Subbacultcha

「サブカルチャー」という括りの下、文学・芸術・漫画・映画等について述べます。

2017年12月28日木曜日

このマンガがすごい2017(ダーク編)



こんちわー。年の瀬です。

そんな訳で今年もこのマンガがスゴいを陰湿なヤツが、陰湿な感じで選ぶ。せっまいランキング、始まります。
…特に求められてる訳では無いんですが、何か頑張ってやろう、って毎年やるようにしていこうと思います。今更。
2014 2015 2016

対象は「2017年中に出版されたマンガ単行本のみ」。

去年はホラーに恵まれた年だったなー、なんて思ってたら、今年はそれを上回るホラー大豊作イヤーでした。いやー、素晴らしい。

はい、では俺がビビッと来た10冊、ご紹介します。

ベスト3以外は、順不同・同列です。

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・五十嵐大介 / ウムヴェルト
 『ディザインズ』、他の生物の特徴を備えた、遺伝子組み替え型新世代兵士同士の戦い、新たなる時代の戦争の姿を予感させるSF巨編。と共に発売された同作者の短編集。
こちらも面白いのですが、例えば戦争の新たな形を描いた作品としては『ヨルムンガンド』『虐殺器官』なんかの方が緻密・リアルさがあって好き、1巻だけでは「五十嵐大介作品としての目新しさ」のみだったので、勧める人を選ぶ感じ。

が、この『ウムヴェルト』は現状の五十嵐大介の作風総まとめというか、
『はなしっぱなし』最新ヴァージョン、という感じの、物凄いイメージの大嵐でした。
五十嵐大介を読んだことのない人で、かつ、漫画を読むのに「時間潰し」でなく「凄味」を求めている人ならば必読。

何がそんなに凄いって、
自分は親鸞さん偉いなぁとかニーチェの考え方格好良いよなぁとかシオランの発言は納得しまくれるなぁみたいな、思想としての宗教は大いに認めるんですが、「人間が何かをしたらリアクションしてくれる神様」みたいなイメージはだいっきらいで、何が言いたいかというと、
人智を超えた存在は色んなところに居るのだろうけど、その行動原理・理念は人間のそれで括ることは出来ないもの」と思っていて、
この『ウムヴェルト』における短編達は、「そういう人智を超えたものたちのあまりにも人間と違う感覚を人間の視点から体感出来る」、恐ろしかったり、ちょっとズレにほんやりした気持ちになったり、という、いや、よくそんな感覚を漫画って表現に下ろせたな!五十嵐大介怖いよ!!というものなのです。

「まさよしとばあちゃん」、年を取るにつればあちゃんが小さくなり、その感覚は「小さなもの」に近付いていき、やがて意志疎通出来なくなる話。
「魚」、ほぼモノローグで進む、山に入って異形の子を身籠もる女の話。
「ガルーダ」、特殊な踊りを見せてくれる老婆。老婆の意識はやがて鳥と同化し。

ホラーとは違う、怖がらせようとしてる感覚は無い、けれども、海の暗い部分を上から覗いた時の、山奥の見えない部分からよく分からない声が聞こえてくる時の、あの不穏さが。

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・藤田和日郎/双亡亭壊すべし 6
そりゃあ大好きだよ、大好きさ、藤田和日郎!!
いつだかにランキングに入れたのに、また入れてしまった!絶望した!!(そういえば今年は絶望先生の表紙装丁が凝り過ぎてて遂に絶版にせざるを得なくなった、ってニュースもありました。俺は『かってに改蔵』にちょろっと出て来たパンタローネ様が何者なのか気になり過ぎて、藤田作品を手に取ってしまったのです)


でもそういうエコヒイキ云々でなく、ムシヌユンと双亡亭に関しては、巻数を重ねる毎に世界観を引き伸ばしていくのでなく、世界が広がりを見せ、更なる謎めきを産む、という稀有な漫画なのです。

ちなみに6巻の帯に「前半戦クライマックス」とありますが、1−6巻までの間に何をしているかというと、「主要登場人物が双亡亭に入って、出てくる」だけです。
故に、この件は未だ何も解決する気配が無いのです。

