Subbacultcha

「サブカルチャー」という括りの下、文学・芸術・漫画・映画等について述べます。

2016年12月13日火曜日

犬木加奈子『不思議のたたりちゃん』


犬木加奈子『不思議のたたりちゃん』
怖さ:☆
造型:☆☆☆
状況:☆☆☆



一発で読者をビビらせる、ビビらせなくてはならない、という属性を持たざるを得ない「ホラー」というジャンルにおいて一時代を築く連載の長さを誇る、犬木先生の代表的作品。

暗い風貌・不景気な態度から、どこに行ってもいじめられてしまうカリスマいじめられっ子・神野多々里(たたり)。
心優しくも鈍臭く、イマイチ社会生活に馴染めぬ彼女は周りの加虐心を煽ってしまうのか、学校でも私生活でもとにかくいじめられる。
そうした自身の境遇を運命であると受け入れる(強い)彼女も、時折怒る。自身の行った善行・栄誉を奪い取られる、弱い生き物・弱い立場の人間への積極的な攻撃、いじめを通り越した人間否定攻撃。
怒った彼女は叫ぶ。「たたり〜〜〜〜」
その叫びをスイッチとして、対象者には怪奇なしっぺ返しがお見舞いされます。
が、大抵の場合はそれでスッキリ、というものではなく、結局別の角度から攻撃が加えられる・たたりちゃんが手に入れかけたものを全部失う・対象者はそのエピソードに出て来たっきりまた違ういじめっ子が休む間もなく現れるなど。

たたりちゃんそのものは漫画の主人公とはいえ、極端に何かが足りないとか、逆に好きなように仕返し出来る能力があるとか、「主人公として特殊な何か」は特に持っていません。
友達が作りたい・学校生活を楽しみたい、けれども要領もタイミングも悪く、人と上手く関係性を築けない。

たとえば、いじめっ子への恐ろしいリベンジ(殺害上等というか、殺すところがまずベーシック)を爆発的に行う「ホラー漫画」という作品群においては割合地味で、
彼女の問題(いじめ)への対処法を見ても、爽快感とか、代わりに晴す鬱憤とか、そういったものは何にも得られないのです。

けれども、その彼女の平凡さ・そして後に続かない復讐劇。
犬木先生のメッセージが至る所に仕込まれています。

「どんなに周りの世界が荒れ狂っていても自分の世界を持て」
「いじめるヤツも結局ただの人間だ」
「怖い目に会わせられるのは漫画の中だけだ」
「自分の積み重ねたことがどんな形であれ自分の中に積み重なっていく」
「怒る時は怒れ」
「どんなに暗い道のりも歩いていけばいつか理解者は現れる」

と色々と書きましたが、スプラッタ的魅力はこの作品には無く、コレは「犬木流の勇気を与える書」だよなぁと思ったのです。
勿論ホラー要素も含んではいるのですが、それよりももっと大事な人間的な何かが沢山詰まっている。
ブラックジャック、火の鳥、はだしのゲンなんかと共に、学校の図書室にひと揃い置いておくだけで、随分救われる少年少女が居るんでわ。


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