怪奇を語るのは楽しい。
其れは日頃見えている現実の裏側を覗くような、覗き趣味的な、
もしくは一種闘争本能的な血を求める感じというか、
忌避しているからこそ死っぽいものに憧れるというか。
オカルト趣味って実は底抜けに「楽しさ」を求める行為でもあって、
結構明るい趣味だと思うんですよね。変な話ですけど。
この『夢幻城殺人事件』には、そうした楽しいオカルトが溢れ返っています。
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作者と同名の探偵・陰溝蠅兒が活躍する短編集なのですが、
全然探偵としての役目を果たしていません。
いわゆる推理っぽいものを披露してくれるのですが、
お前それ答え知っとらんと分からんだろ!という神の視点の持ち主。
殺人事件もポンポン進行していくし、
犯人は確保出来ず去って行く。
探偵と言うよりは狂言回しといった立ち位置のキャラクターなのです。
推理っぽいもの、と言いましたが、
なんというか「話しに一貫して筋が無い」のがこの短編集の特徴です。
探偵・陰溝が事件=奇妙な状況に放り込まれ、
一応推理らしきものを披露して、一応事件の終幕。
ただ、探偵小説風の世界観ではあるものの、
「探偵」「推理」を描きたい作品では無いのだと思います。
其処に登場するモノ、殺人事件、謎めいた人物、ゲシュタポ、近親相姦、狂人、地下帝国、爬虫類、オカルティズム、人形、鉄仮面、小人、五芒星、魔道書、没我感、魔王、鏡の部屋、自動装てん式拳銃、幻の宝玉、不具者、蝙蝠、仏蘭西麺麭…
羅列しただけの、この言葉の群れから、何かの雰囲気を感じ取れる人。
そうした人にとって陰溝蠅兒の描く世界はたまらなく心地よい筈です。
話に筋が無いからこそ、話の前後関係や構造、展開に気を払う必要が無いからこそ、
其処に流れるオカルトな、耽美な、ビザールな雰囲気が、ただ心地良く流れ込んで来る。
江戸川乱歩、横溝正史のような探偵小説、眼球譚や澁澤龍彦のようなエログロの、論理や物語構造では無く、「何かの雰囲気」が好きな人に、もっと知られるべきマイナー漫画です。
無秩序に飛び交う五芒星、枠線の代わりにコマを縁取るツタ。
行き過ぎたゴシック趣味は、一体本気なのかギャグなのか?
魅力的に、楽しく狂った世界観が其処に在ります。
楽しいエログロナンセンス。
➼ずんどこ耽美、ポップに残酷を楽しむ『創世記』
シュールってなんぞ。
➼シュールか、グロテスクか『テハンノで売春していてバラバラ殺人にあった女子高生、まだテハンノにいる』
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