Subbacultcha

「サブカルチャー」という括りの下、文学・芸術・漫画・映画等について述べます。

2024年12月11日水曜日

界賀邑里『たまわりの月』

怖さ:☆☆☆
造型:☆☆☆
状況:☆☆☆
☆満点作品です!

界賀邑里、初商業連載作品。...ながら、全3巻中1巻のみ紙の単行本としての発刊となり、受容者の自分は「残念だなぁ...」位の感じでしたが、長年コミティアに出展されてる著者の方のリアクションは、傷ましいものがありました...。のちのち、何か別の契機で火が点いて、引き返して紙の本が出たり、というミラクルな展開が有って欲しいもの。

…はい、それはそれとしまして。
同人作品で、幾つかの単巻と、二つのシリーズ作を打ち出し、それぞれがやんわりシェアワールドとなる作品を打ち出して来た作家の商業連載は、やはり展開に差し障りが無い程度に過去作と世界観を共有していました。

廃墟となったホテルの再建工事のバイトに応募した四人の大学生。…が、うち一人は「呪いを継承する事で栄えて来た家系」琵田積家の娘であり、「月をモノ・存在として繋留する事で栄えたものの結局月は死んで月の呪いを受けた一族・場所」という廃ホテルの属性と折り重なってしまい、何か無茶苦茶になっちゃうのだった...。と頭悪く説明するとこんな感じの話。個人的には「月を生物的に扱う」という物語の根幹部分の斬新さに痺れてしまいました。

「呪い」による現象、またそれを受けた人間の反応に、オカルトものとしての納得度が非常に高い作品でしたが、もう2点だけ。

・主人公の庇護者、従兄弟の霊能者、淼骸(びょうがい)
「見え過ぎる」ために糸で縫った眼、リサリサ先生よろしく有用なため巻かれたストール、ヒゲの壮年、のナイスガイ!ビジュアルが良くて痺れっちまう上に、状況を理解しつつも「普通の人間」としての振る舞いが、とてもとても...。

・異常状況を描きつつ、「人間」を描いている
呪い・心霊という超常現象に人間達が狂わされていきながらも、不安定になった事で各々が隠していた本性がまろび出てしまうだけ、そうした人間が普遍的に持つ悪性...に対する淼骸の親友・幼馴染の湖南が持つ善性の尊さよ...。

人間のルールでは理解し切れない出来事が多々吹き出しながらも、その中で「人間」が描かれるのが、とても良かったです。



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