたのですが、この終わり方はスゴい。
割とノブナガンムテキ!サイキョー!みたいな感じで、悪くいうと一騎当千の主人公がバッタバッタと敵を薙ぎ倒すだけの中身が無いマンガと化していく雰囲気があったのですが、最終巻で、しかも新登場のキャラクターが出て来たり、敵の強さがインフレしたりと打ち切り臭を漂わせながらも、中身の無さを全部ひっくり返す様な、「強烈な痛み・苦しみを抱えた終幕」へと突き進んでいく物語には驚かされました。
アニメきっかけで、3・4巻で切っちゃった人は、是非とも最終巻を読んで欲しい作品です。
でもやっぱなぁ、もっと色んな「偉人」の活躍が見たかった…。胸躍る設定に対して、6巻という量は、少し短過ぎました…。
同時発売の、『エリア11 11』『ジャバウォッキー1914』も安定の面白さだったので、氏のファンは安心して買うべきだし、ファンじゃなくても買うべきだよ!!




・宮崎夏次系 / 夕方までに帰るよ


『ホーリータウン』との同時発売、宮崎さんの連載デビュー作品だそう。
DVから新興宗教へと鞍替えした両親、だが家から出て行ってしまった姉、そんな姉を含めた引きこもりを集めて専用のアパートを管理する管理人、姉を連れ戻したい「僕」。
歪み過ぎて、どこか現実とも重なり合う所を持つ、夏次系流家族の再生神話
まさか去年もグッと来たのに、今年もグッと来る訳が無い、こんな如何にもサブカルみたいな作品に、と思って構えて読んでいたのですが、危ない、涙腺爆発しそうになった。
端的に言えば「家出した姉を連れ戻すだけの話」なのですが、両親・姉・管理人・僕にそれぞれの信条・心情があって、それはうまくいかない。でもうまくいかないなりに折り合いを付けていかねば、生きていくこと自体、出来ないんだ、と思わされる所に涙腺爆破ポイントがあります。
人間関係の中で、何が譲れて、何が譲れないのか。ちょっとしんみり考えてみたい人、ぜひ読みましょう。





・金風呂タロウ / 呪界
つい先日発売された「アトモス」、休刊しちゃったそうで。
ホラー漫画に力を入れた「ホラー漫画誌」というもので、女性向けのジュクジュクしたヤツを除けば、この雑誌以外の現行誌は無いように思います。惜しい。
が、俺たちがただうな垂れる必要など無いッ!何故ならばッ!!少年画報社が心霊・恐怖体験漫画新人賞なるえらく偏った賞を募集しており、そこから現れ出でた金風呂タロウという男(多分)が居るからであるッ!!

ストーリーは良くも悪くも映画コミカライズなのですが、なんと言ってもこの絵。
表紙を見た時にウッてなる、耐性の無い人に見せたら表紙の時点からえこれ無理とか言いそうな、この闇を感じさせるグリグリした絵柄。
これがきちんと「漫画」する感動ですよ。
ホラー漫画を描いている作家さんは勿論現状でもいらっしゃるのですが、伊藤潤二・日野日出志・犬木加奈子、そしてひばり書房といったレジェンドに並ぶ、オリジナリティ溢れる怖い絵柄の人は久々の登場ではないか、と思います。
買って応援して欲しい、そして次を是非とも読みたい作家さんです。

➼ コンビニコミック叩いてみればホラー復古の声がする『呪界』

・つげ忠男 / 成り行き
往年の作家、久々の単行本。
またしても理不尽な暴力、格好の良い無頼漢、そして日常に潜む無常をテーマとした作品群、であるのですが、しょっぱなに入っている「夜桜修羅」という短編の世の中の包括っぷりが凄まじかった。
たまたま桜の下に出会った、老人・男・女。の筈だったのに、老人そっちのけで会話し始めた男と女は、何故か殴り合いになり、殺し合いに発展していく。その修羅場を止めたいと思いつつもどうなるか見ていたい、という老人。
画像のこのあとのシーンからが、つげ忠男にしか描けないのではないか、って毒まみれのシーンが何ページが続くのですが、表現としても面白いし、あ、そういえば世の中ってこんなだったかもしれないと気づきを与えられる感じもします。老いたことでシュール具合にキレが増している…!
「妄想代理人」のOPを観て、恐怖とともに何か麻薬感の様なものを感じてしまう人に、読んで欲しい短編です。


さぁー、ベスト3でガンス!

