Subbacultcha

「サブカルチャー」という括りの下、文学・芸術・漫画・映画等について述べます。

2013年11月7日木曜日

何もしない強さ『ファシクラ伝 支倉常長・サムライ 地球を駆ける』


表紙を見て、「オホッこりゃあとんでも時代漫画にちげぇねえ!」つって喜び勇んで古本屋で購入、中開けて読んでみたら意外にもきちんとしたアツい時代劇画だったので、ご紹介。
支倉常長のファンになっちゃったのだぜ。

※ネタバレアリ

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慶長遣欧使節」、ご存知でしょうか。
ああ、日本史の授業でやった!とか言う人は多分天正遣欧少年使節と混同してるんじゃないかと思います。私です。

その位、実成果としては特に何も残っていない使節団で、歴史の授業でもきちんと登場するかどうかも分からない、それを学生達が記憶に残しているかどうかも分からない、それが慶長遣欧使節なのです。
団長はフランシスコ会の神父ソテロ、副団長が支倉常長我らがファシクラです。派遣したのは仙台藩主伊達政宗。
使節の目的は
・大阪冬の陣を控えた徳川幕府の代わりに、イスパニア(スペイン)との交易条約を結んで来ること
・仙台藩にイスパニアの鉱山、造船、航海技術を持ち込むこと
・仙台藩にキリシタンの司教座を設置すること
そして、
イスパニアの無敵艦隊を借りて来て、江戸に砲撃をぶち込むこと
政宗「あれを借りて来て、江戸湾に砲撃を打ちかけたら面白いことになると思わぬか なぁ小十郎」
 とか言っちゃってんの。もうお館様怖い。

場面変わって、向かう船の中。
嵐に巻き込まれています。
支倉常長に加えて、重要登場人物の佐藤市之丞カルド
前者は仙台藩の通訳担当として、後者は現時点では単なる船員として。
こちらの二人は作者の創作ながら、生き生きと動いて非常に魅力的なキャラクターです。

何とか陸上に着いた一行。
船旅の終わりに、イギリス船を見かけたイスパニア水兵達は、「わぁー!イギリス船だヤバイヤバイ!海賊?イギリスの海賊なの!?」と焦りまくっていました。
え、これが無敵艦隊を抱えるイスパニアの態度なの?と不安を覚えた支倉は、片倉小十郎(仙台藩の有名な参謀)から「無敵艦隊の無敵っぷりに不安を覚えたら読むのよ」と託された書状を開けることにします。
そこに書かれていた内容とは。
そもそも伊達政宗は、徳川幕府から謀反の可能性アリ、と睨まれており、表面的に幕府に従う様子を見せる彼を一手に潰す手は無いか、と幕府は狙っている状態だったのです。
故に
イスパニアと伊達との協力関係がバレたら、イギリスとオランダの連合艦隊で丸ごとぶっ潰す
徳川と敵対関係にある大阪(豊臣)に伊達+イスパニアが参加したらマズいので、さっさと大阪(冬の陣)を終わらせる
という、
支倉の仕事は「早くしないと間に合わないけど、早くした所でそれが主家を窮地に追い込むかも」、無茶ぶりの基盤の上に立たされていたのです。
ウソ、私の仕事、マズすぎ…!
って感じですね。
ひとまず保留、決断は何がしかの「無敵艦隊の無敵っぷり」の状況証拠を手に入れてから、というところに持ち越しになってしまったのです…。

場面変わって市之丞・カルドサイド。
港に入って来た奴隷船に、日本の姫の様な人が乗せられていると聞きつけて観に行く二人。周囲の人も、「おお、なんかすげぇの降りて来たぜ!」とばかりに見物客でごった返し、中々前に行くことが出来ません。
 通して、通して!と前に行こうとしたら、市場のおっちゃんらしき人が、市之丞の刀を見て「いいものを持ってるねぇ 売ってくれないか」とナデナデして来ます。
やめて!それ以上イケナイ!!



