Subbacultcha

「サブカルチャー」という括りの下、文学・芸術・漫画・映画等について述べます。

2012年9月14日金曜日

「お母さんが居ない」と闘う『さよならもいわずに』と『聴こえてる、ふりをしただけ』


渋谷「UPLINK」にて、
今泉ようこ監督の初劇場長編作『聴こえてる、ふりをしただけ』を観てきました。

お母さんを亡くした小学五年生の女の子・サチの話。
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11歳の少女・サチは父母と3人で、平凡な生活を送っていた。
唐突に、彼女の母親は亡くなります。
最初こそ、手助けしてくれる親戚や、父親、心配してくれる友人に囲まれて、母の居ない現実に抵抗していこうとするものの、
次第にサチの時間は、生活は、止まり始める。

映画を観ながら、
上野顕太郎『さよならもいわずに』を思い返していました。
この映画はフィクションですが、『さよならもいわずに』はノンフィクション。
妻を失った漫画家・上野顕太郎が、絶望から元の日常へ立ち戻る様が描かれます。

どちらの作品も、「失った瞬間の辛さ」ではなく、「失ったあと永遠に続いていく辛さ」を描いているからこそ、非常に辛いです。

「人の死」は乗り越えたとしても、「母・妻が居ない状況」から解放されることは二度と無いのです。

前者はそれを子どもの視点から、後者は夫の視点から、描きます。
どちらの父親にも共通して言えるのは「妻を深く愛し過ぎていたこと」。
故に、その悲しみの中で、子どもの描写が薄い、つまり彼らの心の中を占める子どもの割合が少ないことが、俺は非常に恐ろしかった。
経済的・精神的に自立しているならともかく、子どもがそんな状況で頼れるのは、父親以外には居ないから、です。
男は、弱いんだよなぁ、いざという時の心が。

どちらの父親も、悲しみのあまり、ほとんど狂った状態まで追い込まれます。
父親と一緒に頭がおかしくなれれば子どもも楽なのですが、多分そんな父親を見て、余計でもまともに生きなければ、と子どもは思ってしまうのかもしれません。

『さよならもいわずに』では、あっさりと子どもが学校に行き始めましたが、
『聴こえてる、ふりをしただけ』では、子どもがいかにしてその状況から前を向き、どうやって取捨選択していくかが描かれます。その心情描写が凄まじく丁寧で、また小学生の「小学生感」「小学校感」を出すための演出が凄まじく丁寧で、ついつい主人公サチの視点で物語を追ってしまう。

たとえば、映画の冒頭で叔母が朝ご飯を作りにサチの家にやって来るのですが、サチはそんな叔母に対して、母の使っていたエプロンの掛かった椅子を体で覆い隠す。叔母に、母のエプロンを使って欲しく無いがために。

また、先生が教科書を読む人をあてるのに「今日は14日だからー、14番の〜くん、お願いします」って言ったり、帰るときに「机の整理整頓を、してくださーい」という日直の号令で、ガタガタガタととりあえず見た目だけ整理してみたり。などなど。
そうした「細かい演出」でグッと来るところが多かったです。

そして、そんな丁寧さで描かれる彼女の人間関係。小学生といえども彼女は様々な関係性に囲まれています。
周りの人間達はサチに対して、
「お母さんの魂がずっとサッちゃんを見守ってくれる」とか、
「幽霊なんて存在しない、人は死んだら何も残らない」とか、
色んな意見をぶつけてくるものの、どの意見も彼女を心の底から動かすことは無く。
彼女の「気づき」が、他人ではなく、自分によって為されるところ、それがこの映画の素晴らしいところです。

また、サッちゃんを始めとして、演ずる子供たちが物凄く上手い。
自然体っぽいのです。
無論子供たちの演技も上手いのですが、彼ら・彼女らに、安直に叫ばせたり、ボロボロ涙をこぼさせたりしなかった、監督の演出も良かったんだと思います。映画全体に、ズーンと来る重み・凄みがある。

物語の終わり方も、曖昧なところに逃げたり、視聴者の思うところに委ねたりせず、しっかりと「最後」、サッちゃんが気付き、自覚し、思いを捨てて日常生活に戻るところまで描かれます。
少女・サチの「お母さんが居ない」という状況との必死な戦いを、見つめ切って下さい。
そして、最後まで観終わった後、タイトルの文字列をもう一度見返すと、サッちゃんの思い・態度を表すのに非常に上手いタイトルであることに、驚かされ、またじんわりとなる筈。


…余談、余談も余談、余余談なのですが、
ちょっと頭の弱い女の子・ノンちゃんという子が出て来ます。
ノンちゃんによって、サッちゃんは「オバケ」、お母さんの幽霊に対する思いを何度も揺さぶられることになるのですが、そんな彼女が、オバケが恐くて一人でトイレに行けずに漏らしてしまうシーンがあります。
…そこはちょっと冷静ではいられなくなりました。



『聴こえてる、ふりをしただけ』公式サイト

「子どもが痛みを乗り越えて必死に闘う姿」に弱い。
➼超良作少年漫画映画『ヒックとドラゴン』

物凄く狭い範囲の、英雄譚。
➼僕らの路地裏戦争『堀川中立売』


『さよならもいわずに』をパロったギャグ漫画を掲載。
そこまでしなくて良い、そこまでしなくて良いんだよ、上野さん…

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