第3位

・福満しげゆき / 中2の男子と第6感
『生活』『娘味』と、映画化が2個もあって嬉しい、福満さんの連載中作品。
ただ、奥さんが出来、子供が出来、中堅以上の漫画家となり、幸せ度が増える度に、コミックエッセイ・エッセイは威力を落としていく…。しゃーないとは思うんですが、でも、反比例的にエンタメコミックは面白くなっていってるのではないか説。
『ゾンビ取りガール』も2巻から加速して面白くなってると思うんですが、中2はすごいですよ。だって妄想の余り「師匠」という女の子を生み出したのに、その妄想には「本体」がいて、2巻ではなんとその本体のおっぱいを揉んでしまうんですよ!?(重大なネタバレ)
で、その揉むまで・揉み中・揉み後の内面の変化といったらもう、男ならワクワクせざるを得ないと思う。どんなエロ漫画でも、中々揉んでる男を客観的かつ主観的に、なんて高度なことはやりません。エロシーンの邪魔だし。完全に男性視点の漫画ですが、女性にもちょっと読んでみて欲しい。こじらせた男性の破壊力を少しでも知ってもらえるかも。
ゾンビ取りからの流入のような細々した福満アクションシーンも、楽しさ溢れます。


第2位!

・櫻井エネルギー / 櫻井大エネルギー
何この溢れ出る想像力の総合商社。
エロ漫画誌快楽天のギャグマンガ枠、待望の単行本化。ツッコミ役不在のまま突き進むハイテンションっぷりが生み出す様は、カオスを越えて地獄
落ち込みから回復する時はしばらくこの本を利用させて頂くのでは、と思います。
たまたま買った快楽天、載ってた「変身!松下くん」を一度読み、なんか変な漫画が載ってたなとスルー、忘れた頃に再読、あれ?怒ると美少女、ワニ、魚、笹かまぼこに変身するって漫画的に凄い?凄い作品じゃない?あれこれ凄いよ!エネルギー革命だよこれ!と惚れ込んで付いてきた甲斐がありました。素敵な無意味。


第1位!!

・阿部共実 / 死にたくなるしょうもない日々が死にたくなるくらいしょうもなくて死ぬほど死にたくない日々 2
アァアアア!癪だ!癪過ぎる!まず「阿部共実が好き」っていう立ち位置が癪!ビームでもアックスでもない、チャンピオンの漫画読む私主体的でしょアピール!でもそれ、去年のこのマンガがすごい一位のマンガ描いてる人ですからー!そりゃお父さんやお母さんは知らないけども、漫画が好きな人の中ではドメジャーな作家ですからー!人とは違うサブカル者アピール斬りィ!残!念!
おまけに「本家とは(選ぶものが)違う」等とのたまって、去年自分が選んだ作品をもう一度選ぶとか自演!ナルシズム!パない、パないのうwwwwお前様wwwwww

Be Cool...フゥ、取り乱しちゃったぜ…。

はっきり言って、阿部共実さんの「死に日々」人間ってもうお家芸なんですよ。
誰しもある、恥ずかしい自分。それを浮き彫りにする、空灰・死に日々・ちーちゃんといった作品群。「群」なら特に、「あー、阿部共実さんの漫画読めた!良かった!死にたいけど死にたく無い!」みたいな感想で終わった、のですが。