バシーン
ぎゃあああ

…市之丞は通訳だ。通訳だが、その前に彼は一人の武士であったのだ…。
武士の魂に触れられて、思わずヤッちゃう市之丞。
今まで「異国の鳥、キレイ…」とか眼を輝かせてた青年が、バシーンですから、読者も現地の人びともすげぇショックですよ、ええ。

 部下の失態に対して、支倉さんは…
「伊達者の刀は戦のために差しております 恫喝のための剣技など我らは知りません」


サムライこええ…
サムライ怖いんで、本件は現地の法の方がちょっと萎縮しちゃうような収束を迎えます。
サツバツ!!

サツバツシーンのあと、幕府側の通訳・銀弥さん(このお稚児さんみたいな人)と、カルドが軽く頭脳戦を繰り広げます。
実はカルドは母を日本人としており、日本語が分かるのですが、面倒になるので、周囲にそれは漏らしていません。知っているのは市之丞のみ。
日本語分かるだろ?とばかりに銀弥さんはカルドに日本語で鎌を掛けて来ます。
「イスパニアの無敵艦隊が負けた海戦があったんじゃないか?」と。
カルドは「ニホンゴナニイテルカワカラナイヨー」ととぼけてみせるのですが、いつの間にかイスパニア語を習得した銀弥さんは、更にイスパニア語で質問。イヤな眼をした御仁だよ…。

 で、支倉さんは、条約を結ぶかどうか、実際に戦力を借りるかどうかってところは保留にして、部下に「潜入して、各技術を盗んで来い!なお脱走は死罪」と新撰組の鬼の副長のようなことを命じます。
左近と式部という、航海技術を盗んで来い!と言われた二人は、後々かなりアツい伏線になります。

一向に、イスパニアとの戦線条約を結びに行こうとしない支倉さんに、使節団団長ソテロは「一体何しにここまで来たんですかー!」と激を飛ばします。
戦国時代を経て、江戸幕府(江戸時代)を迎えた日本に、戦線条約を結ばせることで、世界の戦場の刃となることを選択させる。

今回の支倉さんの仕事は、上手く行けば、今回限りの件では済まなくなってしまうのです。借りたら、返す。
「返す」において、ある程度は「借りた」という弱みのために、多少の無理は呑み込まなくてはいけなくなる。
支倉の仕事はそういう大きな選択を孕んだものであることに、彼は気付いたのです。
日本に「平和」をもたらしたい。
彼の思いに火がつきます。

二ヶ月の間、左近と式部は式部は船員の中に潜り込み、航海術を盗もうとしたのですが、一向に盗み取れる気配無し。
無理!
で、二人は支倉さんに「脱走させて下さい」と頼みます。傭兵でも何でもやって、必ずノウハウを奪い取り、仙台藩に帰る、と。血判状を持って来て頼み込む二人に、「この支倉、しかと胸の中にその言葉収めたぞ!」とばかりに、その約定を燃やします。
良い上司だ…。

旅を続けて、イスパニアの首都に到着。
日本にとって、キリスト教が、神の愛が必要だ、と感じた支倉さんは洗礼を受けることに。
 国王に謁見するも、結局条約を結ぶこともせず、艦隊を借りる約束もせず、「サムライのままキリスト者になる」ことを決意した支倉さん。
敢えて彼は何もしないことを選び取ったのです。

 一方、伊達にイギリスオランダ艦隊をぶつけてぇぶつけてぇ、と願う、幕府側の隠密・銀弥さん。何もしない支倉さんにとてもイラついています。
「銀弥さん女みたいに美人だから、街で暴漢に襲われてトルコ風呂に沈められかねんよなぁーハハ」とカルドに煽られてぶち切れる銀弥さん。

もう勘弁ならん!とその夜にカルドを遺跡に誘い出します。
 ふわっ、と遺跡の上からカルド目がけて飛び掛かってくる銀弥さん。
上から来るぞ気をつけろ!!
カルドは、まぁなんつーか船員みたいなもんなので、当然幕府の隠密である銀弥さんに圧倒的に敵いません。
これまで策謀キャラを装っていた銀弥さんがこんなに強いなんて…!
「最初に会った日から殺してみたいと思っていた くすくす これも一種の一目惚れですかね」

急にサイコパスに…!銀弥さん気持ち悪い怖い!

