Subbacultcha

「サブカルチャー」という括りの下、文学・芸術・漫画・映画等について述べます。

2018年6月14日木曜日

川島のりかず 『中学生殺人事件』



川島のりかず 『中学生殺人事件』
怖さ:☆☆☆
造型:☆☆
状況:☆☆


川島のりかず最後にして、ひばり書房ホラー漫画最後の単行本。

高校受験を目前に控えた十善心は、教育ママの母・エリート志向の父・二人に乗じて自分を叱責する祖母に囲まれ、閉塞感を感じていた。
友人たちは「それなり」を選ぶ中、父母から成績が下がり始めたことを理由に部活を辞めて塾に行く様言われ、休みが増えたことで部のレギュラーから外され、心はあらゆるやる気が失せてしまう。
テレビを観、芸能界に憧れる様子を、両親から逃避だと批判され、逃げる様に心は家から飛び出して行く。

おそらく主人公の野球部所属から見るに、1980年の金属バット殺人事件からの着想と思われますが、この事件だけを元に作られた物語では無く、様々な類似の事件・少年の非行や自殺・バブル経済の行き詰り・そしてもしかするとひばり書房の終焉、といった外的要因が、川島先生にこうしたものを描かせたのかも、しれません。

もうタイトルで言ってしまっているのでオチまで言ってしまうと、
「受験勉強」という、「子どもの世界を打ち壊す象徴的なもの」によって狂ってしまう中学生が、両親と祖母を殺す。それだけの話です。

川島のりかず、引いてはひばり書房のホラー漫画単行本には、どんな人間悲話の様な話でも、幽霊・妖怪・化物・超能力者・宇宙人の様な超常存在が帳尻合わせ的に登場するがために「ホラー」と名乗っていますが、
そのひばり書房が最後に出したこの単行本には、上記の様な超常存在が登場しません。

川島のりかずの作品群において、
幻惑的な景色の連続としては『フランケンシュタインの男』、
暴力描写の発露としては『私の影は殺人鬼』、
が頂点だと個人的に思っており、
ハッキリ言って、「この本に大体付けられてる古書価格、10万円超の価値があるほどのホラー漫画的魅力は本作には無い」と思います。

けれども、容赦の無い殺意の爆発は『私の影は殺人鬼』『生首が帰って来た!』を思わせますし、主人公の観ている景色が現実のものかどうか分からぬ不安定さは『恨みの猫が怖い!』『恐ろしい村で顔を取られた少女』のよう、感情の発現が操作出来ない感覚は『殺しても生きてる女』『恐怖の都市へ』を思い浮かべます。(『みんな死んじまえ!』『呪いの顔が私の背中に!』にある様な美しさはカケラもありませんけどね)

「川島のりかずの集大成とも思える作品であること」、また逆に「超常存在が出て来て帳尻合わせをしないこと」。

川島のりかず作品に何らか魅力を覚え、複数タイトルを手に入れ始めた人ならば、いずれ手に入れるべき作品である、とは考えます。そうした意味で「10万円」も納得の数字。

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