2巻には脈絡も無く、異様な作品が二つ掲載されていました。


「8304」
持つ者と持たざる者。
「友情」という形の無いものを、絵と台詞で表そうとする漫画オブ漫画。
漫画友達ともいうべき後輩は、これを読んで「あまりにもホモ臭くてちょっと受け付けない」と言っていましたが、その感想もよく分かります。友情も恋情も愛情も、好きという言葉で片付けられるのです。その微妙なライン、気安さ・羨望・純情・青春を、絵で表そうとしているように、俺には思えました。
じゃれ合う二人の男子高校生。「松田」には裕福な家庭があり、友達がたくさんおり、天真爛漫な性格。「けんちゃん」は読書好きで、内向的で、おそらく松田くらいしか友達が居ないのに、松田のことを「松田」と呼ぶ。
「二人で仲良く喋っていたら」、と思ったら、突如けんちゃんは「松田といると辛いだけだ」と口走る。
松田と喋りながら、けんちゃんは目に映る景色を、色彩を織り込んで感じ取っている。「灰色の空の水色のひび割れ」「電線は町の中を黒い血管のようにはりめぐっている」
二人の心の中には景色は無く、びっしりとブロックが埋め尽くしている。
「なんで僕は君とちがうんだ」とけんちゃんが言うと共に、景色はけんちゃんに迫って来て、プールは赤紫色になり、塩素は鼠色になり、廊下は金色に怖くなって、二人の心の中はどんどんバラバラに細かくなっていって、闇に吸い込まれていって、ブロックは粒子になって、闇は光に反転して、水滴が光を反射して、二人は自転車に乗って。
雨に濡れてじゅくじゅくした思いと、雨が晴れて煌めきの中を自転車で走った思いで。そのキラキラは主観性の強いものですが、この表現方法はかなりキャラクターの思いを共に感じられるものだと思いました。
ホモ臭さ、と言えば、「ギャル子ちゃん」の鈴木健也さんの短編集『寒くなると肩を寄せて』にも友情について描かれた作品があるのを思い出しました。ホモセクシャルな感じがしますが、「思い詰める」という意味では友情も愛情も大差ないのかな、なんて思ったり。

「7759」
「8304」より、より抽象度を上げて、二人の男女を描く。
こちらも色彩を感じさせる台詞が美しく物語を彩る、のですが、抽象度が高く、今一何の漫画か分からない。あーなるほど、と思いながら読んでいくと、理解不能なエンディングへたたき落とされます。
この読者への不親切さ、自意識の肥大感は、ガロを読んでる時の読感に似ています。
理解不能なんですが、美しい。
人に読ませて楽しませる、というエンターテイメント性を削った時にこそ見える「阿部共実」という作家性。「8304」で大事にされていた「キラキラ」を、真っ向から否定する様な、ぬるりとした闇。
この2作品がこの単行本に同時に掲載されていたことで、阿部共実は単に「イヤな気持ちになる系商業作家」ではないことをガツンと思い知らされたのです。じゃあ、この作家は何なのか、って言われても上手く説明出来ないんですけど…。
次の単行本も買わなきゃ、と思わされました。




今年はグッとくるのが多くて悩みました。以下次点。これらもすっげーオススメなのです。

・ルノアール兄弟/少女聖典ベスケ・デス・ケベス ルノアール兄弟流スタンドバトル。
・沙村広明/波よ聞いてくれ もしかすると沙村さんの中で一番面白い作品になるのでは、ってポテンシャル。ラジオ云々より独身女の精神描写がイイ。
・ドリヤス工場/有名すぎる文学作品をだいたい10ページくらいの漫画で読む。 水木絵柄のドリヤスさんが文学描くという素晴らしい出会い。
・あだちつよし/怪奇漫画道 彼らは如何にしてホラー漫画家となりし乎。日野日出志さんの生い立ちは是非読んでおきたい。
・藤田和日郎/黒博物館ゴーストアンドレディ ナイチンゲール。ノブナガンと合わせて読むとより面白い、かも。ラストはやっぱり涙腺にくる。
・呪みちる/火星高校の夜 過去作全部持ってても、買わなければならない本。フラットウッズモンスターを呪先生直々に描いて頂いた俺は勝ち組。
・伊藤潤二自選傑作集 新規収録はないのでファンには勧め難いけど、納得の収録内容。
・第年秒/5秒童話 中国からの刺客。ちょっとキャラが不自然に動く気持ち悪さはあるけども、発想力が素晴らしい、新しい。

悩みました。
もうちょい少女漫画にも手を出せると良いなーと思ったり。
ではでは、よいお年を。

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