ストーリーの山場は6巻よりも、4巻から5巻にかけての「セイイチの正体は何者か」という部分なのですが、
上手く覆い隠して言うなれば、「どうしても壊れない幽霊屋敷をぶっ潰す話」なのかと思ってたらこの漫画「宇宙戦争」だったんですよ。
で、セイイチは事故的に巻き込まれた小学生に過ぎなかったのに、それでもやらねば、と小学生精神のままで45年も無間の宇宙で、無限に迫り来る敵を倒し続けていたのです

この物語の開始時点で友人を双亡亭に呑み込まれた少年たちが、現職の総理大臣と防衛大臣だったのですが、彼らが私怨でぶっ潰そうとしてるのかと思いきや、
歴代の首相がぶっ壊そうにもぶっ壊せなくて、それは双亡亭が「双亡亭」単体の不思議パワーのものでなく、「無限に等しい宇宙パワーを持ったよく分からん敵」が背後に控えていたためで、
結局現人類の最強パワーっぽいミサイルなんかを打ち込んでも全然通用しなくて、
唯一、「セイイチ」が対抗出来そうだ、というのがようやく分かった5巻。

自分にとって無為な戦いを押し付けられて、でも愚痴も言わずに「やらねば」という気持ちだけで戦って来た少年に、更にすがらねばどうにもならない状況が、申し訳なくて申し訳なくて涙する元総理大臣。
余りにも酷いセイイチの人生に涙する彼に、リンクして思わず涙してしまいました。

また、6巻の、おそらくもう登場しないであろう、「トクナガ理研のトラックのおっちゃん」。
どう見てもただの少年に過ぎない主人公の一人・ロクロウの必死の頼みに、胸を打たれ、全てをかなぐり捨ててトラックを走らせるおっちゃん。
こんな、武器も何もついてない、おそらくちょい役でしか無いおっさんとおっさんのトラックを、見開きに持って来る狂った漫画家が他に居るか?如何に普通に暮らすことが尊いか?その普通さと、その普通を一時的に捨てることの出来る勇気を、きちんと描ける漫画家が、藤田和日郎を除いて他に居るか!!??

…俺はこの先、双亡亭の新刊を読む度に、泣かされてしまう、んかもしれない。

➼力こそ真理。ウーッ!ハーッ!『双亡亭壊すべし 1』『読者ハ読ムナ(笑)』『図書館大戦争』


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・森田るい / 我らコンタクティ

西村ツチカとか真造圭吾とかのニューウェーブ感、コミティアっぽい絵柄だなー、とか思って入る人は良いんですが、出て行く人はちょっと待って、
これめっちゃ骨太な劇画だから

上で「普通な人の普通さ、それを抜け出す勇気をきちんと描ける漫画家は凄い」なんてのたまっておりますが、正にそういう話。…いや、普通でないな。

幼馴染の男にたまたま久々に会ったら、彼は一人で町工場の片隅でロケットを作ろうとしており、会社辞めてぇ、と思っていたカナエは金の匂いを嗅ぎ付けてすり寄って行く話。

凡百の作家ならば、ロケット作りを通して二人が恋仲になったりとか、街の人々の意識を変えて行くとかってストーリーにしていくところですが、
二人でホントにロケットを打ち上げる」ストーリーがブレない。
二人のひょうきんなやり取りとか、それぞれの人間関係の掘り下げを挟みながらも、この作者ロケット作ったことあるんじゃないか?と思えるほどの制作過程の描写や障害の発生っぷり。とにかく人間描写も過程描写も、濃密・緻密。でもキャラの些細な動きのダイナミックさやテンポは、小説や映画じゃダメ、漫画じゃないと、と思わせる画面作り。

読んで無いのでこんな表現持ち出すのはアレなんですが、
「負け組の下町ロケット(しかしあまりに濃密な)」
という作品。

ロケット制作なのにコンタクティ?ヒューイーヒューイーって?

