Subbacultcha

「サブカルチャー」という括りの下、文学・芸術・漫画・映画等について述べます。

2014年7月9日水曜日

タイムスキップコメディはSFラブロマンスへ『星屑ニーナ 4』、あと時間ものSFの色々とか



発売からもう半年近く経っちゃいましたが、大好き過ぎる『星屑ニーナ』の終わり方についての感想などなど。
溜め息をつくほど、イイな、と思えるシーンが多過ぎました。
それに関連づけて、タイムスリップ、トリップ、スキップなSFのなんやかんや。

※ネタバレあり
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1000年後の世界に向かった「ピッピ」は、孤独な者同士「サソリ」と共に暮らすように。
けれどもサソリに諭されて、彼女は「現代」に戻って来て、「星屑」に出会い、父母と「自分」に出会い、別れを告げて、彼らを、人類を救うため、人類滅亡のきっかけになる最初の宇宙雷魚の居る時代へと向かう。
…うーん、複雑怪奇。
お金の必要な時代において、お金の無い二人。バレなければいい、と商品を盗もうとしたピッピを星屑が止めます。
「お金」について学ぶことの無かったピッピと、「学んで来た」星屑との対照的なシーン。ピッピが時代を越えて「ココ」にやって来るのも胸がアツいのですが、蓄積して来たもの全てが星屑の中に「在る」ことがこのシーンからイヤが応にも意識させられます。

最初の宇宙雷魚をなんとかするために、「えさ」と「乗り物」を手に入れた二人。
空には「誰か」が既に居た…。

「星屑時間」にして、気の遠くなるような長い年月の後の、邂逅。

と、ここでまた唐突に新キャラ・新エピソードが追加されます。
最終巻なのに!
パラレル(将棋やチェスに似たボードゲーム)の達人・ギロさんと、「何か」を抱え込んだ少年・ビリー。
「何か」を抱えている少年に対して、ギロさんはパラレル勝負を持ちかけます。
…ビリー、圧倒的に負ける。
で、何回かビリーはギロさんに挑戦することに。その間、ギャラリーの人達から、ギロさんに挑めるのは三回まで、でももし勝ったら何でも願いが叶うよ、等と突然ゲーム性を格段に上げるルールのようなものが提示されます。
ビリーが二回負けた時点で、ギロさんから叶えたい夢があるのか、と質問。
「好きなヤツがいて、ギロさんに勝てたら告白しようと…。」
「チャンスはあと1回だ」
色々な含意を感じさせるやりとりです。
「好きなヤツに告白する」という日常的な事象を、しかも「成就する」とかではなく、あくまで「告白する」というビリーの気持ち次第で起こせる行動を「願い」に託すビリー。ギロさんはそれを貶す訳でもなく「チャンスはあと1回」と現実を突きつける。

それでも「願い」をかけるビリーに、ギロさんは「何事にも動じないハート」、つまり自分の外側で起こる様々な事柄・降って来る事柄、運命論的な何かよりも、個人の自由意志が、強い意志こそが大事なのだ、と言って立ち去ります。

そしてビリーはその言葉を胸に、ギロさんに三回目の勝負を挑む前に、告白を実行に移してしまいます。が、あっさり「彼氏が居るから」と断られてしまいます。

玉砕したビリーはその足でギロさんのところに向かい、三回目の勝負を挑む。
願いは「ギロさんに勝つことそのもの」。吹っ切れたビリーの青臭い格好良さがたまらんシーンです。

三回目の勝負、今度はギロさんを相手に善戦するビリー。
そんな彼らの頭上を「宇宙雷魚」が泳ぎ始める。

と、また視点が変わり、宇宙雷魚を追いかけていた星屑とピッピ、ニーナは宇宙雷魚に喰われ、その腹の中で初コンタクト。

ニーナが熱帯魚屋の店主から受け取った「宇宙雷魚の餌」により、ピッピは宇宙雷魚の腹の中に入って来れた。街から遠ざけて、宇宙雷魚を逃がそうとした。が、そのニーナの行動が、地球に宇宙雷魚の群れを呼び寄せる発端となり、それが人類を滅亡させる要因になったのだ、と説明・もといニーナを責めるピッピ。
「最初の宇宙雷魚」を退治するため、時空を渡り歩いて来たピッピの意志は強い。