「そこはカエサルがブルータスに殺された階段だよ カルド楽しかったよ」

状況が出来過ぎてるとか、かなり一方的な闘いだったのに「楽しかったよ」とか、銀弥さん気持ち悪い怖い!


ドカ ズン
 2人がかりで ぐっ

チキショウ!銀弥さん勝ってたのに結局ラッキー勝利かよ主人公パワーかよ!ズルい!銀弥さん可哀想!
…このラストバトルだけで銀弥さんのことが大好きになって、思わず呼称が「さん」付けになってしまう読者諸氏も多いのではないでしょうか…。
銀弥さんForever…。

はい、バトルシーンはこれで終わりです。
支倉さんは、自分の葛藤を市之丞に語ります。


「幕府領でわれらが出発した翌年からキリスト教の大弾圧が始まったそうだ われらの出発を待っていたように!!」

「われらが司教様を伴い帰国したときにそれを伊達つぶしに使うためだ」
支倉さん達が、意気揚々と帰ってみれば、
「キリスト教ダメ絶対!お前ら持ち込んだし、つーかお前らキリスト教徒だし、死刑!伊達藩丸々取り潰し!」
幕府!!卑劣なり!!
その、「意図に気付いた雰囲気」を持ち帰るのすら危ういため、支倉さんは「自然に失敗したことを装って帰る」ことにしたのです。

「この旅の中でよくわかった 今の日本にどれだけ神の愛が必要か」「今のままでは世界の凶器となりかねない」「(そちは)侍をすて 主家をすて 故郷と父母をすてて 神の教えを伝えるために潜伏してくれ」「私は主家のためこの無惨な使節を最後までひきいなければならぬ」

 その言葉を受けて、佐藤市之丞はキリスト教の教えを余すこと無く学ぶために現地に残ることにした。
支倉常長は脱走者を出した上に、何の成果を挙げることも無かった使節団と共に日本へ帰国した。
 「遣欧使節を利用した仙台藩潰し」を瓦解させた男・支倉常長。
大きな失敗をしたにもかかわらず、キリスト教者であったがために切腹=自殺も許されなかった彼は、旅の衰弱も利用して、徐々に衰弱死をしていったのではないか、と思われる。

帰国後の彼の記録は、ほとんど日本には残されていなかった、が…。

1991年に「ハボン(日本)さん」のお二人、来日。二人の先祖は支倉一行の一員らしい。左近と式部の子孫…!!
支倉一行の旅のあと、世界地図における「日本」の地名に、Edo・Miyako・Nagasakiしか記入されていなかったところへ「VOXU(奥州)」が出現。
ヴェネツィアに残る、大使としての支倉の記録、「勇気ある」「礼にすぐれ」「沈着な」。

特に「何をした」ワケでも無い人。
ですが、自分の欲とか周囲の状況とか評価とかそういったものに流されず
「何もしないことを選択した強い人間」、そうした人物評をこの本から感じました。
同時代に生きた徳川家康、もしくはこの人の主君である伊達政宗のような、ハデさ・華々しさのある人物ではありません。
ですが、確実にこの人の生き様には、熱いドラマがありました。
古田織部をピックアップしている『へうげもの』のファンの方など、是非お勧めしたい一冊です。


誰の人生でもドラマに成り得る。

自己嫌悪と屈辱の自伝。
➼全ての言葉を軽薄なものへ堕する『孤客 哭壁者の自伝』



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