良いんです、読めば。読めばきっと、ラストに主人公達と一緒になって踊ってますよ、ヒュ〜イ〜、ヒュ〜イ〜、って。きっと。



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・諸星大二郎 / 暗黒神話完全版

いや、先生ご本人の意向か出版社の意向かわかんないけど、最近の諸星作品は選集に1編だけ未収録混ぜて売ったりして、ズルイよ!ファンの足元みやがって!しかも暗黒神話ァ?完全版って何よそれェ?…え?加筆修正?元々受注生産限定版だったやつの普及版?そこから更に加筆??
クソックソッ!アーァーァ!足元見やがって!クッソ!買うしかねぇじゃんか!3000円超とかええ加減にせえよ!と呪言を吐きながらもお布施と思いながら購入、開く、読了。
黙らされる。

まず、装丁なんですが、この金額になっても仕方ないというほど凝った装丁になっていて、函から漂う仄かな忌まわしさだったり、作中の非実体に対しては印刷を変えてみたり、ラスト部分はまるまる銀のような印刷だったり、と、今まで見たこともない印刷方法・装丁が、実験とかではなく、きちんと演出として噛み合って居る。

おまけに、その問題の加筆修正が、マニアにしか分からないというような些細なものでなく、作品そのものが膨らむ修正になっている。

あ、この金額で全然いいです。正座。

改めて、週刊少年ジャンプにこれが載ってた時代、ネウロや鬼滅の比でない、異様さが許容されていた幅の広さに感嘆です。

なお、連載中の諸星先生や担当さんの様子が『怪奇まんが道 奇想天外篇』に詳しく描写されており、こちらも合わせることで更に当時の雰囲気に思いを馳せられるかと思います。



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・都留泰作 / ムシヌユン 5

双亡亭の項でお伝えしたように、
ムシヌユンと双亡亭は、巻数を重ねる毎に世界が広がりを見せ、更なる謎めきを産む、という稀有な漫画であり、
勿論雑誌でどちらも追うのがベストではあるものの、それが叶わぬならせめて単行本だけでも。
これらのドライブ感を感じられないなんて、勿体無いですよ。せっかくこの時代に生きているというのに!!

で、この5巻に至り、ようやくこの漫画の目的が分かりました。
隕石と共に降って来る虫型宇宙人とセックスし、相手を爆破して倒すこと」。
変態仮面、ポコイダー、レイプマン、バーストビースト、人妻人形アイ…。
数多のセックスバトル漫画を乗り越え、三条先生もビックリな、異次元セックスバトル漫画でした。
とはいえ、未だ上原くんが地球存亡のために立ち上がるような道筋は見えず、
ひたすら彼のリビドーとそれが明後日の方向に向けられる怨恨イベントが、手を変え品を変え、襲い来る日々。

ようやく彼の優位性が認めかけられるも、やっぱり気持ち悪過ぎて、命をかけて戦わなければ(巨大昆虫とセックスしなければ)ならないのに、本エロは貰えず、頂けるのは「お情けエロ」まで。
しょせんこいつらは全員、超ビンビンがどんなに大変か全く分かってない」!!

…前の巻の、カマキリに乗っかる上原、表紙も酷かったですが、
この巻の上原はアヘ顔を晒す始末。ああ、もしかしてこの表紙絵の酷さはエスカレートしていくのか。

5巻、あまりにもナイスなシーンが多く、終始ニヤニヤしながら読んでしまいましたが、
普段ギャグ漫画を見ても、表情筋が動くかどうか厳しいほどの俺が、声を出して爆笑してしまったシーン
「あの人ならカマキリを退治できる…と。」
「ど…どうやって!?」
「そ、それは、口ではちょっと言えないですけど…」


➼このマンガがすごい2014(ダーク編)
→2014年では2位に入れてますが、面白さが下がっているのではなく、この刺激に慣れ・病みつきになっているだけです。恐れず今からでも買いましょう。たったの5巻です

➼最近買って良かったなぁ、と思った絶版マンガ電子書籍4作品
→作者の前作『ナチュン』も大奇作なので必読ですが、ちょっと集めるの大変なので電子で是非。

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・江野スミ / 亜獣譚 2

人が異形の怪物に変異する「害獣病」を前提とする世界観。
一見、その龍のような怪物「害獣」を挟むダークファンタジーの様に見える物語ですが、2巻にして、いやあるいは最初からそうだったのかもしれませんが、その根幹の物語は「恋愛譚」となります。

害獣に愛を抱いた少年、恋愛感情の存在を否定し少年を性欲の対象とする男、弟を助けるために身を捧げた筈も男の心の傷・弱さ・感情に触れ憎しみが仄かな恋に変わり始める姉、姉の優しさに付け入るもその人間性に救いの欠けらを見出す男。

