Subbacultcha

「サブカルチャー」という括りの下、文学・芸術・漫画・映画等について述べます。

2021年12月31日金曜日

このマンガがすごい2021(ダーク編)

池川伸治先生の『新子だけの奇』より。



アッアッ!もう31日!!

好きなものに位は真摯で居たかったのですが、読みたい本(聖なるズーめちゃおもろかったです)はあるわ、ゲーム(スパロボの破界篇・再世篇をクリアして、あ、コードギアスが本編でやれなかった事をゲームで描くのとても良いですね、でMXが始まりました)はするわ、ソシャゲ(メギドとFGO、前者はもう芯から大好きなのですが後者は物語が抜群に面白い代わりに物語構造的・ゲームシステム的なキャラクターの使い捨てっぷりがキツい)はするわ、てーかお金稼ぎの面が様々にヤバいですわよで気にしてるマンガもちゃんと買えてない始末で、「今年のマンガ」について語るのがお恥ずかしい限りですが、まぁ自分ルールとしてとりあえずは綴っときたいと思うのであります。

→過去の「このマンガがすごい(ダーク編)


対象は「2021年中に出版されたマンガ単行本のみ」。

ベスト3以外は順不同・同列…という感じでやって来てましたが、もう順位とかそういうの決めてらんない!!ので、ランキングでも何でもなく羅列です。

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・岩浪れんじ/コーポ・ア・コーポ 3

事件性無く劇的な感覚なく描かれる、下流群像劇。

細かい部分まで「あまりにきちんとした」様子、江野スミ先生の『亜獣譚』を思い起こします。その細かさが、キャラクターへの愛おしさを産む。俺は童貞的思考が板に付いてしまってて、成年男女が同じ集団にぶっ込まれた時に性愛関係を想像しがちなのですが、そうした関係がしっかりブツッと断ち切られててそれが心地よい。

店長岡林さん、とても好き。

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・野田彩子/ダブル 4

地獄!!!!!!

演劇を志す二人の青年、一人は凡才、もう一人は天才。天才は凡才に導かれてその道を志すも、圧倒的才能と時流で易々と追い抜いていく、その時二人の関係性は。

バディものとも言えないし、愛憎劇でも無し。ただ、その地獄の質感は、野田先生が長年「新井煮干子」として、BLの第一線で活躍されて来たその年月の圧が感じられる極上の丁寧さで、方向性は違うものの、『血の轍』を読んでる時のどうしようも無い吐き気を思い起こします。イヤダイヤダ、この二人どうやったって幸せになんかなれないし、いや、これ読者はともかく、野田先生ご自身が描けば描くほど追い詰められてくんじゃないか、大丈夫か…?

4巻の手と手の交わり、あんまり女性だ男性だ言いたくないのですが、「真摯にBLを描き続けて来た女性作家」にしか描けないよ、こんな地獄…。

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・堀越耕平/僕のヒーローアカデミア 31

32巻、レディ・ナガンのファッションセンスだったり一般巨大女性のデザインだったりで、堀越先生にドスケベ野郎が!!と叫びたくはなってしまいましたが。

常々、羽海野チカとか荒川弘とか素晴らしい作家であると同時に極悪人だと思っているのですが、31巻の堀越先生の遠大な底意地の悪さには、そうした作家性と同じ、強烈なものを感じました。

「物語が始まる際のモノローグ」の相似形というか反転系というかを、一番言わせたらイヤな人に言わす、「No.297 タルタロス」。否が応でも、ここから始まる主人公の道のりの過酷さを想像させる、最悪の幕開けっぷりでした。『からくりサーカス』で、特に必然性無いラブコメみたいな展開始まったなぁとちょっぴりニヤニヤしながら読み進めてったら、この村の人全部地獄に突き落とすための前振りかよ!酷い、藤田和日郎!人非人!!!と思った時のことを思い出しました。

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・ひうち棚/急がなくてもよいことを

静かな空気のエッセイ漫画集。過去「山坂」で作品を拝読したことはあったものの、その静かさ故か全く記憶に無く、商業単行本の形態でまとめて読ましていただいてありがたい。

