Subbacultcha

「サブカルチャー」という括りの下、文学・芸術・漫画・映画等について述べます。

2011年10月5日水曜日

決して消えない光がある『正義隊 4』

さぶいさぶい!!
何だか9月はアワアワしてるだけで過ぎてしまった感が拭えぬ。


「正義」って言葉はホント危ない。
俺ぁ、正義なんて語るやつなんざぁ、信用出来ねぇな。

そんな事を大っぴらに語るひねくれ者でも、
正義隊の語る正義にはきっと煌めく温かな光を感じる筈です。


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『正義隊』は、青林工藝舎・アックスに連載されていた漫画。
4巻の帯に「9年間走り続けて来た」と書いてあるので、2002年初出かな?

冒頭に危ないと書いたのは、勿論アメリカ様の事もイメージしています。
奴ら、「自分達が正義である」と信じて自分の行為の正当性信じ切ってますからね。
「正義」という言葉を用いるのは気持ちがイイ。

自分の行為が正しいか否か、という考えは究極的には宗教にも法律にも収斂されません。
「自分の正しさ」は自分にしか分からない。
アメリカの、アメリカ的な考え方が、傍から見れば狂っている位に見えるように、正義の究極は「思い込む・信じる力」と言い換えても良いでしょう。
正義とはとても私的な価値観なのです。

対義語的な「悪」との違いは、計り知れないほど微妙です。
正義を為している本人には、自分の行為が悪かどうかは観測出来ません。
僕的にはそこに「他者への思い」が介在するかどうかかなぁー、と思っています。

「正義」は自分の正しさをとことん信じ込むこと。
「悪意」は他人を押し退けて自分を優先すること。
この位のシンプルさで成り立っているから、「正義隊」の正義はカッコいい。


『正義隊』は極めて私的な正義集団の物語です。
別段、公の組織という訳でも無く、かといって一人のリーダーの下に狂信的な人間が集まっているという新興宗教的な構図も無い。
隊員各々が「正義」を信じる、正義キチガイ集団が「正義隊」なのです。



『正義隊』を紹介する記事の中で、大抵挙げられている、有名なキチガイシーン。

主人公:「気持ち悪いわ!」
敵:ムク 「そんなことしても無駄だよ」
  「殺すよ!」
主人公:「殺せまい!!」
―――『正義隊』

殺そうとする相手に「(お前を)殺すよ!」と叫びかけ、それを言われた側は「(私は)殺せまい!!」と雄叫びを上げるのです。文意としては何もおかしくないシーンなのですが、何という狂った会話・世界なんでしょう。
そう、かつてジョジョやバキで味わった、流れとしてはそんなにおかしくないけど部分毎には大分おかしい、笑いとも恐怖とも感動ともよく分からないあの感覚が確かにこの作品にはある!

ジョジョにおいて、
脈々と受け継いで来た、正しさを愛する姿勢『黄金の精神』
目的を達成する為には人殺しも辞さない覚悟を持つ『漆黒の意思』というワードが登場しましたが、僕にはどうもこの二つのワードは同じモノを指しているように思えてならないのです。
それを貫く言葉が「正義」
「正義隊」はこの二つの精神を持って、「正義隊活動」を行っています。
時として其れは非常に傲慢で、一方的で、無神経なモノです。
けれども、それを貫き通す為には、強い意志と行動力が必要になる。其処で中途半端な優しさを持ってポリシーを捻じ曲げてしまうようなら、それは正義では無く、「親切心」でしかないのです。

押しつけがましく、うっとおしく。
けれでも、強く明るく輝く。

月光仮面の生みの親、川内康範さんがインタビューで仰っていました。
「正義」の味方なんだよ。けっして正義そのものではない。
この世に真の正義があるとすれば、それは神か仏だよな。
月光仮面は神でも仏でもない、まさに人間なんだよ。

―『箆棒な人々』より

「正義の味方」だからこそ、彼らは「悪」を「やっつけ」ます。
決して不殺のヒーローでもないし、一対一の戦いを重視することなどこれっぽっちも無い。神や仏では無く、ただの人間だから。
でもそれは決して私情では無い。正義隊は正に「正義の味方」という人間達なのです。

最後に衝撃的な最終巻・四巻のあるシーン。

ある日、正義隊員・元子は、リーダーのケズルより今晩1時15分にデパートの屋上に来い、との伝言を貰います。そんな夜遅くに一体何の用かしら… 此処で凡百の少年・少女漫画なら告白展開となるであろう所…

夜1時。街路には、仕事に疲れたサラリーマンが、永遠に続くかのような無為に働く毎日に絶望して帰宅…
元子はすっかり熟睡して、約束の時間に起床。デパートの屋上へ向かうと。

気球! 
ケズル:「この気球にはスピーカーが取り付けてある この気球に乗って街にロックンロールを流すのだ!! 合理化された社会に人間的感動を呼び醒ますのだ!! 出発だ!!」

一人でやれとか夜中そんな事したらうるさくて寝らんねーだろとか、そういうのはもうどうでもいい。合理性を捨てて、宙へ浮かぶ気球。

そして、肩を落として歩くサラリーマンに、上空から降り注ぐヴァン・モリソン。

サラリーマン:「この音楽は… このリズムは! ウワー!!
サラリーマンを絶望の底から救い出すのはロックミュージック!正義!

そう、正義はロックで、ロックは正義!!

生きていると色々と嫌な事があって、色んな事で落ち込んで。ちょっとやさぐれて「まぁ金の為に働くしかねぇーし」とこぼしてみたりして。そういう何か先が見えなくていやーな雰囲気の時、きっとこの漫画はその先に何となく光がある事を信じたくなるような、煌めきを教えてくれます。


あ、そういえば、作者の後藤友香さんに、東京のビリケンギャラリーってとこでうちわ描いてもらったんですよ!後藤友香さんはサブカル!という雰囲気を漂わせたお洒落なおねーさんでした。あと、これサイン入りの三巻な!
いいでしょ!




「悪者」について。
➼「悪者」について思う所 『悪虐』、『悪人』、『ザ・ワールド・イズ・マイン』から

言葉にならないからこそ、強いモノ、もある。
➼言わない事、言えない事『ふたりの証拠』



2 件のコメント:

  1. このサイン会行きました!

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  2. おお!どなたかに団扇描いてもらったりしました?
    ひとまず、コレ、僕の一生もんのお宝になりそうです!

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