Subbacultcha

「サブカルチャー」という括りの下、文学・芸術・漫画・映画等について述べます。

2011年8月8日月曜日

日本で完成するチェコのシュルレアリズム『「ヤン&エヴァ シュヴァンクマイエル展 the works for Japan」:京都文化博物館』


最近、無茶苦茶なコラージュの手法で問題になった「カオス*ラウンジ」という団体がありましたが、
コラージュという技法そのものは非常に面白いものです。

MADアニメしかり、サンプリングしかり。
ただ其れによって、他人が必死で作り上げたもの勝手にバラバラにして、
再構成して、其れを「作品」として主張してその売り上げで飯を喰う。
となると芸術や思想がどうこうという話では無くなって来るように思います。

まぁ別段その問題を意識して観に行った訳じゃないんですが、
既存のイメージをコラージュする事で悪夢的な世界を創り上げる、
チェコのシュルレアリズム作家、シュヴァンクマイエル(夫妻)の京都展覧会に行って参りました。
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僕はシュヴァンクマイエルの映画作品を二つほど(『アリス』、『オテサーネク』)観て、
「何故いつも見ているモノの見せ方を変えるだけで、こんなにもグロテスクに感じるのか?」と不思議に感じていました。

今回の展示は、
ルイス・キャロル『アリス』新装版・江戸川乱歩『人間椅子』・小泉八雲『怪談』の挿絵の原画、
彼の新作映画『サヴァイビング・ライフ』のコンテとスチール、
三島由紀夫の写真集を作った写真家・細江英公によるシュヴァンクマイエルのポートレート写真(↑画像)、
シュヴァンクマイエルが石燕の百鬼夜行絵巻等を参考に描いたと思われる下絵を元に、日本の刷り師が仕上げた木版画、
その版木
が飾られています。

精華大学の生徒が会場を仕上げたらしく、
『怪談』の挿絵が飾られている個所などは素晴らしく不気味。
蓮の実をあんな使い方するなんて…

原画、とは言っても、彼の作品の多くはコラージュによる作品であり、
現物を見ても写真を見ても、多分感動に大差はないかと思います。
デュシャンの便器を観ても、歴史的感動しかないのと同じ様に。

ただ、そのアイデアには驚かされます。
何故組み合わせでこんなに衝撃的なモノが見えて来るのか。
ベンヤミンの述べる「本来の使用状況から抜き出された」数々のモノ、
人間の身体の部品であったり、
台所用品であったり、
生き物の身体だったり、
毛皮だったり。

正に其れは「現代芸術」そのもの。
多分日頃目にしているであろう筈のそれらに対して、
うわぁグロい!!
気持ち悪い!
何か面白いなコレ…
等の感想を持ってしまったなら、あなたはシュヴァンクマイエルに負けてしまっています。
自分達の生きている、日常を形作っているモノ、
其れが如何に奇跡的に今ココに在るか、如何に多様なモノが同時空に存在してしまっているか。
そうしたモノに気付かされてしまうのが現実を超えた現実、シュールレアリズムの芸術の、もしくは現代芸術の持つべき作用・機能なのです。
多分誰もが「グロい」という感想を持ってしまう。
其れは別段血とか臓物とか生殖器とか。そうした一般的にグロいとされるモノを並べ立てるのではなく、
グロくないモノとして日頃触れているモノをそう思わせてしまうからこそ、
シュヴァンクマイエルは一流のシュルレアリストなのです。


ただ、彼が作品によく潜ませる政治性のようなものは今回の展示作品からは全く感じなかったのですが、
それは僕のアンテナが鈍いせいなのかどうかは俺にはよく分からんぜ。

まぁ多分、挿絵が載ってるという絵本を買って、何回も触れるべきグロさなんじゃないかと。
というか絵本を買えば、別段今日ここに来る必要はあまり無かったなぁとも。

観れて良かったなぁ、と思うのは木版画。

正直な所、制作過程のVTRと、版木が展示されてなかったら
ふーん、面白いなぁ、で素通りしてしまった所。

いや、ニポーンジン、アタマオカシイヨ!!
だって絵の本体に彩色すりゃ、描き加えりゃ一発なのに、
一枚の絵を、色別のパーツに分けて、一色毎に一枚の版木に分けて、どころか色の濃淡で版木分けるんですよ!?
そんで版木に絵具を塗って、紙にそれを押しつけて、あのー、バレンって言うんですか?スーリスーリとやって、完成。
いや、でも飛ばしたけど、版木に紙押しつけて、つったけど版木百枚位あるからね!?百枚以上の版木を、丹念に丹念に一枚の紙に押し付けてって、完成。もう、そんなん一枚仕上がる毎に歓声ですよ。ほんま。
で、完成した三種類、各百枚限定で販売されております。
45,000円也。

僕は高くて買えませんでしたが、制作過程を見たら高い買い物で無い事は一目瞭然。

映像の中で、
その刷り師のおじいちゃんが刷り出しの作業をしながら、通訳を介してシュヴァンクマイエルに物申してたのだけど、

「今度先生(シュヴァンクマイエル)が下絵を描かれる時は、もっと簡単な絵にして下さい(笑)
こんな偉い先生に物言えるのも職人ならではですな(笑)」

と。
とてもキュートな雰囲気ながら、職人としての誇り、気質を感じさせる台詞でした。

あともう少しだけ感動した点を述べておくと、

・シュヴァンクマイエルの江戸川乱歩についてのコメント。
「各国にポーが居る。日本では江戸川乱歩。」

・細江英公とのコラボレートについて。
「細江さんはエヴァ(*2005年に亡くなっている。)と、出会わせてくれた。私はエヴァを私の中に感じていた。」

・『怪談』について。
「私は怖がらせるのが大好きだが、怖がるのも大好きだ。」

一緒に行った友人は、ともかく『サヴァイビング・ライフ』内の、向かい合った建物の窓と窓から伸びた舌としたとが絡み合っているワンシーンが印象的に焼き付いたのだそう。

シュヴァンクマイエルの、無尽蔵の空想力と、そのイメージの具象化力、
そして、日本の伝統文化の妄執力に恐れ入った展覧会でした。



「ヤン&エヴァ シュヴァンクマイエル展 the works for Japan」
会場:京都文化博物館 別館
期間:2011年7月22日〜8月14日 開場10:00〜

◯前後期共通前売券 
1,500円(大人)/1,300円(大学生)/1,100円(中高校生)/12才以下無料
下記にて販売中です
<通販> 
月眠ショップ
<店舗>
京都精華大学 購買部 (大学生のみ)
京都精華大学 kara-S (全券種)
大阪芸術大学 映像学科研究室 (大学生のみ)
月眠ギャラリー (大人・大学生のみ)
panorama (大人・大学生のみ)
◯当日券
800円(大人)/700円(大学生)/600円(中高校生)/12才以下無料
http://www.svankmajerjp.com/works/art/jan-and-eva/

『ジャバウォッキーかもしれない』

完全に著作権的にはアウトだけど、でも、予想外の素敵なコラボレート。


「芸術」、特に「現代芸術」に関してざっと述べたもの。
➼芸術とそうでないモノ『かっこいい自転車』 「芸術」の内と外について。
➼芸術の内側と外側『アール・ブリュットをめぐるトークシリーズVol.1:アール・ブリュット作家の共通性と個別性 斎藤環』





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