著者が子どもの時の、またご自身の娘さんの、ことを描いた、「子どもの居る生活」の手触りが印象的な作品集でしたが、個人的に一番印象に残ったのが「城山」。おそらく著者が学生の頃であろう時に、帰省した際の、「何でもない実家に帰った時の様子」が漫画化された作品ですが、引っ付けてあったあとがきと合わせてとても感慨深く。

「母親が亡くなっている現時制」から、「母親の作っただし巻きを食べている自分」を眺めるという視線。現実では親は亡くなって、自分の子らは育っていって、どんどん変化していって、でも作品として残ったものは形変わらずページの中に。ああ。

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・工藤正樹/断罪

20代でマンガ賞を受賞し、プロデビューを志しながら自費出版でマンガ活動を続け、46歳にして「第17回アックスマンガ新人賞」奨励賞を受賞、それからまた幾年が過ぎ、ようやく結晶化した著者の宿願のような作品集。

同人誌作品含め、一貫してその滅茶苦茶太い線で描かれた(多分一切トーン使ってない)特異な絵柄を崩されないのですが、その絵でキャラクターが読んでるこっちに叫んで来る時の強烈な迫力ったら。概ね収録作の全編がホラー、その強烈なビジュアルが絶妙に作風と噛み合って居ます。

ホラー漫画ファンで表紙に何か変な魅力を感じたなら買い。

「約束」のばあちゃんもイイ顔だし、「漫画家」の漫画家も切実でとてもイイものです。

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・齋藤潤一郎/死都調布 ミステリーアメリカ

全然調布じゃねえ。

『死都調布』3冊目。死都・調布の使徒、シトウ・チヨは北米へと死を運ぶ。

この叙事詩が語り始められた時に流れた「これがC−TOWNスタイルだ、覚えとけ……!!」にも並ぶ名文句、「口が淋しくなったらいつでもしゃぶりな」が登場。

「南米紀行」よりも更にバタ臭さが過剰になっているのに、事象がサラサラと流れていって、描かれているものの汚さに反して爽やかな読後感。…と思って前2冊をチラッと見返してみたら、めちゃ線がシャープになってるように思います。のせいかしらん。齋藤先生の「描き慣れ」が、この物語にどう影響するのか、並行してトーチで始まった紀行マンガ「武蔵野」の連載も合わせて、今後も楽しみ。

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・田口翔太郎/裏バイト逃亡禁止 5

白浜殿とユメちゃんの怪奇バイト珍道中。単刊ものかと思ってたら22年の2月にはもう、6巻目。続けられる構造を持ったホラー漫画、どうしても連載が延びれば延びるほど著者のアイデアの切れて来る感じが伝わって来る様な感じが何とも物悲しい気持ちになってきますが、本作はそうした衰えが見えぬ。二人(とデェデェ)がどこまでも宇宙的恐怖とスレスレの所でやり合う様をずっと見てたい。

今年単行本化された部分、4巻「ファミレス店員」の人間の個が擦れていくのを絵で表すあの巧さとか、5巻で田口先生が自身のベストエピソードと仰る「海の家スタッフ」とかもとても良かったのですが、5巻「駅員バイト」「遊園地スタッフ」が連なってしまって巨大なエピソードになるスケール感が堪らんかったです。我々にとっての異界だったり、高次元存在だったりが、遠く離れたもので無く、ゲームのバグの様にちょっと手順を間違えただけですぐ横に来てしまう、という、「こちらの現実を揺るがす」感じ…。

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・大山海/奈良へ

友人に勧められて連載開始時に読んだ折、なんたる変な手触りの紀行マンガじゃな、と思ってしばらく時を置いてまた読んだら異世界ファンタジーみたいなのが始まってて、その構成の歪さに仰け反りました。あの剥き出しの歯の汚さ、攻撃的な感じよ。

前単行本『東京市松物語』にも、しょうもない会話のリアリティだったり、つげ・水木なんかを思わせる背景の描き込みへの執着だったり、があって、面白げな感覚はあったのですが、如何せん自分はあまりマンガとしては、うーん…と思い、友人が勧めてくれなかったら作家で買わなかったかも。なのですが、コッチの作品は、面白描写と漫画としての面白さがしっかり両立されてて、素晴らしかった。構成の複雑さも場当たり的で無く、物語に作用しててめちゃ良かったです。

