Subbacultcha

「サブカルチャー」という括りの下、文学・芸術・漫画・映画等について述べます。

2011年6月26日日曜日

死を思え、恐怖を思え『荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論』

『ジョジョ』で有名な荒木飛呂彦が、自身の好きなホラー映画について語りまくる本です。
僕も以前ビデオ屋で働いていたのでそこそこ映画は見てたつもりでしたが、
まだまだこんなに必見のホラー映画があるなんて、と絶句。


僕自身は恐怖について大体こんな思想を持ってて、つまり「ギャップに本質がある」と考えていたのですが、そこから派生するモノについて全く考えが足りていなかった事を思い知らされました。
本書、まえがきからの引用です。
ホラー映画が描いているのは人間にとってのもうひとつの真実、キレイでないほうの真実だということです。ですから優れたホラー映画は、現実や人間の暗黒面を描いた芸術表現にさえなりうるのです。(中略)恐怖を通して、現実世界の不安からひと時の解放をもたらしてくれるのがホラー映画です。
ホラー映画の恐怖を相対化出来るようになれば、現実の恐怖や不安すら相対化出来るようになるのだから、ホラー映画はある種「癒し映画」とも言えるんだよ!
ということみたいです。
その発想は無かった。

10章仕立てで荒木先生の好きなホラー映画がカテゴライズされ、
それぞれの映画、それぞれのカテゴライズについて様々な言及が為されていきます。

よく「レビュー」と称して、延々あらすじだけを書き連ねてドヤァってなってたり、
よっぽどファンでないと共感出来ないような、監督の作風や俳優の演技傾向を仲間内でしか通じない言語で語ってドヤァってなってたり、
オチをばらして、その上「面白かったです」「良かったです」等と何処が面白くて何に興味を持ったのか説明されてないにも関わらず、「ネタばれ注意!」を免罪符にそんなものを提出してドヤァってなってたり、
という「ニセレビュワー」がいます。書く自信が無いなら最初から書くな、と言いたいのですが、彼らはドヤァという自身に満ち溢れていて、客観的視点が欠けてしまっているので、書く自信だけは満々なのです。
過分に僕の文章にもこうした傾向が表れているかもしれませんが、こういう生命体にならないよう気をつけたいものです。

と話が逸れましたが、荒木先生の映画紹介文・評文はこれらの「ニセレビュー」の間をきっちりすり抜けて、
読者に「観てみたい!」と思わせる、レビューのお手本のような文章です。
ネタばれを行う事無く、何故自分がこの映画を紹介するのか、という問題意識・興味がきっちり説明されています。
まぁ『シックス・センス』の核心に触れてる部分もありますが、荒木先生も「ヒット映画だし、未見の人はこっから飛ばして!」とおっしゃってるので気にせぬよう。

また、荒木先生の問題意識が至る所で表れてくる為、
ジョジョの読者なら「あのシーンはこういう意図があったのか」とニヤリと出来るポイント満載です。

ホラーのヒロインの理想像、「ホラークィーン」について述べる部分。
①やや暗い性格。心に傷を負っている
②キビキビと動ける反射神経の持ち主。トロくない
③カワイイけどSEXYではない。清潔感がある。エロくてはいけない
④アスリートのような引き締まった筋肉質の体。けれどマッチョではない
⑤恐怖を克服する強い意志の持ち主。恐怖に固まったりしない
ジョジョ読者の方は、ジョジョにおける女性戦闘員、女性スタンド保持者を思い浮かべて下さい。
そして、上リストの①~⑤を読み返して下さい。
なるほど。

キングの『ドリームキャッチャー』について述べる部分。
トイレというのは見方によっては恐ろしい場所で、便器に血が付いたりすると「どんな病気なんだ!?」と青ざめることもある。つまり日常生活において体の異変に最初に気づく、生々しい場所でもあります。
ポルポル君が、便器を舐めさせられそうになった部分は非常に怖かったですね。

ただ、「ゾンビはリーダーが居ない事、無個性であることに魅力がある」と言っているのに、第一部のあの描写はどうなん?って思いましたが、まぁリーダーはゾンビじゃなくて吸血鬼だし、いいんかな?どうなんでしょう。

この本で紹介されるのは「一般的なホラー映画」に限らず、荒木先生が「恐怖を感じさせる映画」としてカテゴライズしたものも多く含まれています。
ホラー映画から漂う香り、死・恐怖・不安。
荒木先生がおっしゃるように、これらは美や楽しさといったポジティブなモノの裏側にあり、生と不可分なもの。
ホラー映画についてただ馬鹿馬鹿しいもの、怖いものと考えるのではなく、様々に思考を凝らす事は決して無意味ではありません。本書は単なる荒木飛呂彦のファンブックでは全く無く、映画について、恐怖について考えるきっかけとなる、本として非常に面白い本です。

「ジョジョは好きだけど、別に活字はなぁー…」
「ホラー映画は好きだけどジョジョ読んだこと無いしなぁー…」
と買うのを躊躇されている方、
本屋で見かけたら安心してWRYYYYYY!!!!っとレジに叩き込んで下さい。

一番上にリンク張ってますが、このホラー漫画は非常にお勧めです。
➼現実を揺らす現実感『リアリティー』

あと露伴先生が主人公の、ジョジョ四部スピンオフ漫画。
➼俺も行きたいです『岸部露伴 ルーヴルへ行く』

荒木先生がベストホラー映画に選んだロメロの『ゾンビ』。ほんと色褪せない。

2 件のコメント:

  1. おお。こちらの御本、興味深いです。
    映画も荒木氏も好きなので、これは購入せねばです。
    ありがとうございます。

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  2. 荒木先生はギャグ何だか本気なんだか分からないシリアス具合が魅力ですよね!

    コメントありがとうございます!

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