ピッピは宇宙雷魚の体内を攻撃し始めますが、苦しみ、のたうち回り、辺りのモノを手当たり次第呑み込み始める雷魚。街への被害を見てニーナはピッピを止めようとするも、ピッピは「自分の家族」を守るだけで精一杯だ、と主張。
吸い込まれて来るビリー、飛んだとばっちり。
ただ、自分のことで手一杯と主張したピッピが、彼を助けたことで、ニーナは彼女に協力することを決めます。

で、宇宙雷魚の心臓を破壊することに成功。人類は救われた!
のだけれど。

宇宙雷魚の死が確定した瞬間に、ピッピは消えてなくなった。
宇宙雷魚によって地球が滅ぼされる、という事象が無くなり、宇宙雷魚を消しに時空を旅して来たピッピという可能性は消されて、「ニーナ」が存在する現時間において、ピッピの存在は無かったことになる。タイムパラドックスの解消、時間の自己修復性。

ビリーは時間の経過と共に「ピッピ」の存在を記憶から失ってしまうのですが、何故かニーナはピッピのことを覚えており、忘れてしまったビリーに癇癪を起こしてしまいます。

宇宙雷魚の中から出て来た三人を出迎えたのはギロさん。
ニーナの口から出た「ピッピチャン」という単語に何か思うところがあったのか、と思うが素早く「皮をビリビリに破り」、中から出て来たのは「熱帯魚屋の店主」であり、「カミサマ」だった。(!?)
カミサマは遠くを見渡します。10年、20年、飛ばして70年、ルイが産まれ出て更にそこから21年、ルイとポポが運命的な出会いを果たし、更にそこから5年、一度別れた二人がまた出会って、更にそこから7年、大きくなったピッピのことをカミサマは見つけます。




ピッピは居た。決して存在が消えてしまった訳では無く、「ニーナの居る時間軸」へ行く必要が無くなった、行く未来が無くなっただけだったのです。
エヴェレット的な、枝葉宇宙ではなく、一本線の時間軸。
カミサマの出会ったピッピは、手の中に何かを隠していました。
友達だというサソリ。
ピッピの友達の…サソリ!!!!
嬉しくて踊り出すカミサマ。これだよ、福島聡作品にたまに感じる多幸感。僕も踊り出したくなるほど嬉しいシーンでした。

でまた視点が現代に戻って。
ビリー君の愛しの君も、宇宙雷魚に呑み込まれており、怪我をしていたため、彼女はそのまま病院に運び込まれました。
「彼女のことが好き」というビリーに、星屑は矢継ぎ早に質問を投げ掛けます。
「好きとは何か?」
星屑は煮え切らぬビリー君から、「ひとまず話がしたいということ」と答えを引き出させ、それを実行に移させます。星屑君マジ天使。

宇宙雷魚によって壊された町の復興を手伝う中で、「この時間軸に居た筈の星屑の頭」を見つけ出してしまう二人。
この世界の時間軸は一本線ですが、今こうして喋っている星屑は「未来からやって来た星屑」であり、こうして壊れている星屑は「今の星屑」。でも「今」が壊れているなら「未来」は存在し得ない筈なので、ではこうして喋っている「星屑」は一体…?
タイムパラドックスがおきそうな事象が、何の気無しに起きてしまっているのですが、星屑は壊れた頭に対して、これは「この世界でニーナさんと出会えなかった壊れたロボット」である、と述べます。コレにはニーナの記録が無いため、価値が無い、と「ロボットであるはずの星屑が独自の価値判断を述べる」のです。
 ちょっと話がややこしくなるのですが、ニーナと出会うことで、「モノ」である筈の星屑が、「自由意志」を持つ存在「ヒト」へと分化したため、「モノの星屑」と「ヒトの星屑」とが別存在になってしまった…?
何にせよ、こうして果てしない時間の旅を続けて来た星屑が、ニーナという大きな存在を「心」に抱えた、「ヒトに近いロボットになった」ことが、読者に対して明示されます。

「ニーナという記録(記憶)が無い自分なんて、自分じゃない」と、人間的な価値観からすれば女々しい発言をした星屑に対して、ビリーが説教!
記憶の中に生きるな!現実のニーナに愛の告白をしろ!
…あ、と星屑に説教をしていたつもりが超ブーメランなビリーくん。

で、直で告白しに行くのかと思いきや、上手く切り出せず、告白もままならないまま、ビリーくんはデートをすることに。このデート描写が、また堪らなく甘酸っぱくてサイコーです。そのデートについていくことで、「キスにどうやって展開するのか?」を学ぼうとする星屑。あるカップルはキスするまでに10年と6ヶ月かかった、と話します。…フワァー、溜め息の出るような演出。
デート中に、上手いこと二人っきりの時間を作り出し、プリクラを撮ろうとした時!

