Subbacultcha

「サブカルチャー」という括りの下、文学・芸術・漫画・映画等について述べます。

2010年8月25日水曜日

当人にとっては大スペクタクル『トゥー・エスプレッソ』



もうすぐ九月だというのに滅茶苦茶暑い。
何処までエアコンを使い続ければ良いのか。
面白そうだなと思って買った漫画が秋っぽい雰囲気を湛えていて、もうすぐ九月だという事を思い出しました。

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フランス人漫画家ベンジャミンはその道の大御所的存在。だがそれ故に作品へのモチベーションが低下し、自堕落な生活を送っています。
モチベーションを取り戻すため、彼は売れる前にパリで一晩限りの関係を持った日本人女性に逢いに行く事を思い立つ。

彼女の残したメモによって、愛知県の寂れた町に辿り着くベンジャミン。
そこで出会った喫茶店の店主にまっずいコーヒーを飲まされる。
もうちょっと何とかしろ、喫茶店的な意味で、と思ったベンジャミンは彼に助力しながら、思い出の彼女を探すことに。

例えば、下手な少女漫画では有り得ないイベントが頻発します。
起こったらいいな、と誰もが願う様な理想的なイベント。構成力が無い為に。

例えば、下手な萌え漫画では有り得ないハイスペックなキャラが登場します。
側に居ると誰だって惚れちゃうだろう、良い感じに穴のある性格と穴のない外面。描写力が無い為に。

僕は初めてこの高浜寛という人の漫画を読みましたが、絵もストーリーも台詞も演出も非常に上手い。

音楽を非常にプロフェッショナルにこなす友人が言っていましたが、本当に上手い人はその技術力の高さをリスナーにあえて見せ付けず、分からない様に潜ませる、と。正にそれです。うお、これはっ!という一コマや一生忘れられない名台詞がドカーンと登場する訳でもありません。

まるでズボンの裾を踏んだままの様にズゾッズゾッと物語は進んでいったかと思うと、終盤、一気に装いを正して一気に走り抜けます。最後の展開には思わずやられた!と思った人もいるんじゃないでしょうか。
テンポ、台詞回し、コマの使い方のセンスの良さ。良質な映画を見ている心地良さを味わえます。

恋愛というのは人生のイベントの中でもひどく個人的な体験です。
だからこそ、感情移入しやすく、一方で感情移入しにくい。

当人にとっては人生を左右しかねない問題でも、他人から見れば「お前の問題でしかない、俺には関係ない話」だからです。自分の問題ではない話は、他人にとって「物語」でしかないのです。そこを取り違えてしまうと、非常に押し付けがましい、恋愛漫画になってしまいます。そうした漫画に涙し、感動するというのは、投影、結局自己陶酔なんじゃないかなぁと。ティーンの女の子ならともかく、ちょっとした大人がそうやって酔ってる様は少々滑稽。

トゥー・エスプレッソは、その極度な感情移入を拒み、さらっと読者に読ませる「力」があります。
読者に感情移入を気付かせないのです。
その感じがオサレ映画を観ているような感覚を与えます。決して、強い感動や滝の様な涙を引き起こす漫画ではありません。しかし、読む人をほっこりさせるその温かみは、恋・愛をテーマとして用いながら、本書を恋愛漫画から一歩踏み出した人生漫画ともいえる境地に到らせています。

少年でも少女でも青年でもレディースでもなく、「大人」の為の漫画だと思いました。


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