前作『たびしカワラん!!』でも、一見とんでもギャグの様な入りから、人と人との繋がりは全て一見偶然の様で全て必然であること(同じく真逆の様にも言えること)、無理やり言うなれば、主人公を男女に設定したために「超変則恋愛譚」的収まりを迎えた物語、と言えましょう。

何となくですが、カワラんにおいて、「運命論的意味付けでの男女関係」が描かれたことで、本作では「偶然は必然を越えることが出来るのか?」へ乗り込んでいく様な力強さを覚えました、2巻。
とまぁ、小難しいことを考えずとも、エンジョイ&エキサイティング (黒犬騎士団心得より)的観点からも、ゴォリゴリでますます楽しい作品になっていくことを予感させます!




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・竹良実 / 辺獄のシュヴェスタ 6


友人がオススメのあまり、3巻まで俺に購入してくれたのが5巻発売直後くらいのタイミングだったのですが、いやぁ、これはオススメ頂いて非常に良かった漫画でした。

16世紀の神聖ローマ帝国が舞台。「魔女狩り」により罪無き人々が修道会により次々と処刑されていく中、村の賢者として頼られた母を処刑され、「魔女の娘」の烙印を押されたエラは、同じ様な「魔女の子供」達を集めた女子修道院に収容される。

人のために尽くしたにもかかわらず、尊厳を奪われて殺された母の仇を討つために、修道会の総長の命を狙うために己の全てを費やそうとする娘の復讐譚です。
修道院からの脱出を計る娘たちと協力関係・仲間になり、やがて彼女たちは修道会そのものを滅ぼすことを計画します。

復讐の完遂を糧に、圧倒的に巨大な組織のトップ目掛けて走り続けるエラの姿は、あまりにもまっすぐであまりにも力強く、読む者の胸を熱くさせます。

この魔女裁判を牽引する「修道会」「修道女」「総長」たちがめちゃくちゃ卑劣なんですよ!卑劣!卑劣で強大な敵の組織!
公衆の面前で裸にして人間であることを辞めさせる・江戸時代の五人組の如く自分達で自分達を監視させるシステムを敷く・食事に薬を混ぜ思考力を奪って抵抗出来なくさせる…とか序の口ですからね!
時間が経過するほど悪くなっていくようにすら見える状況の中で、エラはその目の輝きを失わず、鋼の様な意志で体を動かし、強い言葉を吐きながら、仲間たちを引っ張って行きます。

そうやって後ろから投げつけている限り 一生かかっても、前を向いている人間の顔は汚せないわよ。


で、6巻時点で、まるでベルセルクのガッツさんを思い起こすかのような顔ぶりになってしまうのですが、いや、あくまで彼女は少女故大剣を振るったりはしませんが、それでもガッツに劣らぬほどの強固な意志で以って、この物語を駆け抜けます。
その終わり方については言及しませんが、最後の台詞の格好よさと言ったらもう、万人が胸を震わせますよ。ええ。

…これで初連載だってんだから、鬼才ですよ、この人は。


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第3位
・久正人 / エリア51
小学生の時に、周囲のちょっといけすかねぇ奴らがコロコロを経てジャンプを読み始めてた頃に、何を思ったのか俺はボンボンを手にしてしまい、皆がポケモンをやってる頃にごくわずかな友人とメダロットをし始める、という絵に描いたようなインディー小学生時代を送って来たのですが、
特にそのボンボンの中でも沁みたのが、メダロットと王ドロボウジンでした。長じて、俺がマガジンZに興味を持ち始めるのも、自然な流れというものでしょう。

マガジンZから一通りキングオブバンディットジンの単行本が発売され、
ほんで次にこんな格好良くて、イカした台詞回しの漫画は無いのかしらん?とマガジンZコミックスをためつすがめつしたところ、何か異様なコントラストで描かれた、これまで見たこともない、読みづらそーうな漫画があったんですよ。
久正人『ジャバウォッキー』
読み始めて驚きました。こんなに見たこともない漫画なのに、この漫画は俺が大好きな漫画だ、と。
表の歴史では滅んだ筈の恐竜が独自の進化を遂げ、人間の歴史を影から操り続けていた、という厨二心くすぐる「世界の真の姿」を描くストーリー。幼稚園期に恐竜博士となった俺をワクワクさせる多彩な恐竜デザイン。サバタとリリーによる否応無く胸ときめくスパイアクション。アメコミを意識した様な白黒の強烈なコントラスト。
一気にファンになってしまった。

