Subbacultcha

「サブカルチャー」という括りの下、文学・芸術・漫画・映画等について述べます。

2019年6月20日木曜日

松本隆、すごない? - 松本隆の歌詞世界に感動してしまった


めちゃくちゃアホなことを言ってるのは自覚してるんですが、
最近、何回も聴く曲の内、歌詞が例えようも無く心に染み込んで来るものが何個かあって、クレジットを見直すと「松本隆」と書かれていることが多くなって来てる気がして、
松本隆、すごない?と関西人でも無いのに関西弁イントネイションで誰かに語り掛けたくなったので、書き残しておきます。

-------------------------------------------------------------------------------
…そんなに無茶苦茶音楽好きだという自負は無いものの、はっぴいえんどのアルバム二枚を何度か聴くくらいには音楽好きで、
でもその曲の魅力の根源が、YMOのネームバリューで自分の中で偏向が掛かり、細野晴臣の圧倒的実力によるものである、みたいな変な思い込みがあったんですよね。
…「風街であひませう」を聴いて引っかかるものがあったのに、ド阿呆でした。(その内限定盤も買わんばいかん)


以下に、オアーッ!痺れたァー!という、はっぴいえんど以外の松本隆楽曲の音源と、特に痺れた詞の部分を、バァーッと載せていきます。


●ランカ・リー / 星間飛行


…多分これの辺に大学生だったのですが、大学生って言うて暇じゃないですか。
で、アニメやら映画やらに周囲の人がバーッと手を出し始めて、「マクロスF」もリアルタイムですごい持ち上げられてて、どんなもんだろ、と思って観てみたのですが、丁度この動画の12話目で「キツ…」って観るの止めて、「なんかあんまり好きでない、流行りもののアニソン」として遠ざけてたのですが。
「風街であひませう」でクラムボンがカバーをしてるのを聴くととても良い曲な気がして、原曲を改めて聴くと、その歌詞の世界観にやられました。


水面が揺らぐ 風の輪が広がる
触れ合った指先の青い電流

見つめ合うだけで孤独な加速度が一瞬で砕け散る
あなたが好きよ


歌詞の冒頭部ですが、「水面」の上を風が吹いて、「風の輪が広が」って、「触れ合った指先」を意識する。
風が吹くことと指先が触れ合うことに因果関係は全くないのですが、見えている風景から徐々に自分の目の前・自分の指先に目が移って来て、「見つめ合うだけで孤独」が砕け散って、「あなたが好き」なことを意識してしまう、話者の見てる世界の煌めきが伝わって来る視点移動。…大体この曲が出た時、松本隆さんご自身が60歳前後かと思うんですが、あまりに「恋するティーンの女の子」の世界観、見え過ぎでは…?(俺が恋するティーンの女の子だったことは無いので、「松本隆さんが分かってる」と思い込んでいるだけではありますが)
「松本隆、すごない?」のキッカケがコレでした。
-------------------------------------------------------------------------------

●松田聖子 / 赤いスイートピー

元々、「アイドル」というものの、汚さを隠した気持ち悪さ・可愛らしい女の子の背後のオジサン・応援する側の性欲の変形、みたいなものが苦手で遠ざけがちで、
松田聖子も「松田聖子」というだけで自分の中に興味が存在しなかったのですが、
エレファントカシマシ・宮本さんのカバーがあまりに切実な女心を表しているようで、気になってしまって、歌詞を読んだらすごかった。


四月の雨に降られて駅のベンチで二人
他に人影も無くて不意に気まずくなる
何故あなたが時計をチラッと見るたび
泣きそうな気分になるの


「松田聖子」という時代の象徴のような女性歌手に歌わせておきながら、
歌詞は延々、内気で弱気な女の子がオドオドジメジメとしており、大サビの「赤いスイートピー」以外の色調は「灰色〜パステル」のボヤッとした世界観。
でも、そんな俯き加減の女の子が、赤いスイートピーを後ろ盾にして、ラストに「好きよ今日まで会った誰より」「このまま帰れない」などと強い決意・強い言葉を吐き出すからこそ、「好き」という使い古された言葉が強い説得力を持って、赤いスイートピーのように鮮烈なイメージをもたらす。入りの部分の穏やかな歌詞も、ボヤッとしてるようで情景を見せる俳句のような言葉選びで好きなんですが、ラストに向けて感情が吹き出すように強烈な言葉になっていく、そのクレッシェンドっぷり、震えます。
-------------------------------------------------------------------------------