我々はこの男性を知っている!いや!このモジャモジャとこの胡散臭さを知っている!
そしてこともあろうに、この男性はイイ感じの雰囲気のカップルに銃を向け、かくまってくれ、と不躾に頼んできます。無粋!!
そんな馴染み深くもクッソムカつく再登場を果たした男性に、この巻のポッと出の我らがヒーロー・ビリーくんの返しが格好良過ぎます。
実銃を構える相手に、銃指差しを敢行、リラックスの方法を伝えた上で、追われてるんならそのままの格好じゃまずいんじゃ?とアドバイスまでして、服を交換してやります。

誰だってそーなる。俺だってこーする。
…緊迫した状況でベストな判断を下せる、ってのはサイコーにカッコいいですよね。何故キスに到ってしまったのか、重要な局面を見逃した星屑の、無表情なのに悔しそーなこと。

そうして、色んなものを学習して来た星屑は、ニーナの家を訪れる。
ココからが本当の意味での「星屑ニーナ」の始まり。
星屑は如何にして、自分の思いを遂げるのか。
…ストレートでした。開口一番の「ボクと結婚してください」。ビリーくんには真似出来ない。俺にも真似出来ない。

 何十年も星屑と居たニーナ、ではないニーナは当然それを断ります。
「ピッピが居なくなったことを自分以外誰も覚えていない」という事実がやり切れず、落ち込むニーナ。「学習の成果」を披露する星屑に、興味は少し持つけども流石に結婚するほど突然好きにはなりません。
気晴らしに外出しようとするニーナに、星屑は様々な提案を持ちかけ、ドライブに行くことに。
好きってどういうこと、ロボットが言う好きってどういうこと!と怒り半ばで質問を叩き付けるニーナ。
「ボクにとって好きというのはそのヒトのことを毎日考え続けることです
ボクはニーナさんのことを3万7千6百日分考えてきました」 
凄い殺し文句。「毎日考えること、それを〜日続けた」の中には幾らでも嘘の混入のしようがありますが、「ロボットである星屑が提示する数字」は嘘のつきようが無く、物凄い説得力があります。思わずちょっとクラっとくるニーナ。
とはいえ、思ってくれるのは嬉しいけど、自分が星屑のことをそこまで思ってるかというとそれは別で、結婚は無理、家族としてなら、とニーナは答えます。
一旦また関係性を保留にしたまま、二人は無人島へ不時着。
雨が降り始めたのに、服を脱いで、海の中に突っ込んで行くニーナ。
それを見て星屑は「考えてるだけではダメです」と一人呟く。
そして。
 「好きとは?」という質問の答えを更に押し進め、考えているだけではダメだと判断、星屑は「好きという感情を行動で示す」ことに。壊れることも厭わず、海の中へザブザブと押し入って行く星屑。体中を塩水と雨水でショートさせながら語る星屑の台詞が素敵過ぎます。
「好きということを行動に表すとこうなりました
自分をコントロールできなくなる つまり 狂うことです」

目が覚めると星屑は人間になっていた。(!?)

 最終話で突然カミサマが登場、彼の台詞も中々心にクるものがあります。
「いろいろゴメンね なんにも出来なくて そのクセ余計なことばかりやっちゃって」
誰かが上手くいくためには誰かが損をし、自分の損は自分の損として一人で抱え込む。個人的に人生は自分の主観的な視点からすると、なんか上手くいかない、納得いかないことだらけなのですが、カミサマからこんな風に謝られちゃあ、愚痴を言ってくところもないです。こちらこそ自分の都合ばっかりでゴメンナサイ。
で、カミサマの気まぐれによって、星屑が人間になり、ハッピーエンドめでたしめでたしかと思いきや、「結婚は二人の思いが通じてのことだから、そこの所は自分にもどうしようもない」と言い残し、消えてしまうカミサマ。
無人島での二人のサバイバルが唐突に始まります。
 何日もの無人島生活からなのか、最初から心に決めていたのか。
徐々に二人の距離は近付き。
結婚しちゃいます。 