と、前置きが長くなりましたが、
久先生の長編4作目、足掛け6年の連載、『エリア51』が完結、最終15巻が今年発売されました。

世界中の神・悪魔・妖怪・モンスター・UMAを集めた、アメリカ51番目の州にして特区、「エリア51」で起きるドタバタ劇。
…と表現すると、何だか『血界戦線』の様な楽しい世界観が見えて来ますが、
最初から最後まで本作は、人間「マッコイ」の奪還・復讐劇でした
ドタバタは、彼女が探偵を生業として、その復讐への判断材料を増やすために産まれる副次的なものに過ぎず、作品の本質は常に「怒り」と「後悔」だったのです
あの時もっと力があれば。あの時もっと選ぶことが出来れば。

14巻より、いよいよ復讐相手が見つかり、物語がラストスパートに入るのですが、入ってからがまた胸を焦がす様なシーンが沢山あって。
以下の画像は15巻中でもかなりグッと来た見開きシーン。

私はずっとこの街を…!隅から隅までずっと走り回ってきたんだから!!


マッコイは「主人公」に過ぎず、「ヒーロー」ではありません。
総まとめのような背景になってはいるものの、この後ろで描かれているキャラや街に住む無名のキャラ達が大量に死んでいっているシーンでこんな見開きが挟まれる。
マッコイは誰も救わない。己の目的達成の過程で、誰が何人死のうが構いません。でも彼女はこのために、この物語を積み重ねて来た、というのが正に「最終巻」で、ジーンと来てしまいました。

またちょっと話がズレますが、
『Hellsing』という漫画が自分の「泣いてしまう10大漫画」のひとつで、
何に泣くかというと「化け物である主人公に対抗するために、好敵手が化け物に姿を変える」シーン。
主人公が「化け物を倒すのはいつだって人間だ」と変異した好敵手をあっさり倒したあと、「お前は、俺だ」と泣きそうなほど顔をクシャクシャにするのです。
「化け物だから泣くことが出来ない主人公が、死んでいく好敵手に、共感を吐露する様」は、あまりに孤独で。

最終巻において、マッコイは「化け物になること」を選択します
その姿はあまりに痛々しく、その結末はあまりに悲しい。けれども「そうしなくてはならなかった必然性」がきっちりと描かれていて、久先生は意地悪だなあ、と思うし、最終場面や特典冊子でのキャラクター達の姿が切なくて切なくてもう。

非常に納得出来る結末を迎えた作品で、後味も良い素晴らしいラストシーンが用意されていますが、それでも、最初から復讐譚であったとしても、この楽しい物語の辿り着く先がこれであったのは、悲しかった。
でも、ありがとうございます、お疲れ様です、久先生。



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第2位!
オガツカヅオ・星野茂樹 / ことなかれ 1
 めんどくさい話をしよう。
「ホラー漫画」という漫画のジャンルがあり、「ホラー映画」という映画のジャンルがある。
勿論、「奇妙なものが見たい」という自分にとっては、どちらも喜び駆け寄る摂取対象ではあるのですが、
たとえば「ホラー漫画を映画化したもの」・漫画的表現を無理やり実写で再現しようと挑戦するものだったり、
「ホラー映画から影響をバリバリ受けた漫画」・画面を埋めるために無闇矢鱈と流血表現を増やしてみるとか、
それぞれの媒体で得意とするものが違うのだから、「再現」したところで、その技術すごいね、としか言いようがなくて、結局それなら元のやつの方が良いなぁ、としか思えんので、漫画は漫画にしか出来んことを!映画は映画しか出来んことを!やってくれ!!
…と横暴な摂取するだけの人のコメントを吐いてみたりするのです。

で、何でそんな話をわざわざ出したかというと、
『ことなかれ』はホラー漫画名作。ホラー大名作。
正に「漫画でしか出来ないこと」で以って「ホラーを作り上げている」、お手本の様な作品なのです。

