糸井重里の原案によるゲームで、
『エンディングまで、泣くんじゃない。』
『大人も、子どもも、おねーさんも。』
というキャッチコピーで話題になったゲームです。
ノベライズをされているのですが、それほど重版されておらず、びっみょーにプレミアが付いてしまっているのが現状で、
コスト的にゲーム未プレイ者が買うほどの小説では無い、って事だけ先に言っておきます。
小説版の中身には糸井さんはタッチしておらず、1・2どちらのノベライズも久美沙織さんという作家さんが書かれています。
この人、ハーレクインとかを書いてる人なんだ。
今回ご紹介するのはいわゆるマザー1の方。
では糸井さんのMOTHERと
久美さんのMOTHER。
小説版未読の方にネタばれにならぬよう、比較していこうかと思います。
まず主人公が、本編ではヒロインの立ち位置だったアナであること。
そして彼女の髪の毛が、金髪のショートカットから黒髪の三つ編みになっていること。
本編では「世界を救う事」が第一目標であり、無論、この小説版でもそれが目標です。
が。
女の子であるアナが主人公の為か、作者の趣味のせいか、アナが、母を救いたいなんて女々しいだろうか、と悩むロイドを励ます発言に小説の雰囲気が表れています。
「母を尋ねて三千里して、ほんのついでで地球の危機救っちゃうなんて、オシャレじゃない?」…オシャレ、ではないですね。
ひとまず、アナは教会生まれで信心深く、でもちょっと恋に興味もあり、勝気さとおしとやかさの中間にある、というヒロインオブヒロインみたいな性格で、まぁ原作のイメージからそんなに外れはしないかと思います。
問題は大幅なキャラ改変による被害というか、ノベライズオリジナル化している三人のキャラクター。
この三人に愛着があればあるほど、小説版が頂けなくなってしまうかも。
まず、本来の主人公。
デフォルトでは「ニンテン」だったのが「ケン」に。で、金髪に。
これはまぁイイとして、キャラ設定があまりに原作から乖離してしまっています。
アナ初見の心中での彼の感想。
『良かった。この子がそんなにブスじゃなくて。でへへへ、なかなか色っぽいぜ、寝間着姿も』
・・・・。
砂漠で、上空を飛行機が飛んで行くのを見た時。
「超低速でも超音速でも安定した飛行をし、翼が畳めるからヘリコプター並みに狭い場所に離着陸でき、慣性誘導装置やらレーダー・スコープやら(以下七行に渡ってその飛行機に関する詳細な蘊蓄が続く)通称『ダーティ・ハリー』たぁあいつのことなのだぁぁっ!」
・・・戦争マニアだそうです。
ロイドと仲の良さそうなアナを見て。
「ああ、ああ、うるせぇな。言い訳なんかいらねぇ。いーよ、いーよ。めんどうなことはみんな俺任せにして、にゃんにゃんしててくれてもいいよ。好きなだけやらかしてくれ。」
・・・だ、誰だお前は。
スポーツ万能で、悪ぶってて、鈍感で、下品で、でもとっても優しくて、という90年代の少女マンガの相手役のような輩に変貌してしまっているのです。
『天使なんかじゃない』という漫画を御存知でしょうか?アレに出て来るのとほとんど同じです。
ゲームから受ける印象だと、「明るいスポーツマンタイプで、優しく元気な男の子」って感じだったんですけどね。
まぁ僕の思い込みかもしれません。
次、テディ。
テディではなく、「ジョー」として登場します。
「ライダーグループのリーダーで、もじゃ髭・もじゃ胸毛、熊の様なたくましい、ツナギのおっさん」です。
おっさんです。しかも説明文だけ見ると、ちょっとゲイっぽい。
まぁ頼れる兄貴分キャラには相違無いんですが…。
で、最後に主人公達の為に闘い、倒れるロボット「イヴ」。
彼の最期には、あまりの呆気無さに呆然とした人も多いのでは。
「あ、いーっけなぁい(ハァト) 忘れちゃったぁん(ハァト)」
…ちょっとカマ気味の、何処か間の抜けた憎めない(?)キャラクターに仕様が変更されたようです。
おい。
多分誰も望んでいなかっただろう改変が、いや改悪が多々見られるのがこのノベライズ版の難点なのです。
アナとロイドはそれほど変更は加えられてないモノの、アナは自分のやるべき事をほっぽり出して、今か今かとケンの恋人ポジションに納まる事を狙っています。
何と言うか、
原作では「冒険をする事」が主眼に置かれていたように思います。エイトメロディーズを集めたり、狂ったモノ達を倒したりして、一応はギーグへの対抗勢力として旅が続けられていたものの、ラスト、ギーグに会うまで、そのギーグのラスボス性(凶悪さや個体としての戦闘能力の高さ)が発揮される機会はほとんどありませんでした。
目的が「旅を通じて、主人公=プレーヤーの心が成長すること」だったからではないか、と勝手に想像しています。
いわば、「過程」が目的だったのです。
しかし、このノベライズ版では、明確に「ラスト」=「ゴール」へ向けて重ねられる旅であることが示されます。
一応三人それぞれの「ゴール」が示されているのですが、どうにもアナのゴールの変遷が「?」という感じなのです。
「旅に出る」→「ケンとロイド、どっちに恋をするか選択する」→「ケンを独占する、取られまいとする」→「ギーグを倒す」→「ケンと結ばれる」→「ギーグを倒す」
どうもアナが掲げるゴールが、僕にはこんな風に見えてならんのです。
終盤、ケンと結ばれる事を目標に行動し始める所には、ちょっと突っ込み切れません。
おまっ、それで終わりじゃねーから!!
よく、せっくs、いや性交渉を男女それぞれがどんな風に考えているか、という疑問の際に引き合いに出される一文があります。女性にとっては「手段」であり、男性にとっては「目的」である、と。
そっくりそのまま、性交渉を「旅」という言葉に置き換えると、ゲーム版と小説版、何故それぞれでこれ程違うモノになったかがちょっと分かるような気がします。
何か悪く書いたように見えるかもしれませんが、単純に別物だ、というだけの話です。
作者もそのようにおっしゃってますし、題名を見ても分かる通りです。
しかし、シリーズで三作品しか出していないにも関わらず、世界中で長く多く人気を誇る「MOTHER」というゲーム。
その魅力的な世界観は十二分に伝わって来る小説です。
久美さんだってプロの物書きですから、非常に描写力はあります。
あの頃楽しんだ世界にもう一度触れたいなぁ、と思っても、ゲーム、特にRPGなどはおっそろしく時間を喰う。
ちょっと小説版に触れると、懐かしくて切ないあの世界が蘇るのでは。
「原作に対する愛」の見本として。
➼愛とはべったりひっつけばイイってもんじゃない。『たかがバロウズ本。』
逆に原作を昇華させた例として。
➼闇闇闇。『告白』
eight melodies - 恐ろしいほど心の琴線と涙腺に揺さぶりをかけてくる曲。
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