怖さ:☆
造型:☆☆
状況:☆☆
ホラー作品が入っている、というので未読だった倉多江美短編集『樹の実草の実』を読みました。ホラーというにはちと弱い作品ながら、収録9作品中、戦中の全体主義感覚と個のせめぎ合いを描く「イージー・ゴーイング」と1・2を争う良作でした。
幾何学の大学講師らしい語り手・敬司は、ユークリッド空間云々の話をしている際に、13年前の学生時代の不思議な出来事に思いを巡らす。
登山計画中入院してしまった敬司は、一緒に行く筈の友人・靖が見舞いに来なかった事を不満に思う。退院後に再会、しかしその様子に違和感を感じていると、数日後出会った彼の妹からその死を聞く。一体自分の会った…というかつい先ほど目にしていた友人の正体は。
それだけであれば実話怪談で直直現れる「死んだ筈の友人知人が会いに来た」のヤツなのですが、この謎めいたタイトル・扉で語られる「韓国の伝説では人間が卵から生まれたという説話がいくつもある」という謎めいたエピソードが絡んで来る事で、物語が伝奇化…というか「倉多江美という作家の死生観が述べられる異様な少女漫画」へと変貌していきます。それは『エスの解放』にも似た、もしくは本作は短編ながら内田善美『星の時計のLiddell』の部分にも似た凄味を覚えます。
なお、作中教授らしき人物が講釈している「たま・たましひ・かひ」の話は、ほぼまんま折口信夫の「霊魂の話」で述べられる内容(全集の3に入ってたと思われ)、特に引用明記は無いのでちょっと名前書くくらいはしてくれ!と思うものの、そういえば『蟲師』の好きエピソードのひとつ「虚繭取り」も感覚としてはかなり本作に近く、もしかすると同じネタ元なのかな、などと。


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