怪異な事象に対処する市役所の一部署「ことなかれ課」の活躍。
心霊現象や怪物をバッタバッタ倒していくのではなく、
所属員のそれぞれの特殊能力で以って、起きた事象の原因・真実を暴く、のが本筋。
その意外性や、奇妙さに、ホラー的喜びが溢れておるのです。

でも!まだこの喜びは終わらんのです!何故ならば!1巻だから!!
良いところで尻切れになったので、コレか次のかでかなり今年ベスト単行本どちらにしようか迷ったのですが、1冊での完成度、というところで次のやつを個人的ベストワンとしました。
とはいえ、こちらも素晴らしいホラー漫画でした!ちょくちょく連載追ってるのですが、雑誌で読んでも単行本で読んでも、同じ驚き・同じ面白さで読める完成度の高い短編群ってのもすごい!

ちなみに、「血が出ないのにしっかりホラー」な オガツ先生の作品群ですが、『ホラーコミックレザレクション』収録「かぐやひこ」はかなりの怪作なので、未読の方は確実にゲットしておきましょう。1回読んだだけじゃ、全く分からぬ。


➼ブログ内「オガツカヅオ」関連記事
➼オガツカヅオ・星野茂樹『ことなかれ 1』
➼アンソロジー:金風呂タロウ、祟山祟、オガツカヅオ、稲垣みさお等『ホラーコミックレザレクション vol.1』


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第1位!!

・黄島点心 / 黄色い悪夢
あれ?おかしいな、この「このマンガがすごい」、バグってんのかな?
おかしいな、黄島点心が入ってない黄島点心が入ってないぞ!!! 

漫画を広く評価するメディアにおいて評価されてないなんておかしいぞ!!
と叫び狂いたくなるほど、今回の黄島点心はヤバい。
「奇想ホラーの魔境へ」なんて帯に書かれているように、
奇想」「ホラー
がこの単行本の大体の属性といったところでしょうか。

とはいえ、変であること・怖いもの(奇妙なもの)がでてくること、だけで黄島点心のホラーは終わりません。
「ホラー」が発生するには、「人の思い」が無くてはならないのです。
たとえば誰も知らない宇宙の彼方の惑星で奇妙奇天烈な宇宙人が暴れ狂ったとて(あ、ファンタスティックプラネットか!それ!)、それは奇妙奇天烈に面白い事象に過ぎず、怖さは存在しません。

愛が、憎しみが、欲望が、拒絶が、執念が、
人間の持つ精神のエネルギーが爆発し、その爆発っぷりが理解出来るかどうかのラインをほんの少し超えたあたり、
「理解」と「よく分からない」の境界線をよく分からない側にちょっと傾けたところに、奇想ホラーが!黄島点心が!!待ち構えているのだ!!!

特に読んで欲しいのが、「鉋屑」と「血に落ちる」。
どちらの短編も、叶わない思いが黄島点心の爆発力を得て、運命と人とを貫く名品です。
面白い漫画が読みたい、という人にもオススメしたいところですが、
それ以上に、どうしようもないやり切れなさを抱えた生き辛い人間にこそ、このとてつもないバカバカしさと熱を兼ね備えた単行本を読んで欲しい。


以下、黄島点心作品について。特に読む必要も無い駄文に費やす時間などない、すぐさまアマゾンのカートにぶち込むんだ。
➼黄島点心『黄色い悪夢』
➼黄島点心「断末夢」
黄島点心「鉋屑」
黄島点心『甘露に肩想い』



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以下次点。

谷口トモオ/サイコ工場A線・Ω線 劇画狼さんすごい。めっちゃすごい。この新たに生まれた『サイコ工場』に、畏怖畏敬の念。ただ、元の単行本を持ってる・事前に騒ぎ過ぎた(WEBで掲載作品を読んだ)・作風(山本ニューさん曰く、超ハイクオリティーな駄菓子)のせいか、面白いは面白いけど単行本で読んだ時の感動は薄かった。忘れた頃にまた読んでみよう。

恐ろし屋黒ノ書 恐ろし屋書籍化。似た様な経緯の『コミックガンマスクリーム』と比べると、掲載作品の質なんか格段に上。本として面白い。けども、コンビニ本故、また元メディア故の雑多さのせいか、「本という物質として」愛せるほどの熱は無いなぁ、というところ。とはいえ、今後書籍化の怪しいあの名作や名作を、本という形で出版してもらったことに関しては感謝感激雨あられ。