で、おしまい。星屑はこのまま二人でずっと暮らして、で、自分の方が先に死ぬ方が良い、と述べると、そうなるといいな、とニーナが笑顔で踊りながら返します。
このニーナの笑顔が本当に素晴らしいので、是非単行本で見てみて下さい。

「タイムトリップもの」の良さに関して、個人的に思うのは、「時間をかけ続けたキャラクターが、その犠牲を対価に素敵なハッピーエンドを手に入れること」ではないかと思うのです。やはり、時間は金というか、時間は金以上に物質的に何にも代え難いもの。経過してしまった時間は、それが良きにせよ悪しきにせよ、現在時点から追いかけて取り戻したり修正することは出来ません。
それがどんなSF的な形を取り、何度か同じ状態が繰り返されるとか、気の遠くなるような遠大な時間が一瞬で過ぎ去られるとか、にしたって、ある主観、つまり「主人公」にとってはそれは「経過する時間」なのです。

たとえば、今映画をやっている桜坂洋『All You Need Is Kill』(ちょっと映画観にいきたい)であったり
、『Steins;Gate』であったり
、では、何度も何度も主人公がタイムトラベル(ループ)を行うことで、過去を修正しようとしますが、タイムトラベルを行う度に主人公は脳に損傷を負っていきます。一人の人間は通常「一回しか生きることが出来ない」ゆえに、一人の人間のスペックを超える情報量により負荷がかかるためです。(『All You~』の中ではフロッピーのような記憶媒体が使えば使うほど劣化していく様に例えられていました)
「ひぐらしのなく頃に」においても、その物語群は「あるキャラクター」のループする能力による視点からなるもので、そのループ自体には何のデメリットもありませんでしたが、ループを繰り返し過ぎてそのキャラクターの心は疲れ切っており、全てをあきらめかける寸前で主人公がそれに気付いて、物語を終わらせる協力をする、という話でした。
そうして犠牲を負いつつも、「蓄積していく経験」を武器に、「運命」(主人公が理想とするストーリーにならない要因)と闘う様が受容者をアツくさせたのです。

「星屑」はロボットだったため、ダメージを負う脳味噌や、摩耗する心は持ち合わせていませんでしたが、彼が「ロボット」であるが故に、彼は周囲の時間の流れに参加出来ないまま、周囲の時間はただただ過ぎていきました。そのせいで「ニーナ」の死をただ黙って見過ごさなくてはなりませんでした。
周囲の時間がただただ過ぎていく、という様は、バリントン・J・ベイリーの『時間衝突
中における極刑を思わせるものが個人的にありました。こちらの作品中では意識こそが時間であり、「絶対的時間=今」という定点観測地点が時間の流れの中を動いている、という時間説を採用しています。「イマ」が「非イマ」の中を移動するのが「タイムスリップ」であり、「イマ」という時間以外は凍り付いているのです。どういうことかというと、人間の意識が存在するのは「イマ」だけで、「イマ」が存在しない時間、過去や未来においては意識が存在せず、それらはいわば単なる映像として流れているような、関与付加な別の次元体なのです。登場キャラクターの一人は重罪を犯して、「30秒過去に滞在させられる刑」を受けさせられていました。映像として30秒未来を見ることは出来るのですが、自分は過去の人間なので現在には関与出来ない、絶対的孤独な存在として生きなければならない、という。
辛い。
だからこそ、この4巻において、全ての学習を回収して来た星屑が人間となり、全ての時間の通過・「死」を眺めるだけであった星屑が、
「ボクは昨日夢を見ました ボクとニーナさんがココでズッと暮らしてて…ニーナさんより先にボクが死ぬ夢です」
という台詞を述べた時、彼がニーナと同じ時間を共有出来る様になったんだ、と思って胸がいっぱいになったのです。
通過して来た時間の全てが報われる終わり方で、本当に良かった。

…まぁ何が言いたいかというと、残業代寄越せよ!って話です。

2巻の時の感想。
➼人は死ぬが、ロボットは死なない『星屑ニーナ 2』

シュタゲのアニメ観てた頃の感想とか。
➼語らってみた『"しゃべろぐ"第2回!お題は「シュタインズ・ゲート」!』



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