●松田聖子 / 瑠璃色の地球



夜明けの来ない夜はないさ
あなたがポツリ言う
灯台の立つ岬で暗い海を見ていた


新房昭之・大根仁によるアニメ映画「打ち上げ花火、下から見るか横から見るか」で、ヒロインを演じる広瀬すずのカバーから。「赤いスイートピー」もそうですが、松田聖子の歌唱は演歌に過ぎるので、それぞれカバーが好き。
特に広瀬すずさんの歌い方が訥々としていて、素晴らしいんですよ。上記、冒頭の歌詞のように、「ポツリ言う」感じで歌わないと、この歌はこの後「あなたがそこに居たから生きて来れた」「朝日が水平線から光の矢を放ち二人を包んでゆく」と続くので、あんまり力を入れるとセカイ系的大げささが鼻持ちならぬ臭さを放ち始めるのです。勿論、誰かの笑顔に繋がれたら良いな、とも思うけど、世界は美しいと思うけど、そんな事より、隣にいる人が「夜明けの来ない夜はない」と言ってくれる、それが嬉しい。
…映画「打ち上げ花火」も割とそんな変なセカイ系感というか、岩井俊二の元ドラマ・元映画を観てないのですが、瑞々しい映像美と裏腹に、なーんかこうオヤジ臭漂う物語なんですよね。少年が主人公なのに、「取り戻したい青春を代わりに主人公にやってもらう」風な…。

夏の空気を味わわせてくれる映像美・広瀬すずによる名曲カバー(特にこの引用部・歌い出しの飾らなさが素晴らしい)のための映画、と言ってもよいかと。
-------------------------------------------------------------------------------

●Chappie / 水中メガネ

作詞!松本隆! 作曲!草野マサムネ! ひえっ!なんちゅうコンビや!!!
…ところで、この「チャッピー」とは何者なんや…?
どうやら、パーツの着せ替え可能な広告塔的マスコットキャラ、らしく、本作をはじめ何枚かCDを出したのだそう。初音ミクの走り、みたいなもんでしょうか。各CD毎に中のアーティストが変わり、誰が歌ってるかは伏せられてんだとか。

コレも「星間飛行」と同じく、「風街であひませう」のスピッツカバーより、曲の魅力を知りました。


泣きながら鏡の前でゆらりゆらり踊るにわか雨
水中メガネを付けたら
私は男の子


去年は裸で泳いでたのに」と歌詞にあるので、「私」と「あなた」は共に小→中と進級したところでしょうか。成長により二人の関係性は変わってしまったのに、「私」だけ変わらぬ思いを抱えて、「水中メガネで記憶へ」潜る。「私は男の子」は、「あなた」にとって、ってことですかね。(本当は女の子として扱われたかった…?)
サビの「ゆらりゆらり踊るにわか雨」(その前に「泣きながら」なので、「雨」は涙の比喩表現ではない)、一見意味不明な一文なのですが、感じとしての悲しみ・青さ・切なさみたいなものが伝わって来る名文句。井上陽水の「風あざみ」のような、それそのものとしての意味はないのに情景が伝わる語句。…ああーなんて詩っぽい!!
-------------------------------------------------------------------------------

ただあくまでコレらは詩では無く、「詞」なのであって、
聴きやすく、スッと入って来ることばなんだけど、
でもよくよく読み直して見ると、後ろに膨大な情報量を感じさせる。ちょびっとこの文章中で述べましたが、詩や短歌よりも何と無く俳句的な手法のように思うのです。
歌そのものの長さもあるので、全部を述べていては時間が足りない、でもあまり難しい言葉を使い過ぎると、「J-POP」足り得ない。

簡潔で、でも情報量があり、文として何度も読める歌詞
凄いよ、松本隆の歌詞!!
などと急に思い立って書いてみたものの、アイドル嫌い故、おそらくかなり松本隆の手が入ってるであろう松田聖子の曲はほとんど聴いてないし、
偉大な音楽家である筈の、はっぴいえんどメンバー・大瀧詠一、鈴木茂の楽曲もほぼ聴いてないし、でそんな状態で自分の中にきちんと物差しを持ってない俺が「凄いよ!」なんて言うのもおこがましいので、食わず嫌いせずに、ちょっとずつ聴いていってみようと思います。
…にしても「星間飛行」のところで書いた繰り返しになりますが、松本隆さん、おじさんを通り越してもう良いお年のおじいさんになりつつあるのに、恋する乙女の内面性、分かり過ぎでしょ…。


正義!
➼決して消えない光がある『正義隊 4』

福島聡大好きクラブ。
➼何者にもなれないし、ならなくてもいい。ピンドラ、ピロウズ、『ローカルワンダーランド』



0 件のコメント:

コメントを投稿