・ホラーコミックレザレクション 別記事にて詳細を書いたけども、とにかく内容は最高でした。内容は。

小林銅蟲/寿司 虚空編 空前絶後の「巨大数漫画」。入り口の方はまだ頭使いながら読めるのでギリ「シュール漫画」でなく「思考漫画」として読めていたのですが、やっぱりさっぱり分かんねえ。というノリを連載時は1話1話ゆっくり進めていったので感覚的面白さがあったのですが、本で一気に読んでしまうと、「分からない時間が自分の上を過ぎて行く」という、分からない体験を体験する漫画みたいになってしまって分からなかったあです!

吾峠呼世晴/鬼滅の刃 9 一話毎の少年漫画的短さのせいなのか、連載当初よりも話がスゥッ、と抜けて行く感じ、引っかかりにくい。前巻の煉獄さんも確実に「引っかかるべき所」の筈が、特に何の引っかかりも無く退場してしまった。ムキムキネズミに出会えてありがとう。

中野でいち/hなhとA子の呪い 2 愛と性欲の境目について。人間の気持ちの変化について。恐ろしい歪みっぷりの構図が、次々に読者の心へダメージを与える!尖り過ぎた絵とキャラクターによる、超ねっちょり愛憎劇で、同作者の『十月桜』どころではない熱量に圧倒されたのですが、割に結論があっさりしていて、気持ちの持って行きどころが無いというか…。でも良い終わり方。

藤本タツキ/ファイアパンチ 7 ファイアパンチがファイアパンチで無くなったつかの間ののち再びファイアパンチとなる。自分という存在の不確かさ。序盤の人肉食や近親相姦で食いついていた層は、今もこの漫画を読んでいるんだろうか。凄まじく暗く、誰も救われない話に近付いていっているけども、これはかつて楳図かずおが14歳や漂流教室でやったような、個人の視点の描写から世界の形を探ろうとしてる、恐ろしいスケールの漫画になりつつあります。終わって欲しいような、終わってほしく無い様な。

阿部共実/月曜日の友達 1 「死に日々」の2巻で見せた、世界の美しさを写し取ろうとする様な激しく静かな描写を越えようとする様な、幻想的なシーンが頻出し、子どもとも大人とも付かぬ時期の不思議な温度感が上手く客観的に描かれています。が、転びそうで転ばぬ不穏な雰囲気のまま、どうもならずに1巻が終わったので、この先を読むのが怖くて怖くて…。

中山敦支/うらたろう 4 全6巻。なのに何故4巻を推すのかというと、1部が終了して5巻から2部、の筈だったのですが、どの段階かで打ち切りが決まった様で、6巻の畳み方は無茶苦茶「打ち切り漫画のソレ」でした。人には勧め難い終わり方になりましたが、それでもその死と生をあらぬ方向から追求するこの漫画に、俺は首ったけになりました。なので過去作にちょっとでも興味ある方ならちらと読んでみなせ。ありがとうございます、中山先生。 

山本章一/堕天作戦 3 ガンダムがなんで名作足り得たのか、という一つの要素に、「ジオンにはジオンの正義があるから」をきちんと描いたからでないかと思うのですが、『堕天作戦』はいよいよ「彼の物語は今や彼だけのものでなく、そしてこの不死譚は正義の物語ではない」という文言通りの物語になって来ました。この巻では、主人公アンダーの戦いが描かれることはなく、名前だけだったあの強キャラがどんなヤツか、また、すぐに退場したはずのあの人がまた出るとか、ともかく「多様な視点」が描かれます。ほぼ何も起こらないのですが、ワクワクするんです。アンダーがどんな道を歩んで行くのか。

まぁ大体記憶に残ったのはこんなところかなー、と思います。
今年はそんなに量としては読めてない感じですが、「えっ!?それまだ、評価出来る様なところまで話進んでなく無い!?」と、人様というか、メディアの、何作品かの漫画への評価が早過ぎるのが気になった年でした。いや、自分が好きならそれでいい、んですけどね。
でも、冒頭にも書きましたが、良いホラー漫画が沢山出て、嬉しい年でした!!

ではでは、よいお年を。

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