絵柄で拒否反応が出る方も居るかもですが、とりあえず描き込まれた寺・仏像、あとマイルドヤンキーのマイルドさ・ヤンキーさ、ほんで歯茎の汚さ、是非見て欲しい。

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・的野アンジ/僕が死ぬだけの百物語 1

これ書いてる時に、まだ2巻を買えてません。死ぬのはお前じゃねえ、僕だ。

少年・ユウマは何かの使命の様に、何かに向けて、毎日百物語を語る。

「語られた百物語」を見ていく、連続ホラー漫画オムニバス。「怪異の持つ独自のルール性」や「怪異とのコミュニケーションの取れなさ」にクローズアップする毎話がホラー漫画としてどれも逸品で素晴らしく、その上、語り手となるユウマの抱える内情が見えそうで見えない謎めきっぷり、『14歳』を読んだ時にこういうワクワクゾクゾクを覚えた様な。

「第一夜 つれびと」の話が通じそうで全く通じない感じだったり、「第八夜 喧嘩」のあの顔だったり、一々惹かれるものがあって、大変忙しいマンガです。

どうやら凄い人気作になりつつある様なので、3巻辺りに是非中編「穴の家」を掲載して欲しいところ。

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・杉浦次郎/僕の妻は感情がない 3

「(技術的にほぼ感情・心の様な表現を作り出せる様になった世界において)安価なために感情的な機能を備えていない家電ロボットと結婚する話」。…割合あらすじだけ聞くと、本邦によくある「ロボ娘とのラブコメ」を想像しがちなのですが、まあ炊飯器がいくら喋るからとてそれと愛を育むことは出来ない筈…なのに、というマンガ。

友人が勧めてくれて、同作者のpixiv掲載作品「ニセモノの錬金術師」を読んだのですが、まぁこちらも滅茶苦茶端的に言えば「チートスキルで異世界転生ファンタジー」、ゲンナリするほど最近よく聞く様なヤツではあるのですが、どちらの作品もかなり「感覚的な部分を理詰めで理解していく」という感覚が共通しており、同系統の作品と一線を画している…のですが、読まずんば分からん所でありましょう、読んでください。

「本来心が存在しない筈のものとのやり取りを通して、何か心の様なものが具体化し始める様子」、ハードの部分はハードSFなのに、ソフトの部分が恋愛をテーマにした純文というか…。

とりあえず、3巻ではその過程の結果、「子どもの様なもの」が。

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・桜井のりお/僕の心のヤバイやつ 5

もう別に何も言うことねーだろ

おねえに対してではありますが、京ちゃんが思いを言葉として具体化してしまったの、あまりにグエッてなりましたね。恋愛に関する、しかもポジティヴな感覚の筈の漫画に、吐き気尾を催さされたり、恋のドキドキとかでなく生活習慣病系の動悸・息切れを感じさせられたりするの、ホント意味わからん。

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というかんじでした。

…1、2、3、4、…数えてみたら、

(大好き)

…まぁええわ!


以下次点。

・ベルセルク41特装版 まだ読まぬまま飾られている、ドゥルアンキ買い忘れとった

・フォビア1 まだ読んでねえ 

・勝田文/風太郎不戦日記 3 良い終わり方ではありましたが、1巻で最高到達点に着いてしまってる感はありました

・藤田和日郎/双亡亭壊すべし 25 こちらも最終巻。月光条例より至極納得の終わり方ではありましたが、「アウグストのお説教」の素晴らしさに対して、お絵描きバトルはちょっと霞んでしまった感。タコハ以外のキャラクターの顔見せラストバトルでウフフ、と思ってしまったものの、ニッコリ出来る終わり方、きもちえがった。

・ルックバック …敢えて避けた訳では無かったけど、「今年の10冊」には入れ難かった。ウェブ公開時はカーッと来る熱量の読後感があったのですが、単行本で読み返すとスラーッと読んでしまいました。また時間を置いて読み返したい。

「買ったけどまだ読んでねえ」を積み上げているので、これ読んでからじゃないと新刊買いたくないな…の悪のループ。

来年こそ!読むぞ!買うぞ!!…いや、いいかマイペースで…。楽しい読書ライフを、変わらず続けたいものです。ではでは。



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